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いち、に、の姉妹論。  作者: 陽向夏月
保護者の章
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ニコ編 前④ 喜ばせ上手がたくさんいました (改訂版)


 あの後、領主さまと一緒に帰ってきた竜騎士さんたちの活躍で怪しい集団は全員が捕まりました。

 私たちを真っ先に逃がしてくれたメイドさんたちにも大きな怪我はないと教えてもらいやっと安心できたのがつい先ほどで、現在は一番の安全地帯である領主さまの傍にいさせてもらっています。


「カルセドニさまの予想通り、大半が各国で雇われた密偵たちでした。これよりこちらで得た情報と雇い主に関する情報を引き出しにかかります」

「頼む。それが済み次第、全員の身柄を移送してくれ」

「分かりました。それでは失礼致します」


 動きやすそうな鎧を着た兵士さんが領主さまに敬礼をとり、スタスタと足速く部屋から出て行く後ろ姿を、膝の上に抱っこしたベリルくんと一緒に見送る。

 パタンと静かに閉められる扉の音に、緊張で詰めていた息を吐き出す音が重なった。

 ……最後の報告以外、何を話しているのか全く理解できませんでした。

 ついでに肩も凝りました。

 原因は領主さまたちの小難しい会話とこの部屋。

 前後左右どこを見ても、天井に届くのではと思うほどに積に積まれた本、書類のような紙束、何かの道具類が壁や山になってあるんですよ?

 唯一開けているのは、今領主さまが座っている机の周りだけです。それでも面積比的には九対一くらいの微々たるもので、私が座って待っているように言われた椅子もその狭い区域に入っていて、他にもさっきの短髪の男の子と銀髪の男性が立っているのだから閉塞感と圧迫感で窒息しそうです……。あと暑いです……せめて窓を開けましょうよ。

 こんな状況だからか、ものすごーーく、席を外しているシャロンさんが恋しくて堪らない。

 ああ、女の子が恋しい。イケメンに囲まれた気恥ずかしさと、暑さと緊張で汗が噴き出す羞恥からダッシュで逃げたい衝動にかられる乙女心を理解してくれる女の子が欲しい。誰か私に味方を下さい。

 とにかく、あちらのお話が全部終わるまでベリルくん以外とは誰とも眼を合わせないようにして我慢しよう。じゃないと溶ける。暑さとイケメン光線で。

 それに集中していたせいで、領主さまたちの話が終わっていて、しかもこっちを見ていたことに、声を掛けられるまで全く気づかなかった。


「……待たせてすまない」

「は、はいっ!?」


 ……ッ!!

 声裏返ったァァァア……ッ!!

 イヤァァッ! 顔から火が出る! もう逃げたい! 地面に潜って引き篭もりたいよぉッ!!

