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最強の魔導師だった俺、隠居して辺境でパン屋を開く~なぜか伝説の魔王や聖騎士が常連客になってしまい、のんびりできない件について~  作者: 綾瀬蒼
(2)章

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第39話 王都の初焼きと、並ぶ貴族

 返書を出して三日後、ベーカリー・エデンに“返事の返事”が届いた。封蝋は王都、筆致は焦っている。


《種、受領。だが、泡が怖い。

育て方が分からない。至急、指導を求む》


「……分からないなら触るな」

 ルーカスは胃を押さえた。王都はいつも余計なことをする。


 ミーナが目を輝かせる。

「行かないんですよね? じゃあ、手紙で指導ですね!」

「手紙は政治じゃない」

「指導です!」


 その日の新作は“ジャムパン”。甘さで誤魔化せない生地の基礎を、王都にも叩き込むためだ。

 ルーカスは紙を広げ、太字で書いた。


《王都向け:種の育て方(最低限)》

・触る前に手を洗え

・毎日混ぜろ(力を入れるな)

・寒ければ布で包め(火で炙るな)

・匂いを嗅げ(怖がるな)

・死なせたら、やり直し


「最後、脅しですか?」

「現実だ」


 鈴。ユリウスが入ってきて、淡々と言う。

「王都の式典、予定通り開催。だが“焼けない”可能性が高い」

 魔王が鼻で笑う。

「貴族は並べぬ。列の作法がない」

 聖騎士が頷く。

「なら、学んでもらいましょう」

 竜王は面白そうに言う。

「王都の貴族が三列を作る姿、見たい」

「見物に行くな」

 ルーカスが即座に切る。混む。


 夕方、王都から魔法通信石が届いた。勝手に繋がるタイプだ。最悪。

 石の向こうで、王都の料理長が泣きそうな顔をしている。背後には、金ピカの貴族たちが腕を組んでいる。


『泡が出ます! これ、毒では!?』

「毒ならもう死んでる」

『匂いが酸っぱい!』

「生きてる」

『混ぜると粘る!』

「当たり前だ」


 貴族の一人が口を挟む。

『その“種”を我が家に優先的に――』

「店で政治をするな」

『ここは王都だ!』

「なおさらするな。冷める」


 料理長が小声で言った。

『式典の壇上に“焼きたて”を置けと……無茶です。貴族が先に取ります』

「列を作れ」

『列……?』

「三列だ。村・一般・配給」

『王都に村はありません!』

「あるだろ。腹の減った奴が」


 通信石の向こうで、沈黙。

 やがて聖騎士のような声が混ざった。王都の衛士らしい。

『……列を作ります。割り込みは拘束します』

 急に強い。王都は怖い。


 そして――音がした。

 パチッ。遠いはずの焼き割れの音が、通信石を通して聞こえた。

 料理長が目を見開く。


『焼けました! 香りが……!』

「食レポ禁止」

『す、すみません! でも、貴族が……並んでます!』

「並べるだろ」

『信じられません! “焼きたては一人一個”って札を見て、黙って……!』


 魔王が肩を震わせて笑った。

「王都が並んだぞ」

 ユリウスがメモを取る。

「歴史的事件だ」

「条文化するな」

「しない。記録だ」

「同じだ」


 通信石の向こうで、料理長が泣き笑いした。

『……合図があると、落ち着きます。鐘を鳴らしたら、列が止まりました』

「そうか」

 ルーカスは窯の火を見つめ、少しだけ息を吐く。

 俺が行かなくても、焼けた。並んだ。噛む音が出た。


『また指導を……!』

「紙で送る」

『ありがとうございます!』

「礼はいらん。混ぜろ。死なすな」


 通信石を切り、ルーカスはジャムパンを棚に並べた。

 世界が勝手に学ぶなら、俺の休日に近づく――はずだ。たぶん。


「パンが冷めるぞ」

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