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【第三話】これが見えてしまう呪い

KaiSaintです。第二話を読んでいただきありがとうございます!


第三話は、主人公アレンが持つ独自スキル【代償視覚】の「呪い」としての側面を掘り下げます。

ただ便利なだけではない、知ってしまったがゆえに苦しむ科学的な視点。

そして、彼がなぜ「工房」を渇望するのかを描きました。


それでは、第三話をお楽しみください。

 もし、世界が「ゆっくりと毒に侵されている」ことが自分にだけ見えてしまったら。

 それは果たして、神の恩恵と呼べるのだろうか。


 市場の雑用を終えた帰り道、俺――アレンは激しい眩暈めまいに襲われ、裏路地の壁に手をついた。


(……くそ、まただ)


 視界が、おびただしい数の「数字」で埋め尽くされている。


【ベーカリー入口:二酸化炭素濃度 2,800 ppm(換気推奨)】

【路地裏:一酸化炭素濃度 35 ppm(長期滞在不可)】

【魔法街灯周辺:残存熱量 820 kJ(未利用エネルギー損失)】


 街を歩くだけで、視界は情報という名の暴力に晒される。

 普通の人間には、この街は活気溢れる魔法の都に見えているのだろう。だが、俺の目には――魔法という非効率な「不完全燃焼」によって吐き出された排気ガスと、無駄な熱にまみれた巨大なゴミ溜めに見えていた。


「アレン、顔色が悪いぞ。また魔法酔いか?」


 声をかけてきたのは、向かいのパン屋の親父、ベッカーさんだ。

 彼は豪快な手つきで魔法の火を扱い、オーブンの温度を一定に保っている。街でも評判の腕の良い職人だ。


「……大丈夫です、少し立ちくらみがしただけですから」

「無理すんな。魔力がない奴は、街中の魔力に当てられやすいからな。これでも食べて休め」


 ベッカーさんは焼きたてのパンを一つ、俺の手に握らせてくれた。

 親切な人だ。この一週間、まともに話を聞いてくれた数少ない一人でもある。


 だが、彼の顔――。


【対象:ベッカー】

【診断:軽度の低酸素症および慢性的なCO中毒】

【原因:密閉空間での長時間にわたる火属性魔法使用】


 彼のこめかみには血管が浮き出ており、目はわずかに充血している。

 「魔法職人特有の頭痛」だと彼は笑っていたが、それは単なる『酸欠』と『不完全燃焼ガス』による中毒症状だ。


(言えるわけがない……)


 「あんたの得意な魔法が、あんたの体をゆっくり殺してるんだ」なんて。

 「換気をしろ」と言っても、この世界の人間に「見えない毒素」の概念は理解できない。魔法は神聖なもので、その副作用を口にするのは「信心が足りない」か「無能のひがみ」として扱われるだけだ。


 これが、代償視覚の正体―『呪い』だ。

 魔法という美名の陰に隠れた、物理的な泥濘ぬかるみがすべて見えてしまう呪い。


 俺はパンを口に運び、無茶苦茶に喉へと押し込んだ。

 知らなければ、幸せでいられたかもしれない。

 魔力ゼロ。ただそれだけの理由で蔑まれ、便利屋のようにこき使われる日々。

 それでも、もしこの『呪い』がなかったら、俺も「魔法はすごい」と笑っていられたのかもしれない。


(いや、違うな)


 俺は自分の節くれだった指先を見つめた。

 工事現場で、絶縁テープを巻いていた時の感覚。

 図面通りに配線を組み、スイッチ一つで「安全な光」が灯った時のあの達成感。


 俺は、技術者だ。

 不具合を見つけて、それを放置できるほど、俺の魂は丸くない。


「……こんなところで、雑用で終わっていいはずがない」


 この酸素が薄く、魔法の排熱が渦巻く都の中心部では、俺のやりたいことは何もできない。

 実験資材を揃え、電源を確保し、フィラメント――この世界の言葉で言うなら『導光芯』を試作するための場所。

 街の喧騒から離れ、魔法の干渉を受けない、俺だけの『工房』。


 俺は立ち上がった。

 膝の震えは止まっていた。


「ベッカーさん。しばらく、この通りには来れなくなるかもしれません」

「あ? なんだ、どっか新しい奉公先でも見つけたのか?」

「……ええ。自分の『道具』を、一番高く買ってくれる場所へ行こうと思ってます」


 俺は宿へ戻り、唯一の財産である粗末な工具もどきを袋に詰めた。

 向かうのは、王都の北東、古い職人たちが寄り集まる『外縁工房街』。

 あそこなら、魔力がない俺のような「はみ出し者」を、技術だけで選別してくれる風変わりな親父が一人くらいはいるはずだ。


「見てろよ……。魔法も、代償も、全部ひっくり返してやるからな」


 俺は、淀んだ空気が渦巻く中央広場に背を向けた。

 一歩踏み出すたびに、視界の数値が切り替わっていく。

 

 それは明日を照らすための、孤独な戦いの始まりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「代償視覚」が単なるチートではなく、現代の知識を持つからこそ苦しむ「孤独な予言者」のような重みを持たせてみました。

パン屋のベッカーさんをはじめ、魔法に依存する人々の無意識の崩壊を、アレンはどう感じているのか。


次話はようやく工房との出会い、そしてこの世界の素材・技術レベルを探る話になります。

物語が大きく動き出す転換点となります。


感想・評価・ブックマーク、とても励みになります!

気に入っていただけたら、ぜひよろしくお願いいたします✨


作者:KaiSaint

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