 あまりの恥ずかしさにベリルくんを思いっきり抱きしめて顔を伏せたら。


「…………ニコ、だいじょーぶ?」


 ベリルくんにまで心配をかけてしまいました……。

 何だかこっちの方が私的にはとても居た堪れなくて、頑張ってイケメンさんたちとお話しようと思いました……。

 ……よし。まずは落ち着こう。ひっひっふー、ひっひっふー。

 と、呼吸を整えていたら銀髪のお兄さんがクスリと微笑みを浮かべてきました。


「そんな風に頬を赤く染めて緊張されるとこちらも照れてしまうよ? 可愛らしいお嬢さま」

「あ、もう平気みたいです」

「おや、それは残念。私としては愛らしく恥じらう顔をもっと堪能していたかったのに」

「いえいえ。もう大丈夫です。お気遣いなく」


 お兄さんが幼馴染みと似たような台詞をかましてくれたおかげで平常心に戻れましたから。

 そんな私たちのやり取りを黙って聞いていた領主さまが、もともと鋭かった目つきをさらに細めながら溜息を吐いたので、そっちの方にビクッとしてしまいました。


「……部下の軽口が気分を不快にさせてしまったのならすまない」

「あ、いえ! 別に不快に感じたりはしていません。むしろ、私の日常の断片を感じさせてもらえたので感謝しています」

「……アレが日常だったのか?」

「まあ、はい。幼馴染みがよく口にしていたので。長年ずっと隣で聞かされていた影響で、あの手の歯が浮くこっ恥ずかしい言葉への耐性はけっこう強いんですよ」


 もっとも、さっちゃんの攻略対象は愛しのお姉さまオンリーだから、私自身は誰にも言われたことなんてありませんけど。

 まぁ、そんなちょっとしたエピソードを話したら、領主さまと短髪の男の子が「……ああ」と頷いていました。言葉に共感と同情が含まれていたのは気のせいじゃないですね。

 元凶らしい銀髪のお兄さんは彼らの溜息なんてどこ吹く風で。ムダに爽やかな笑顔のまま窓を開けていました。……暑いと思ってたのバレた。きっとこういう行動もお二人の心労になっているんでしょうね。


「さぁ、新鮮な空気も入ったことだし、話を始めようか」

「……オマエが言うな、と注意したところで今さら無駄か。……スピネル領主、カルセドニだ」


 耳に心地いい凛とした綺麗な低音。

 濃紺の夜を圧縮したような髪と、星の光に似た淡い金色の瞳は鋭い。

 んんー。何度見ても抜群に整った顔立ちのイケメンです。でもやっぱり、目つきはすこぶる悪いですがね。


「――……オマエの名は?」


 やけに間を空けて聞かれたのは、何の変哲もないこと。初対面なら誰しもがするはずの単純な問いでした。

 だから私も普段通りに笑顔で返しました。


「九重ニコといいます」

「…………」


 そのとき、彼の綺麗な金色の瞳がわずかに揺れたような気がしたけれど、私の興味はすぐに別なことへ逸れた。


「……この世界についての大まかな説明はアンヌから聞いている通りだ。各国がオマエたち二人を狙っている」

「はい。そして領主さまが私たちを保護して下さるとも聞いています」

「ならば、その返事を聞かせてもらいたい」

「……」


 普通ならすぐにでも答えるのが礼儀なのかもしれませんが、私はそのことよりもどうしても一つだけ領主さまに聞いてもらいたいお話があるんです。

 多分、今このタイミングでしか聞き入れてもらえないんです。

 身体を張って守ってくれたシャロンさんに、私も返したいから。


「返事の前に一つだけお話を聞いてもらいたいです」

「……聞こう」

「……領主さまはベリルくんの件を聞いていらっしゃいますよね?」

「……ああ。弟が世話になった。助けてもらったこと、一人の兄として感謝している」


 兄?

 あ、そういえばベリルくんも領主さまを「にーに」って呼んでいましたね。

 領主さまの目つきが鋭いのと表情が変わらなさすぎて気付き難かったですが、ちゃんと見ると二人とも髪も瞳も同じ色彩ですし、顔も似ていました。


「……話はベリルのことか?」

「に、関係しています。私がお願いしたいのは」

「シャロンか」

「は、はいっ」


 び、ビックリした……。

 なんで分かったんだろ。

 内心、ドキドキしながら本題に入るタイミングを窺っていると、領主さまの方から切り出してきた。


「……アンヌに聞いた。ニコがシャロンの処遇を気にしていると。そしてアンヌ自身からも、シャロンの失敗はシャロンだけのせいではなく、メイド全員の責任であり、罰するならば皆平等に頼むと直訴された」

「アンヌさん……っ」

「……領主としての答えは、誰にも罰は与えない、だ。アレは俺の作戦が甘かったことが招いた結果であり、彼女たちの失敗ではない。皆には既にその旨を伝えてある。シャロンには次の重要な仕事を考えている。だからあまり心配するな」

「そう、ですか……。ありがとうございますっ」


 そっかぁ。誰も怒られなくて済むんだ……。よかった。

 気になっていたことが解消されて、気持ちも楽になったので領主さまに半端になってしまった返事を伝えようと思います!

