【第一話】前世は電気工事士でした
KaiSaintです。プロローグを読んでから来てくださった方、ありがとうございます!
第一話は主人公の視点に切り替わり、転生の経緯と【代償視覚】スキルの発現を描いています。
プロローグであの「坑道」にいた人物が、どのような過去を持つのか——ここから明かされます。
引き続きお楽しみいただけたら幸いです。
目が覚めると、石造りの天井があった。
しばらくの間、俺はそれをぼんやりと見つめていた。
(ああ、夢じゃない)
身体を動かすと、稲の葉を粗末に束ねただけの寝床がガサガサと音を立てた。手を目の前に持ち上げる。日焼けして節くれだった自分の手……のはずが、どこか細い。若い。
「……十六か十七ってとこか」
声まで高くなっている。
前の人生では、俺は真坂亮太という名前だった。享年二十四歳。職業、電気工事士。趣味は現場で余った電線でラジオを自作すること。特技は狭い天井裏を素早く這い回ること。学歴は工業高校卒。頭はよくない。でも手は動く。
死因は、深夜の現場帰りに首都高でトラックに追突されたことだ。痛みはなかった。気がついたら、どこかの森の中で倒れていた。
最初の一日は混乱した。次の一日は状況整理に費やした。三日目には諦めた。
この骨格、この筋肉、どこからどう見ても別人の身体だ。服は麻で出来た粗末なもの。近くの川で顔を映すと、亜麻色の短髪に、くすんだ緑の目をした見知らぬ少年が映っていた。
俺は日本人じゃなかった。
それでも記憶は全部残っている。高校で習った理科も。仕事で覚えた電気配線の知識も。週末に読みふけっていた科学雑誌の内容も。全部。
「……使えるものは使うしかない」
森を出て最初の街にたどり着いた時、俺が真っ先に目撃したのは魔法だった。
商店の軒先で、若い店員が何気なく指を鳴らす。すると薪一本もないのに、暖炉に炎が灯った。道を歩く騎士は、磁石が引き寄せるように落下する荷物を宙で止めた。井戸端の老婆は水を器用に浮かせて洗濯物をすすいだ。
(本当にあるんだ。魔法)
呆然と立ち尽くした俺の目に、その時初めて異変が起きた。空気に文字が浮かんだのだ。まるでゲームの通知みたいに、俺の視界だけに。
【スキル取得:代償視覚】
【魔法使用時の物理的代償を数値で可視化する】
そして即座に、数字が現れた。
【暖炉周辺 酸素濃度:19.1 %(通常:20.9 %)】
【熱量変換:312 kcal / エネルギー収支差分:-1.8 %】
「……は?」
誰も見ていない数字が、俺の視界だけで踊っていた。
その日から俺の日常は変わった。
街のどこにいても、魔法が使われるたびに数字が現れた。大規模な魔法が使われた夜には、広場一帯の酸素濃度が目に見えて下がった。子供が魔法の練習をしている公園では、数時間後に何人かがめまいを訴えて座り込んだ。
誰も不思議に思っていなかった。
「魔法ってそういうもんだよ。ちょっと頭が痛くなるくらい、普通だろ」
宿屋のおかみさんがそう言って笑った。
それが、この世界の「普通」だ。
俺は黙って自分の手のひらを見つめた。入街時の魔力検査で、俺の魔力値はゼロと弾かれた。この世界で魔法が使えないというのは、壊れた道具と同じ扱いを受けることを意味する。魔法使いが花形で、魔力なき者は底辺。それがここのルールだ。
でも、だからこそ。
俺は前の世界のことを思い出した。工事現場で毎日触っていた配電盤。蛍光灯の交換作業。屋外照明の設置。薄暗い場所に光を灯すのが、俺の仕事だった。
(電球、作れないかな)
火を使わない灯り。酸素を消費しない光。魔法がなくても、空気を汚さずに部屋を照らす方法。フィラメントに電流を流して光らせる、あの単純な仕組みを、この世界で再現できれば。
頭がいいわけじゃない。全ての科学知識を持っているわけでも、もちろんない。でも、電気と照明の分野なら。手を動かすことなら。
俺は立ち上がった。
「まず、工房を探そう」
この旅の、本当の始まりだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
主人公・亮太(異世界名は次話で明かされます)の第一歩を描いた話でした。
「天才じゃない」「手を動かすことが好きなだけ」という凡人感、伝わりましたでしょうか。
次話は工房との出会い、そしてこの世界の素材・技術レベルを探る話になります。
電球完成までの道のり——焦らず、でも着実に進んでいきます。
感想・評価・ブックマーク、とても励みになります!
気に入っていただけたら、ぜひよろしくお願いいたします✨
作者:KaiSaint




