表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の魔導師だった俺、隠居して辺境でパン屋を開く~なぜか伝説の魔王や聖騎士が常連客になってしまい、のんびりできない件について~  作者: 綾瀬蒼
(2)章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/50

第44話 世界同時焼き計画、始動

 朝、ベーカリー・エデンのカウンターが“会議室”になっていた。

 紙、地図、印章、通信石。

 パン屋の机に置いていい種類のものじゃない。


「店で政治をするな」

 ルーカスが言うと、ユリウスが淡々と返した。

「政治ではない。防災だ」

「言い換えるな。冷める」


 偽合図網。

 そしてレオンの告白——《無音籠》。

 敵は“合図・香り・味・音”を奪い、列を崩して世界に恐怖を流す。

 なら対抗は一つ。**同時に焼く**。

 どこか一つが潰れても、別の町で焼けていれば列は残る。象徴は分散する。


 ミーナが黒板に大きく書いた。

《世界同時焼き計画》

 字が強い。ちょっと怖い。


「……名前が大げさだ」

「大げさなくらいが伝わります!」

「伝わると人が来る」

「来ると焼きます!」


 魔王グラディオが椅子を引き、腕を組んだ。

「同時に焼けば、同時に腹が落ち着く。戦争より効くな」

 聖騎士セラフィナが頷く。

「“その日だけは争わない”という合図になります」

 竜王は面白そうに言う。

「余の谷でもやる。低音合図も添える」

 レオンが小さく手を挙げた。

「……無音籠が出ても、視覚合図を統一すれば崩れにくいです」


「よし」

 ルーカスは短く言った。

「焼くパンは一つに統一する。簡単で、失敗しても食えるやつ」


 本日の新作——ではない。**世界の基礎**。

 “基本の丸パン”。

 粉、水、塩、酵母(種でも可)。油も砂糖もいらない。

 必要なのは、火と待つ気持ちと、列の作法。


 ルーカスは紙に書いた。


《同時焼き:共通仕様》

・丸パン(手のひらサイズ)

・一人一個(配給列は別枠)

・合図は二重化(鐘+低音/窯鳴り+旗)

・無音時は旗(赤=開始、青=配給、白=停止)

・列の三つのルール(武装解除・割り込み禁止・喧嘩禁止)


「旗まで……」

 ミーナが目を丸くする。

「無音籠が来ても、色は奪えない」

 ルーカスが言う。

「奪えるものを前提にするな」


 ユリウスが地図に印を打つ。

 王都。中立商都。竜の谷。聖都。沿岸の港町。避難民の集まる関所。

 そして——ラスト・リゾート。


「同時刻は?」

 ユリウスが聞く。

「焼ける時間だ」

 ルーカスは答える。

「昼にする。腹が一番荒れる前に落ち着かせる」


 魔王が鼻で笑った。

「昼に腹を落ち着かせれば、午後の戦は減る」

 聖騎士が真顔で頷く。

「救護も回ります」

 竜王が低く笑う。

「余は風で旗を鳴らす」

「旗は鳴らない」

「鳴らす」


 ミーナが鐘を持ち上げ、言った。

「じゃあ……合図はこれで始めましょう。今日は予行演習!」

「予行とか言うな」

「予行です!」


 開店前。平和通りに旗が立った。

 赤、青、白。

 村長が勝手に支柱を作っていて腹が立つ。税の匂いがする。


 ルーカスは窯に丸パンを入れ、火を見た。

 魔法は使わない。ここで失敗したら、世界が真似できない。


 焼き上がり。

 パチッ、と小さく皮が鳴る。

 ミーナが赤旗を上げ、鐘を一回鳴らした。チリン。

 竜王が響き石を二回叩く。ゴン、ゴン。

 上書き合図、成立。


 列が静かに動く。

 避難民の子が丸パンを受け取り、すぐにかじった。

 バリッ、ではない。もっちり。素朴。

 でも、温かい。


「……これでいい」

 ルーカスが呟く。

「派手じゃなくていい。毎日続けられるのが強い」


 その瞬間、通信石が一斉に光った。

 王都から、聖都から、港町から。

 同じ報告が飛び込んでくる。


『旗を用意した』

『列の授業を始めた』

『合図責任者を決めた』

『丸パン、焼けた』


 店の中に、少しだけ静かな熱が広がった。

 象徴が、分散していく音だ。


 レオンが小さく言った。

「……禁味は“無音”で支配する。なら同時焼きは、“同時に生活を鳴らす”作戦です」

「言い方だけは格好いいな」

「すみません……」


 ルーカスは天板を拭き、次の生地を丸めた。

 世界同時焼き。

 それは戦争を止める大作戦じゃない。

 ただ、各地で“焼きたてを守る作法”を同じ日に確認する、生活の行事だ。


 そして、いつもの一言で締めた。

「パンが冷めるぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