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いち、に、の姉妹論。  作者: 陽向夏月
保護者の章
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ニコ編 前⑤ ノドまで出かけました (改訂版)


 初日はあのまま夕食をご馳走になってお開きになりました。すっごく美味しかったです!


 それで、今日の予定なんですが。

 午前中はまた領主さまたちとの話し合いで、午後は一応自由時間らしいです。

 領主さまの仕事の関係で午前しか時間を空けられないからって朝食のときにジェードさんが教えてくれました。


「ニコー。入るぞー」

「ちょぉおっ!! 乙女の部屋にノックなしで入るな!」

「オトメ? あ、髪降ろしてると確かに女っぽいな」


 どういう意味だ、この野郎……っ!



 少々すったもんだがありましたが、迎えに来てくれたロードくんの後ろに付いて昨日の部屋に行くと、書類に埋もれた領主さまを発見。

 一瞬死んでいるのかと焦りました……。ベリルくんなんか爪が食い込むくらいに私の腕を握って固まりましたよ。

 こちらの心配をよそに自力で難なく這い出てきたので、これは領主さまの日常なんだなと理解。でも、イケメンに夢見る乙女としては紙束の海をモゾモゾと動く姿はちょっと……。見た目も中身も文句なしにカッコイイはずなのに何か残念に感じました。


「……昨夜は眠れたか?」

「はい! もうグッスリです! 起こされるまで爆睡してました」


 椅子を勧められので遠慮なく座らせてもらいながら元気にそう答えると、領主さまの眼元が若干和らぎました。

 アレ? 笑われるような言い方したかなー。というかロードくんまで笑いを噛み殺している。これ如何に?


 というか、領主さま。目の下のクマがヒドイですね。ちゃんとご飯を食べて眠っているのか怪しいです。

 夕食は一人だけ早く食べ終わって仕事に戻ってしまったし、今朝の朝食のときはいませんでしたねぇ。もしかしなくても夕食の後からずっとここに引き篭もっていたんじゃ。

 ……うん。連続で完徹したときのお姉ちゃんと同じ顔色と目付きの悪さだ。

 ぶっちゃけると目が合うだけで怖いんですが、色々と愛しのお姉さまに被る人なのでついお節介をしてしまいます。


「ちゃんと食事と睡眠をとった方が身体にも良いですよ」

「……努力はする」


 それ、返事だけして後は何もしない人の常套句ですよ?

 お姉ちゃんもよく使います。幼馴染みも使います。私の知っている他人の話を聞かない方々は皆そう言うのでイマイチ信用できないですね。


「……今日の話だが」


 逃げた!

 私が口を挟む前に領主さまはロードくんに目配せしつつ、話を始めてしまいました。


「ニコが『竜狩りの歌姫』であるか否かを調べる。本来ならば面倒な手順をいくつも踏まされるのだが、俺は時間の無駄だと考えるため省く」

「カルさまの方法のが簡単だし、ニコの負担も少ねぇから心配ねーぞ」


 私としても、あまり難しい話や作業は得意じゃないので手早く簡単安全に済むならそっちがいいです。

 その旨を伝えると、何故かロードくんは書類の山に突入していき、領主さまはベリルくんに向かって手を差し出しました。


「……ベリル、オマエはこっちに来るんだ。邪魔になる」

「…………」


 領主さまの言葉に黙ってコックリ頷いて、私の膝から領主さまの腕に移動するベリルくん。あ、ちょっと嬉しそう。やっぱりお兄ちゃんが大好きなんだね。

 私はといいますと、戻って来たロードくんと彼の手が持っている大きな黒い鱗を交互に見比べて首を傾げています。

 太陽の光に反射してキレイだなぁと思うんですが、同時に首筋がピリピリしてずっと見ているのはダメな気がしてきて不思議です。

 そして、そう感じたことが間違いではなかったと分かったのは領主さまの次の言葉を聞いてからでした。


「……ニコ、その鱗は先代の『竜狩りの歌姫』が倒した『黒竜』のものだ。コレは古代竜エンシェントドラゴンの加護が付与されているおかげで大きな問題はないが、万が一、コレ以外の『黒竜』の身体の一部を見せられても関わるな。それに宿る『黒竜』の力を使えば大概は気が触れ、命を落とす」