 この返事もけっこーアレなんですが、譲れないことなので最初の内にハッキリさせておきます。


「姉と合流できるまでは、こちらでお世話になりたいと思います」

「……合流できるまで、とは?」


 私の言い方に領主さまとその隣に立つお二人も不思議そうな顔をする。

 まぁ、普通にその反応になりますよねー。ちゃんと説明しますよ。でないと、私がお姉さまにボコられるので。


「姉は自分のことは自分で決める人で、たとえ妹の私であっても勝手に姉の何かを決めることは許してもらえないんです。なので、姉がどうするかは本人に会ってからでないと確かなお返事ができません。そして、姉と合流を果たしたら私は姉の出した答えに従います。ワガママな言い分だと思いますが、私の絶対はお姉ちゃんなんです。それだけは何があっても譲れません」

「……分かった。今は合流できるまでの保護にしておこう。その後のことは二人で話し合ってから決めてもらって構わない。ただ……」

「ただ?」

「……オマエの姉、らしき人物の行方を俺たちも掴めていない。あの戦場でニコ同様、突然姿を消したままだ」


 ……あいったぁ。

 お姉さまも謎のワープしていたんですね……。何となく想像はしていましたが、いざ事実を知ってみるとやっぱり頭が痛いです。

 癒しのベリルくんをギュッとしても現実逃避できません。

 そして領主さまのお話もまだ続きました。


「先程の襲撃で分かるように、おそらく数日中には各国の王がオマエたちの存在と二人の内一人がスピネルにいること、もう一人の居所を誰も掴めていないことを知る。……それらは遅いか早いかだけの問題なのだが、厄介なのはニコたちが互いに親密な関係であると知られることだ。できればニコには合流するまでもう一人が自分の姉である事実を伏せていてもらいたい」

「え?」


 私とお姉ちゃんの関係を知られると厄介ってどういうことでしょうか?

 知ったところで、スペシャルに仲の良い姉妹なんだなぁ程度の認識で済むのでは。

 ピンとこない私に銀髪のお兄さんが補足を入れてくれました。


「ニコちゃん、カルが言ったことはとても重要で重大なんだよ。こちらの世界で異世界人が『竜狩りの歌姫』であると断言されている話は聞いているよね?」

「はい。でも私もお姉ちゃんも違うと思いますけど……」

「それは調べてみなければ分からないよ。まぁ、仮にニコちゃんが世界でただ一人しか存在しない『竜狩りの歌姫』である異世界人だったとしよう。その場合、もう一人の異世界人の扱いはどうなると思う?」

「えっと、私で確定してしまった時点で……よ、用なし?」

「そうだね。何故か二人も来てしまった異世界人が赤の他人同士であったなら、どちらか片方が『竜狩りの歌姫』であると確定されればもう一人の存在価値はなくなる。二分の一の確率で異世界人の、それも歌姫の方の獲得に躍起になっていた各国の争いの種も一つ減っただろうね」


 んんん?

 お兄さんの話し方がとても引っ掛かるような……。


「だけど、ニコちゃんたちは姉妹で、少なくともニコちゃんにとってはお姉さんが最も重要な存在であると知れ渡れば、状況はもっと複雑になる。どちらが『竜狩りの歌姫』であっても、片方さえ手中に収めてしまえばもう片方への脅しの道具として十分に利用できるからね? となると先に言った争いの種は減るどころか火種を増やしてさらに飛び散る。何故なら、我らスピネル勢に遅れを取ったと悔しがっている連中は大勢いるし何としても逆転の一手が欲しいから。そのための道具としてニコちゃんのお姉さんが必要であり、同じ思惑を持つ者同士が競って探し合いをする先には奪い合いという名の争いが起きる流れさ。ニコちゃんたちが本当に赤の他人同士であったならまだマシだったかもしれないね」


 ……何故でしょうか。

 目の前のお兄さんはとても穏やかな笑顔を浮かべているのに、口から飛び出してくる言葉がだんだん脅しに聞こえてきます。

 つまりは、アレですか?

 私たちが姉妹だと知られて、もしも、百万が一にも、お姉ちゃんが彼らの敵対する国に捕まって、私かお姉ちゃんを思い通りの利用したいときに、コイツの命が惜しければ従え的な流れになるから発言には気を付けろよってことですか?


