【プロローグ】魔法使いが死にかけた日
はじめましての方ははじめまして、KaiSaintと申します。
本作は「もし魔法にエネルギーの代償があったら」という一点から生まれたハイファンタジー作品です。
主人公は天才でも最強でもありません。
ただ、手を動かすことが好きだった——そんな元電気工事士の話です。
魔法の描写に物理・化学的な要素が絡みますが、専門知識がなくても楽しめるよう努めています。
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それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
地下三層の採掘坑道、狭い通路に押し込められた四人のパーティが息を凝らしていた。
「来るぞ……!」
先頭に立つ戦士が剣を構えた瞬間、暗闇の奥から岩トカゲの群れが殺到した。
「エリカ、やれ!」
戦士の叫びに応じて、後方に控えていた少女が両手を前に突き出した。
エリカ=ラント。この国でも指折りの火属性魔法使いで、王都の魔法学院を首席で卒業した才媛だ。
指先が紅く輝く。
俺の目に、数字が浮かんだ。
【酸素濃度:19.4 %】
解放された魔力が空気に混じり、指先に小さな太陽が生まれた。ゴゥッという轟音とともに、坑道の岩壁ごと岩トカゲたちを焼き尽くす業火。熱波が頬を焼く。
【酸素濃度:17.1 %】
【酸素濃度:14.3 %】
「……あ」
俺は声も出なかった。
【酸素濃度:11.8 %】
「エリ……カ?」
戦士が気づいた時にはもう遅かった。エリカの体が前のめりに崩れ落ちた。石の床に激突した顔が、白磁のように白い。
炎は消えた。岩トカゲも消えた。坑道に残ったのは、焼け焦げた岩肌と、薄くなった空気と、倒れたひとりの少女だけだった。
俺は膝をついてエリカを抱き起こした。薄く開いた唇から、かすれた吐息が漏れた。まだ生きている。
「ちくしょう……」
前の世界なら、知っていた。酸素濃度が十八パーセントを下回ると危険域に入る。十六パーセントなら激しい頭痛と眩暈。十二パーセントなら意識を失う。
ここは密閉された地下坑道だ。炎が燃えるために奪った酸素は、空気中から消えた。それだけだ。魔法でも何でもない。ただの化学反応だ。
誰も悪くない。エリカが悪いわけでも、この世界が悪いわけでもない。ただ、誰も知らなかっただけだ。
「……電気があれば、こんな火はいらないのに」
誰に聞かせるでもなく、俺はそう呟いた。
この異世界に転生して、まだ二十日しか経っていなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
プロローグということで、主人公の置かれた状況と、彼の目に映る「魔法の実態」をお見せしました。
彼がどうしてこの世界に来たのか、【代償視覚】とは何なのか——第一話から少しずつ明かしていきます。
次話もぜひ読んでいただけると嬉しいです。
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