 下げられた声のトーンと真剣な視線にゴクリとノドが鳴る。


「……触っただけでも死んじゃったりするんですか?」

「触るだけなら死なねーけど、精神にはよくねーぞ。悪けりゃ、心を病むからな」

「……表向きはどの国も所持を禁じているが、裏世界では堂々と取引されている。ソレも押収した一つだ」


 はぁ……どの世界でも怖い部分ってあるんですね……。騙されないように気を付けないといけませんね。


「ンでだ。ニコにやってもらいたいのは、この鱗をぶっ壊すことだ」

「え、どうやって?」

「壊れろって口に出して言うだけ」

「……」

「あ、ちゃんと魔力練ってな」

「……どうやって」

「おれが視ててやるから、腹に力込めろ」


 半信半疑のまま、ロードくんの言う通りにお腹に力を込める。

 そしたらロードくんの視線が私のお腹と口元を何度か行ったり来たりして、一人で「あー」と頷きながら空いている片手をお腹の前にかざしてきました。


「え、あの」

「静かにしてろって。もうすぐ通るから」


 ……ンむ。体型にコンプレックスのあるニコちゃんにとってはとても恥ずかしい状態なんですけど。お腹出てるからそんなに近づけないで欲しいんです。お願いだから。

 でも我慢して待っていたら、全身がちょっと温かくなってきて気持ち良いです。

 しばらくその状態が続いていたんですが、いきなり足の爪先から頭のてっ辺へ電気が走った感覚に襲われ、焦ってロードくんを見たらニカッとした笑顔で頭を撫でられました。


「今のが魔力な? ビリッときたのは、おれの魔力が押し出す形でニコの魔力を全身に流れさせたからだ。他人の魔力が自分の身体に入ってくるのって違和感あるけど、魔力の流れを確かめんのには便利だったろ? 一回体験すれば自分だけでも練れっから」

「ほ、ほんと?」

「ダイジョーブだって。練るってのはさっきみたいな温かいヤツを作り出す感じだから。コツはメチャクチャ想像することだ。たぶんコレか? 程度の想像でいいんだぞ。ほれ、実戦」


 ロードくん、何気にスパルタじゃないですか?

 領主さまが微妙に気の毒そうな視線をくれるんですが。

 でも、せっかく私にも魔力なるものがあるって分かったし、試してみたいってワクワクもしている。ので、いざ挑戦!

 お腹を温かく――。


「ん……」

「よし、練れてる。その調子でソレをノドに持ってくるんだ」


 えっと、こうかな?

 ロードくんのアドバイス通り、ホントにただ魔力の流れをイメージしているだけなんだけど、どうやら意外にも上手くいっているようで。


「次はノドに持ってきた魔力を自分の声と混ぜ合わせる」


 難易度跳ね上がったッ!?

 ……こうなったらヤケだ。とことんイメージしてやる!

 とにかく必死に混ぜ合わすイメージだけしていたら、だんだんノド周辺がグルグルと渦を巻くような温かさを持ってきて、確認のためにロードくんを見上げる。


「出来てる。あとは鱗が壊れる想像とそうなるような言葉を言うだけだ」


 ロードくんに頷き返してから改めて『壊れる』の意味を思い出す。

 鱗が壊れる、鱗が壊れる……。

 壊れるって粉々に砕けるとか、灰になるとかのイメージでもいいんだよね?

 ……怖いモノだから、出来れば何も残さないでなくなった方がいい、はず。

 ――なら。


『――……消えろ』


 ――――サアァァァ……。


 自分の声であって、そうじゃないような、そんな不思議な響きに包まれた音が鱗に当たる(当たったような感覚)と、直前まで想像していた映像と全く同じ光景で黒い鱗は消えてしまい、ロードくんの掌にも何も残っていなかった。


「……ウソ、できた?」


 まさかホントにあそこまでキレイになくなるなんて。しつこいけど、成功なんだよね……? 上手くいったんだよね……?

 一発で出来るとは思っていなかったから、中々信じられなくて噛り付くようにロードくんの手を凝視してて思い出す。

 …………あれ? これって私が『竜狩りの歌姫』か調べてたんだよね?