「……ええーっと、もしかしてさっき私がお姉ちゃんにしか従わないって言ったのも誰かに聞かれているんでしょうか?」

「……その心配はない。この部屋には特殊な術を施してある。外部からは会話を聞き取ることも中の様子を見ることも出来ないようにしてある」


 じゃあ、心配ないっか!

 て、普段なら安心していたんですが……。


「あの、私……この部屋以外でもう一人が自分のお姉ちゃんだって言ってしまっているんですが……」

「あのさ、それをどこで誰と話したか覚えてっか?」

「えっと、最初の部屋と脱衣所でベリルくんとシャロンさんに、あとはアンヌさんたちがいたお部屋で、そこにいた人たち全員にだと思います。でもあのっ、シャロンさんがずっと一緒にいてくれたので彼女にも確かめてもらえればもっと正確に分かるかと……」

「シャロンちゃんがずっと傍にいたんだね?」

「は、はい」


 そう答えると、三人は顔を見合わせて頷く。


「……シャロンが傍にいたのならば、ニコの姉の情報は外部に漏れていない」

「これでやっと、捕まえた連中が最低限の情報しか掴んでいなかった理由が分かったよ。やはりシャロンちゃんのおかげだったのか」

「え、あの、どういうことですか?」

「アイツらニコが異世界人かもしれないって情報しか持ってなかったんだよ」


 それって私が異世界人かもしれないってだけで襲ってきたってこと?

 確証もなしに攫いにきたの!?


「……おそらく定期的にスピネルに忍び込んでいた者が、見慣れないニコとアンヌたちの対応から推測し判断したのだろう。他はそれに便乗したと考えるのが妥当か」

「これで少し分かってもらえたかな? ヤツらはほんの僅かな可能性だろうと必死になってニコちゃんたちを狙ってくるし、今はまだ誰の手にも落ちていないニコちゃんのお姉さんを探し出して、どんな手段を使っても君たちを利用しようと考えるって」

「……お兄さんたちもお姉ちゃんを探しているんですよね? 利用されないよう保護するために」

「そうだよ。それにニコちゃんの大切なお姉さんだしね。ニコちゃんも大好きなお姉さんに会いたいだろう? 私たちが迅速にニコちゃんの愛しいお姉さんを見つけて保護するためには情報規制が必要で、それはニコちゃんの協力なしには出来ないことなんだよって話さ」


 ……んんぬ。お兄さん、わざと「もう一人の異世界人」から「ニコちゃんのお姉さん」って言い換えるようにしましたね?

 ていうか、お兄さんこそ、愛しのお姉さまを盾にニコちゃんを脅迫する人じゃないですか!

 大切な、大好きな、愛しいお姉さんとか言い並べて! そんなにシスコン少女をいじめて楽しいですか!


「わ、分かりました! 以後、お姉ちゃんのことは誰にも話しません!」

「ニコちゃんが賢い子で助かったよ」


 ぐっ……! 爽やかな笑顔のせいで騙されかけましたが、このお兄さんが口に出す言葉は大半がチクチクの棘です!!

 何だか全部お兄さんに乗せられた気がしなくもなくて、釈然としないわ、悔しいしわで腹いせにジロッと睨んだらクスクスと穏やかに笑われてさらにイラッときました。

 完全に子供で遊ぶ悪い大人の顔だよ、あれ。

 私が本格的にムスッと表情を顰め始めると、お兄さんは領主さまの方へ向き直る。逃げんな! コラ!


「ということで、カル。ニコちゃんの一時保護と協力の確定は取ったから、今日はこの辺で難しい話を終わりにしないか? ニコちゃんだって突然違う世界に来て疲れているだろうし」


