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最強の魔導師だった俺、隠居して辺境でパン屋を開く~なぜか伝説の魔王や聖騎士が常連客になってしまい、のんびりできない件について~  作者: 綾瀬蒼
(2)章

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第40話 式典の爆発と、デコピンが届かない距離

 王都で貴族が並んだ。

 それだけで十分な事件なのに、王都は“もっと事件を盛る”才能がある。


 朝、ユリウスが店に飛び込んできた。珍しく息が乱れている。

「王都の式典で爆発が起きた」

「……言うな。現実になる」

「もうなっている」


 ミーナが青ざめる。

「えっ、怪我人は!?」

「死者は今のところ無し。だが——“焼きたて”が狙われた」

 ユリウスは紙を叩く。

「禁味残党だ。式典壇上のパンを“扇動の象徴”として爆破し、混乱を映像で流すつもりだった」


 魔王が入ってきて、鼻で笑った。

「パンを爆破するとは、ついに頭がおかしくなったか」

 聖騎士は真顔で怒っている。

「食の場を戦場にするのは許せません」

 竜王は低く唸る。

「火遊びが過ぎる」


 ルーカスは窯の前で腕を組み、短く言った。

「……王都は遠い。デコピンが届かない」


 自分で言って、少しだけ嫌になった。

 これまで、面倒は半径百メートルの外へ飛ばせば終わっていた。

 だが王都の爆発は、指先では止まらない。

 つまり——“仕組み”で止めるしかない。


「ミーナ」

「はい!」

「鐘だ。……“合図の合図”を作る」

「合図の合図?」

「偽物が鳴っても、列が崩れない合図」


 レオンが小声で呟く。

「二重化……禁味が嫌うやつです」

「暗い知識で嬉しそうにするな」

「はい……」


 その日の新作は“硬めのプレッツェル”。

 ねじって焼く。表面を苛性液で処理して独特の皮を作る——と言いたいところだが、危ないのでこの世界では“塩水で強く茹でる”方式にした。

 狙いは「噛む回数が増えるパン」。噛めば落ち着く。落ち着けば動かない。


 そして、王都へ送るのはパンだけじゃない。

 ルーカスは紙を一枚、太字で書いた。


《式典用:合図の二重化》

①鐘は“開始”だけに使え

②配給は“窯鳴り”で知らせろ

③窯鳴りが聞こえない場所は“回数”を決めた低音(響き石)

④誰かが勝手に鳴らした合図は無視(合図は“担当者”が鳴らす)


「担当者?」

 ミーナが首を傾げる。

「誰がやるんです?」

「並ぶ奴が一番嫌がる奴」

「え?」

「貴族だ。……“自分で合図係をやる”と、列は守る」


 魔王が笑った。

「屈辱を秩序に変えるか」

 聖騎士が頷く。

「責任を負う人がいれば、群衆は安心します」

 ユリウスがメモを取る。

「王都に提案する。式典の“合図責任者”を任命」

「条文化するな」

「これは条文化だ」

「やめろ」


 午後、魔法通信石がまた鳴った。勝手に。最悪。

 向こうの料理長は青い顔だ。背景が騒がしい。

『爆発で壇上が半壊しました! でも、列は……列は崩れませんでした!』

「理由」

『“焼きたては一人一個”の札が残っていて、皆、見て……止まりました』

 料理長は息を吸い、続ける。

『ただ、禁味札が混ざってました。香りが一瞬消えて——』


 ミーナが息を呑む。

 ルーカスは短く言った。

「噛めるものを配れ。香りが消えても、噛む音は残る」

『はい! 硬めのパンを……!』

「そして合図は二重化しろ。誰が鳴らすか決めろ」


 通信石の向こうで、別の声が割り込んだ。高慢な貴族の声。

『誰が合図係など——』

「お前だ」

 ルーカスが即答した。

『な、何を——』

「並ぶのが嫌なら、合図係をやれ。責任を負え。……粉が舞う前にな」


 一瞬の沈黙。

 やがて貴族が小さく咳払いした。

『……分かった。私が鳴らす。二度と爆破させん』

「よし」

 ルーカスは頷いた。

 貴族が責任を負うのは、世界が動くより確実な力だ。


 通信が切れ、店内に静けさが戻る。

 ルーカスはプレッツェルを棚に並べ、塩の粒を指で払った。


「……遠い場所の面倒は、指じゃ飛ばせない」

 ミーナが小さく言う。

「でも、届いてますね。ルーカスさんの“やめろ”」

「やめろって言っても、やめないからな」


 魔王がぼそり。

「貴様、結局世界中にデコピンしているようなものだ」

「してない」

 ルーカスは即答し、最後にいつもの言葉を落とした。

「パンが冷めるぞ」

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