 成功したってことは……。

 恐る恐る領主さまとロードくんの方へ視線を移せば、二人とも緊張した顔つきで小さく頷き、領主さまの唇が決定打を紡ぐ。


「……ニコ。オマエが当代『竜狩りの歌姫』だ」


 ノォォォオオォォオォーーッ!!


「ち、違いますよ! 私なんかじゃありませんって! 魔力練って壊すだけならお二人だって出来るんじゃッ!?」

「出来ない。声に魔力を灯せるのは魔声士だけであり、魔声士のみが持つ魔力の性質だ。そして魔声士の中でもより特別な、唯一無二の存在であることを証明するのが代々『竜狩りの歌姫』に継承される『神の声』なのだ」

「ンで、その『神の声』ってのは、どんなに優秀な魔声士であっても必ず歌わなきゃ発動できない魔法を、今のニコみてーにたった一言で済ませられる声のことな。発動にかかる色んな制限を無視して魔力がある限りほぼ何でも出来る」

「性質とか発動とか魔力がある限りとかほぼ何でも出来るってなに!?」


 混乱がピークになりかけているときって何でも気になっちゃうのが私で。

 ただでさえ「オマエが歌姫な」と決定されて頭の中がグチャグチャしているのに、昨日聞いて難しかった魔声士の説明まで入れられたから涙目だよっ!


「落ち着けって、ニコ。歌姫かどうかは『神の声』を使わなきゃバレねーし、ニコは普通の魔声士の力も使えっから」

「普通の魔声士ってなに!?」


 半分パニックを起こし半泣きになる私に、二人はもう一度最初から丁寧に説明をしてくれました。

 ううっ……とっても長くて難しいのでニコちゃんの言葉で要約させてください。


 魔声士はこの世界にいくつか存在している特殊な職の一つで、その名の通り、声に魔力を宿らせる人達で。

 彼らの声が音を奏でることにより、様々な種類の加護をつけ、身体を癒し、能力値を上げ、ときには対象そのものを違うものへと変化もさせる、この世のありとあらゆる物質・事象に影響を与えられるそうです。

 そのトップが『神の声』を持てる『竜狩り歌姫』で、ただでさえチート職なのにもっとチートな位置に暫定でもニコちゃんがなっちゃいました……。


 嫌だよー……。こんな展開望んでないよ……。どうせなるなら魔法使いとかが良かった。


「魔法を使うってことで似た職に魔導士ってのがあるんだけど」

「そっちに転職したい!!」


 必死にロードくんに縋りつくけどニコちゃんの希望は儚かった……。


「魔声士は絶対に魔導士になれねぇよ? 逆もだけど」

「……へ?」


 …………魔声士の魔力の性質は独自・生まれつきのモノでその素質なしには絶対になれないんだってー。片や魔導士は魔声士以外なら一応誰でもなれるって理不尽。

 歌うことで神さまに属する魔法を使う魔声士と、呪文の展開で精霊に準ずる魔法を使う魔導士は、力の元になる神さまと精霊さまの仲がスッゲー悪いから絶対に相容れない・転職不可能とか……。

 おまけにさァッ!!


「……どちらも無理な力の行使には代償リスクが伴う。残量が足りない状態で力を使えば、直接身体に反動が返ってくる。力量に見合った魔法でなければ習得はできないうえ、使い手と属性の相性が絡んでくるとさらに難しくなる」

「あー、それから! これは魔声士だけなんだけど、魔声士の負う代償リスクの内容って一人ひとりで違うんだ。その魔声士が生まれもつ最も弱い部分に大なり小なりの影響が現れる。たとえば歌ってる途中で歌詞を間違えたり、音を外したり、実力に合っていない歌を選ぶとかの失敗も代償リスクの対象に入るからな」


 これを聞いてますます魔声士になんてなりたくないよ! 危険過ぎでしょ!? そんな仕事なんて嫌過ぎる。夢がないよォォォッ!!