 陽も傾いているよ、と続いたお兄さんの言葉に窓の外を見てビックリ。

 いつの間にか夕方になっていましたよ。そんなに長く話していたんですね……。

 それにお兄さんの言う通り、身体がちょっと言わずかなり疲れているのにも気付いてもう一回ビックリ。さすが、私の身体。正直だなぁ。

 お兄さんに気遣われたのも驚いたけどさ。いじめてくると思ったら気を使ってくれる……。よく分からない人だなぁ。

 まぁ、あんなお兄さんは放っておいて。私がこれだけ疲れているならベリルくんも相当お疲れなんじゃ。


「…………」


 静か、静かだと思っていたら眠っていました。そりゃ、退屈しちゃうよね。

 スヤスヤと気持ち良さそうに眠るベリルくんを見ていたら私まで眠気に襲われて、あやうく欠伸が出るところでしたが、間一髪で噛み殺しました! あ、危なかった……。

 だけど、その様子を領主さまに目撃されてしまっていたようで、申し訳なさそうに眉を寄せられてしまいました。


「……たしかに、疲れているようだな」

「す、すみません……」

「……ニコが謝る必要はない、俺の配慮が足りなかった。俺は夕食の準備を頼んでくる。それまでここでジェードたちと待っていてくれ。ジェード、ロード頼んだぞ」

「え、あの、まっ…………て?」


 私が話すよりも早く、領主さまは本と書類の山を器用に避けて部屋を出て行ってしまいました。

 というか、はや! 領主さま歩くのはやッ!!

 が、呆気に取られているのは私だけで、他の二人は慣れているらしく呑気に手を振ったりして見送っています。……もしかしなくても、あれが領主さまの通常運転ですか。他人の話を聞かない性質アリと。

 ……目付きだけじゃなく行動までお姉ちゃんに似ている気が。あと顔の造りもどことなくそっくりだなぁと今さらの発見。これは領主さまが戻ってきたらこっそり観察してみましょう。


「すまないね、ニコちゃん。無愛想な主だけど、口にしたことは絶対に守る男だからその辺りの心配いらないよ。ああ、それから私の名前はジェード。挨拶が遅れてしまってすまない、可愛らしいお嬢さま」


 そう言いながら、さりげなく私の手を取って甲にキスをしてきた銀髪のお兄さん改めジェードさん。

 動きがナチュラル過ぎてビビリました。


「……その手を取られるとベリルくんが落ちてしまうので止めて欲しいです」

「手厳しいね。でもベルが落ちかけたらニコちゃんごと抱き止めてあげるから大丈夫だよ」

「うわー。ジェードさんってホントにチャラいですねー」

「褒め言葉として受け取らせてもらうよ、ニコちゃん」


 チッ。手強いな。

 にしても、とにかくニコニコと笑顔を絶やさないなぁ、このお兄さん。……外見は良いのに中身が危険ですよねー。外見は良いのに。

 碧色のタレ目とオールバック風に上げられた銀色の前髪が印象的な爽やかイケメンさん。うなじで纏められた長い髪もサラサラキラキラ揺れています。

 背は領主さまより高くて、体格は身長のわりに綺麗に引き締まっている感じがします。服の上からなので細かいところは分かりませんが、たぶん細マッチョさんです。

 領主さまは着痩せタイプですかね? パッと見、標準体型かなってー思ったんですが、この部屋に来るまでに見ていた後ろ姿が鍛えている人のものだったので、服の下はガッツリ筋肉だと思います。

 そう領主さまへと思考を傾けつつ、ジェードさんに残念な視線を送っていると、さっきはあまり会話に混ざってこなかった短髪の男の子が重たい溜息を吐きながら私の手をジェードさんから引き剥がしてくれました。


「ジェードさんの言うことはほとんどテキトーだから気にすんな。あ、おれはロードナイトな。メンドーだろうからロードでいいぞ、ニコ」


 意外と親しげに話しかけてくれたロードくんに私も自然と笑顔になる。


「分かりました、ロードくん」

「ロードでいいって。ケーゴもいらない。そんなに歳もかわんねーと思うしさ。あ、おれはこれでも十七だ! ニコは?」

「わ、私も十七だよ! 子供っぽく見えるけどちゃんと十七だから!」

「お、タメじゃん! てか、やっぱニコも幼く見られるのか! 分かる分かる、その気持ち! なんつーか、おれたちに失礼だよなぁ。フクザツな年頃だってのに」

「うんうん! いつも一緒にいる人たちとかには特に、いつまでも子供扱いしないでって思う!」

「分かるぜ、その気持ちッ!!」


 腕を組んで何度もうんうんと熱く頷いてくれるロードくん。

 まさかの意気投合ですね!

