第一滴:闇の雫①
第一滴:闇の雫①
「うっせぇ!クソガキ!」
生暖かい血が頬に飛び散った。
ー慣れてる。
そう、慣れてるんだ。僕がこんな家庭に生まれた事自体がそもそもの間違いなんだ。暴力を振るう父親、みてないふりの母。こんな狭い家じゃ逃げ場所もない。
僕はリビングの机にもたれ掛かった。
「大丈夫?」
姉が駆け寄って来た。この家の中で唯一の僕の味方だ。美人で、強くて、優しい姉さんだ。
「おまえ何、かばってくれちゃってんの?」
かつてのエリート証券マンの面影はなく、ただアルコールを摂取して、ただ家族に暴力を振るうだけのカスな存在。それが僕の父親、岡翔吾であった。
「おらぁ!」
鈍い音の後、姉の血が僕の顔に飛ぶ。
「姉さん!」
まただ、また僕は何も出来ない。守られてばかりだ。何も出来ない。いや、何もしない方がいいんだ。僕は静かに自室に行き、布団に入った。まだ姉さんが殴られてる音がする。僕は耳を覆った。
朝だ。こんな日常にも朝が来る。うんざりだ。
「おはよう!」
昨日逃げたにもかかわらず姉はあいもかわらず挨拶してくれる。姉が綺麗にしてくれた制服をきて、今日も学校へ行く。家を出る途中で母が横目に見えたが、母は見えないなにかとお喋りしていた。当然の如く僕は無視された。僕も何も見なかった事にして学校へ向かった。最初から期待なんかしてないさ。
学校…。姉さんがせめて高校だけでも出ときなさい。と言うので、義務として高校には通ってる。友達は、いない。通わせてもらってるだけありがたい。たとえ机がなくとも、あっても花瓶が置かれてても。私物が無くってもだ。
夕暮れになった。この時間が1番僕にとっては辛い。たとえ居場所がなくとも明るいこの世界が終わりを告げる瞬間だからだ。シンデレラはいつまでも綺麗な格好ではいられないのだ。
古くて黒ずんだ家、とりあえずただいま、とだけ言って中にはいる。家に入るなりアルコールの匂いが全身に絡みつく。
「おかえり。」
顔面が血だらけの姉さんが床に這いつくばっていて、それを父が見下ろしていた。僕はすぐに状況を理解してその場にたたずんだ。
ーまた、何も出来ない。
「なにみてんだ。…なにみてんだよぉ!」
父が怒鳴る。怖くて口がひらかなくなる。
「お父さん!もういいでしょ!類には手を出さないで!殴るなら私にして!」
「うるせえ!」
すがって来た姉さんを蹴り飛ばした。そして僕に鬼気迫る顔で向かって来る。きっとアルコールが切れたのだろう。
「おい!酒買ってこい!」
アルコール臭い息が僕にかかる。姉さんにお金をもらって、逃げるように家をでた。
次に続きます^o^