 私が一瞬でまた渋い表情になったので、ロードくんが苦笑いを浮かべながら頭を撫でて付け足す。


「たしかに失敗したときの代償リスクは他の職業より危ないけど、実力のある高位の魔声士なら誰からも重宝されんだぞ? 一生貧しさと縁がない生活送れるし、歌姫と高位の魔声士の違いなんか発動にかかる時間だけだと思っていい」

「……それに魔導士と違い、魔法を使用するために精霊と契約を交わす必要がない。魔導士は契約時に命の危険が生じるが、魔声士は自分の身一つで森羅万象を操れるのだ。それ故に魔声士には誰もがなれるわけではなく人数も少ない。素質の条件があろうとも多くの人間が憧れる花形の職だ」

「魔声士の素質があるってだけでもニコは運がいいよ。『神の声』って言っても普通の魔声士と同じようしても魔法使えるってことを今までの歌姫たちが証明してる。うっかり使わなきゃ当分バレないって」

「じ、辞退はできないですか!? ほらっ! さっきロードくんが私に魔力を流してくれたやり方を応用して『神の声』の力を他の人に渡せば!」


 往生際の悪い私に笑顔のロードくんがトドメを刺す。


「むり。歌姫になれるのは一時代に一人だけだし、そもそも『神の声』は他人に渡せないぞ? 大昔にその手の実験をされた歌姫がいるけど成功しなかったって。仮にニコが『黒竜』を倒さないで死んだら世界の終りだし、戦って完全勝利して『黒竜』の復活も二度とないって確定してもニコは最後の歌姫としてずっと生きていかなきゃならない。歌姫じゃなくなるのは死んだあと」

「理不尽要素が増えたッ!!」

「だからな、諦めろ!」

「他人事だと思って……ッ!!」


 歌姫って呼ばれてるのに全然お姫さまなイメージが湧いてこないよ!?

 むしろ世界のために死ぬまで働け的な印象しか持てないんですけど!?


「……ニコにとっては理不尽極まりないだろうが、だからこそ俺たちもオマエを守るために全力を尽くす。ニコだけに世界の命運を背負わせたりなどしない。オマエの姉も必ず探し出す。そのためにニコにも協力してもらいたい」

「……協力?」

「姉を誰にも利用されることなく保護するために特徴と性格を、注意事項を教えて欲しい」


 特徴に性格、あとは注意事項。

 ……ん? 注意事項?

 いやいやその前にちょっと待って下さい。領主さまたちは昨日あの場所に居て私たちを見ていたのに、なんでわざわざそんなこと訊いてくるんでしょうか?

 首を傾げると領主さまが何故かバツの悪そうな表情で理由を教えてくれました。


「……顔は見ていない。見える位置まで近寄らせてもらえなかった」

「も、もしかしなくてもお姉ちゃんが原因ですか?」

「……」


 領主さまって正直な人ですね……。いえ、いいんです。みなまで言わなくても分かります。

 きっと容赦なく威嚇したんだと思います。私に気付かれないように。それくらい朝飯前だろうし、あのときのお姉ちゃんは機嫌が最高潮に最悪でしたから間違いなくやってる。


「あの姉ちゃんなら男って言っても絶対にバレない……」


 んん?

 ロードくん、一人で何をブツブツ呟いてるのかと思ったら、アナタもお姉さまのことで傷を負ってしまったんですか? しかも疑問形ではなく断言系で言いました?

 そういえば昨日、領主さまも最初だけ「姉、らしき」って変に区切っていたような。

 らしきってことはらしきだよね? その認識でいいんだよね?

 私が姉と言った人って意味じゃなくて、とても『女』には見えないそれ『らしい』人って意味だよね。たぶん。

 ……ええと、お姉さまの服装もいつも通りだったはず。そういつも通り。通常運転。ということは、昨日あそこに迎えに来てくれた領主さまたちにはもれなくあの誤解が生まれてしまったんですね。


