先だしPK
じゃんけんする時によくいる。
「俺絶対パー出すからな!」的なことを言う奴。
もちろんそれを信じることはない。
ないのだが、心は揺さぶられる。
本当にパーを出す奴もいれば、グーを出す奴もいるしチョキを出す奴もいる。
結局普通のじゃんけんと変わらないじゃん。普通に運にまかせてじゃんけんすればいいじゃん。
だが、変に深読みしてしまう。
相手の性格からして、コイツは本当にパーを出す奴だとか、コイツは
余裕こいてグー出す奴だ、とか。
そして、そういう時に限って負ける。
なんか深読みしすぎると負ける。
多分、今回のこれもそういう感じ。
ワールドカップ本戦、日本 vs 南米の某国ホゲグアイ
どちらもディフェンスを重視した戦術で前後半・延長戦と勝負はつかず。
勝負の行方はPKに委ねられた。
両国の威信をかけたPK戦はホゲグアイが先攻。
勝負はどちらも譲らず、日本・ホゲグアイ共に一本もシュートを外さない。
ホゲグアイが5本目のシュートを決めた時、勝負の行方は日本のエース、本間に託された。
覚えている限り、本間はPKを外したことがない。
PKのコツは「考えないこと」だ。
あんだけ広いゴールで、あんだけ毎日シュートの練習してるのだから、普通に蹴ったら大抵入る。
シュートを外してしまうのは大体、色々考えすぎてしまってプレッシャーに負けてしまうからだ。
それを知ってるから本間はあまり考えない、適当にはしっこに蹴ればシュートは入る。
なんならど真ん中に蹴ってもキーパーが勝手に横に跳んでくれてシュートは入る。
本間は右と左のどちらかに蹴るかだけ決めて、あとは適当に余計な事を考えずに蹴るようにしている。
とはいえ、この日本の威信を賭けた試合で本間は少なからずプレッシャーを感じている。
できればこの試合に勝ち、次の試合に進みたい。なんなら初の日本優勝を果たしたい。
ここでシュート決めれば俺モテモテ、モッテモテやでー!!
いかん、初のワールドカップで大舞台のこの場面。
どうしても色々考えてしう。集中しよう。
よし!右に蹴る。迷わず右に蹴るぞ!!
キーパーの準備が完了し、シュートしていいよ、の審判のホイッスルが鳴ろうかという瞬間
それは起きた。
ホゲグアイのキーパー、ホゲベルトが急にタイムを申し出る。
何か、キーパーグローブがずれちゃったから直させてーって申し出たらしい。んもう!!
しばらく端っこでゴソゴソしてたホゲベルト、やっとゴール前に戻ってきた。
さぁ、蹴るぞ!!と気合を入れゴールとキーパーを睨む本間はホゲベルトに異変を感じる。
目の前にいるのはさっきまでと何の変哲もない坊主頭のホゲベルトだ。
ただ、おでこに何か書いてある。
「→」
目を凝らすと見える。上に描いたような右向きの矢印がホゲベルトのおでこにうっすらと書かれている。
こ、これわ
本間の心は揺れた。
まさかこいつは俺が蹴る方向を読んでいるのでわ??
いやいやいや、そんなはずがないじゃん。
っていうか本当に読んでいるんだったら黙って右に跳べばいいんだし。
よし、右に蹴るぞ!!
と決めた瞬間、ホゲベルトが自分のおでこを指でさしニヤッとする。
本間は本格的に動揺する。
や、やっぱ左にするかなとちょっと思った。
その瞬間、ホゲベルトは左側をちらっと見てニヤッとする。
揺れる本間。今までにないプレッシャー。
落ち着け俺、俺、落ち着け、右か左かはどうでもいい、例えどっち側か読まれていても上の端っこにシュートすれば
キーパーはどんなに頑張って飛んでも届かない。
右上の端に蹴るんだ、端に、端に、ギリギリにーー!!
てえぃ!!
本間の蹴ったシュートはゴールを外れ場外へ、観客席でウトウトしていた時差ぼけのサポーターのおっさんに直撃する。
おっさんは観客席から転げ落ち、審判が試合終了のホイッスルを鳴らす。
日本、惜しくもPKでの負け、本間は悔しさで地面を叩く。
試合で負けたことももちろん悔しいが、このしょうもない心理戦に負けた自分に腹が立ち悔しい。
リベンジがしたい。何が何でもリベンジがしたい。
4年後のワールドカップ本戦。
ピッチには本間の姿があった。
海外遠征で身に付けたテクニックと、鍛えに鍛えて前回より一回り大きくなった体。
アウェーでのブーイングにも負けないメンタル。
そして、おでこに書かれた「→」が彼の意気込みを物語っている。