 その後も「若く見えるんだからいいじゃん」とかデリカシーのない発言をしてくる人について盛り上がりました! これは同じ童顔族にしか分かり合えない話題ですよね!


「おれ、ニコとは仲良くなれる気がする!」

「私も! これからよろしくね!」

「おう!」


 そうしてガシッと固く握手を交わして、ちょっとビックリしました。

 ロードくんの掌がすごく硬いんです。ゴツゴツしているというか。何か覚えがある気もして、やたら懐かしいような……。

 あ、さっちゃんだ。あの子の手と同じなんだよ! このゴツゴツ感! たしか剣ダコだっけかな?

 嬉しい共通点に、ベリルくんの頬っぺたを楽しそうに突くロードくんを改めて観察。

 うん、服の上から見てもガッチリ系です。というか、同い年のはずなのに一体何を食べたらそうなるんですか。

 身長は二人よりも低い(でも十分高い)けど、露出している肌から見えるしなやかそうな筋肉はつい魅入ってしまいます。身長は成長期パワーに期待で。

 お顔は幼さが残っていますが、明るく気さくな話し方からヤンチャ系かなと。……瞳と髪が明るい茶色なので、うっかりすると柴犬を連想してしまいますね。とくに項の髪とかが尻尾に見えてしまいます。

 あ、そういえばこの世界の男性は後ろ髪の長い人が多いんですね。

 ジェードさんは分かり易いですが、領主さまとロードくんは一見短いけど、よく見ると伸ばしているんです。お姉ちゃんもやっているショートっぽく見せる縛り方ですね。


 眠っているベリルくんを起こさないように、でも会話に花を咲かせて過ごした時間はあっという間で、誰かのコンコンと扉を叩く音に話の区切りをつける。

 私ではベリルくんを抱いたまま本の山を壊さずに扉まで行くことは出来そうになかったので、ロードくんがベリルくんを抱っこし、ジェードさんが私の手を引いて部屋の外まで連れて行ってくれた。


「皆さま、お食事の準備が整いました」

「シャロンさん!」

「ニコさま」


 外で待っていてくれたのは、心配で堪らなかった美少女メイドのシャロンさん。

 嬉しさで勢いよく飛びつくと、シャロンさんも笑顔で抱きしめ返してくれました。

 そして私が落ち着くまで待ってから、何故かシャロンさんは一度離れ、次の瞬間には息を呑むほど綺麗な動作でお辞儀をしてきて――。


「この度、領主カルセドニさまよりニコさまの専属メイドを仰せつかったシャロンと申します。アナタさまのお傍にお仕えさせて頂けること、身にあまる光栄にございます」

「……へ?」


 それって、一緒にシャロンさんと一緒にいられるってこと……?

 え? でも領主さまはシャロンさんに次の大事な仕事を任せる予定だって……。


「言っただろう、ニコちゃん? ニコちゃんはとても大切なお客さまであるのと同時に、たくさんの人間から狙われる身でもある。当然、竜騎士である私やロードたちの剣士隊が護衛に付くけれど、ニコちゃんは女の子だからね。男の私たちでは不便をさせてしまうこともあるだろうから、同じ女性で且つ腕の確かなシャロンちゃんにも支えてもらおうってなったのさ」

「ニコの方もシャロンと仲良くなってたみてーだし、やっぱ一人じゃ不安だろ? それに、直接おれらに相談し難いこととかシャロンを通してならニコも話しやすいよなって」

「アンヌさまや他のメイドも共にニコさまを支えていきたいと仰っていました。不慣れなことばかりかと思いますが、私がお傍におりますので、どうか、お姉さまとお会いできるその日までここスピネルで羽を伸ばして下さい」

「っはい!」


 目の前に伸ばされた三人分の手を、迷わずまとめて握りしめた。

 ああ、もう。

 どうしてここの人たちは、こう、私を嬉しくさせるのが上手なんだろうっ。



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