「あのー……あれでも一応女性なんですよ。紛らわしい姉ですみませんでした!」


 八割方、愛しのお姉ちゃんが原因なので可愛い妹であるニコちゃんが代理で謝りました。

 そう私がハッキリ謝ってしまったからか、領主さまとロードくんが同時に「……う」と声を詰まらせてたじろぎ、ポソポソと小声で謝罪を始めます。


「……遠目だったのもあるが、俺とロードには男以外には見えなかった。すまない……」

「ニコは声だけですぐに女って分かったんだけど……姉ちゃんの方は、その、ごめん……」


 ですよねー! 実の妹であるニコちゃんでさえ、遠目だと男の子に見えちゃうときがあるんですからしょうがないですって。

 だから叱られた子犬みたいに縮こまらなくてもいいんですよー。


「そんなに気にしないで下さい。というか、間違えて当たり前なんです。お姉ちゃんの服は男物だし、話し方も仕草も考え方も男の人と一緒ですから。声も低いですし」

「ホントはちゃんと顔が見える距離まで近づきたかったけど、ニコの姉ちゃんの警戒心が高過ぎて行けなかった……」

「あー、野生動物みたいなところあるからね」

「……ニコを連れながら一人であの人数の兵士に挑む様子に、つい男だと思い込んでしまった。腕前も申し分ない、よく鍛えられた子供だとも……」

「え、えっと、お姉ちゃんは昔からケンカが強くて、ああいう状況には慣れているといいますか」

「背が低かったからニコより年上に見えなかったし」

「……ロードくん、それだけは本人の前で口にしない方がいいよ、絶対」

「……この世界では男でも髪を伸ばすせいで、あの髪型でも判断できなかった」

「…………あの、本当にすみませんでしたっ。お姉ちゃんに会ったら忘れずに注意しておきますので、その辺で許して下さいっ。……妹としてかなり悲しくなってきたのでっ」


 お二人が冷静に分析すればするほどお姉ちゃんを庇う言葉が思いつかなくなるって、かなり切ないですよね……。

 どう頑張ってもあのお姉さまから、昨日の領主さまたちを頷かせるほどの『女性要素』を見つけられません。いっそ「実はお兄ちゃんなんです!」って嘘を吐いた方が楽なんじゃと血迷いたくなるくらいに皆無です。

 と、ここでニコちゃんまた思い出しました。


「……私、あそこでも何回かお姉ちゃんって呼んでる」

「あの場で遭遇した兵士にならば既に手を打ってある。心配するな」

「ありがとうございます!」


 さすが領主さま! 話が早くて助かります!

 お礼にお姉さまの特徴をたくさん教えますのでよっく覚えて下さい!


「まず、お姉ちゃんは黒髪で明るい鳶色の瞳で、すっごく目付きが悪いです」

「悪口か」

「的確な表現なんだよ、ロードくん」


 あ、これは私の個人的な印象なんですが。昨日の夕食のとき、こっそり領主さまを観察して確信しました。


「お姉ちゃんと領主さまのお顔がとても似ています」


 目付きが、とは言いませんでした。ノドまで出かけたけど。


「性格は用心深くて凶暴でドSです。手負いの野生動物と同じだと思っていただければ大丈夫です」


 二人もとても納得のいった表情で頷きます。


「注意事項は交渉時、私に関しての情報で嘘を吐かないこと。眠っているときと寝起きは近寄らないこと。身長のことを口にしない。割と一番最後のが爆弾ですので気をつけて下さいね? 以上でっす!」

「……感謝する。そして肝に銘じておく」

「ニコの姉ちゃん、怖過ぎんだろ……」

「うん。ロードくんみたいな子を弄ぶのが大好きな人だよ。あ、それからお姉ちゃんに接触したときこのシュシュを使って下さい。これならお姉ちゃんにしか分からないモノだし、きっと信じて話を聞いてくれます!」


 髪からシュシュを外して領主さまたちに見せる。

 そしたらロードくんが目を丸くして肩を揺さぶってきた。


「いやダメだろ! 大事なモンだって言ってたじゃねーか!」


 そっか。ロードくんには朝話したんだっけ。

 でも、ちょ……。揺さぶるの止めて下さい。話せないし、脳ミソが崩れる……。


「他に何かないのか!?」

「あるけど、モノによっては逆に疑われるんだって! それにこういうのって私にもお姉ちゃんにも意味があるモノじゃなきゃダメなんじゃないのっ? だったらコレが一番間違いないのーッ!」

「だけど!」


 例えば私の服類を持ってお姉ちゃんに会いに行ったら確実に攻撃を受けるし、信用もされない。速攻で変態的な扱いになるからって説明を追加。

 駄目押しでシュシュの中にお姉ちゃん宛てのメッセージを入れるってしたら領主さまが味方になってくれたので、ロードくんも渋々ですが納得して口を閉じてくれました。

 フゥー。これで全部問題はなくな――……。


 て、ちょっと待って。私の歌姫云々の話題がすり替えられてないですか!?




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