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最強の魔導師だった俺、隠居して辺境でパン屋を開く~なぜか伝説の魔王や聖騎士が常連客になってしまい、のんびりできない件について~  作者: 綾瀬蒼
(1)章

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第10話 禁忌のサンドと、世界を挟む昼休み

 朝の騒動が嘘みたいに引くと、ベーカリー・エデンには“昼”が来る。

 昼は戦場より危険だ。腹が減った連中は、理性より先に手が出る。


「……今日はサンドだ」


 ルーカスは昨日のバゲットを薄く切り、表面だけを焼き締めた。中身は塩漬け肉、香草、チーズ、そして“聖水(魔水)”を一滴落とした自家製ソース。禁忌の魔法で世界を焼くより、一滴のバランスで味が崩れる方が怖い。


 ミーナが札を掲げる。

《本日の昼限定:禁忌のサンド(※禁忌ではありません)》

「変な名前つけるな」

「売れるんです!」

「俺の胃が死ぬ」


 その胃を狙い撃つように鈴が鳴った。


 魔王グラディオ、聖騎士セラフィナ、竜王、禁魔庁局長ユリウス。いつもの“四天客”が、昼にも揃ってしまった。

 全員が武装解除し、私服で、行列に並ぶ。もはや異様に行儀がいい。怖い。


「昼に来るな」

「朝だけでは足りぬ」

「任務です」

「監査です」

「余は……腹だ」


「理由が弱い」

 ルーカスは即座に返した。


 ちょうどその時、入口の木箱がガタガタと揺れた。預けた武器の山が、勝手に動いている。

 局長ユリウスが目を細める。

「……呪具だ。誰かが“回収”を仕掛けたな」


 扉が静かに開き、黒いスーツの男が入ってきた。笑顔が薄い。目が笑ってない。

 首元の徽章は《商会連盟》――中立のはずの巨大組織。


「どうも。私は“買い付け担当”です。こちらの店の新作を、世界に流通させたくて」

 ミーナが目を輝かせる。

「えっ、チェーン展開!?」

「やめろ」

 ルーカスが即答した。


 男は笑ったまま、机の上に契約書を置く。

「配合、製法、火加減。すべてを開示してください。対価は金貨一万枚。断れば——」

 指が鳴る。

 木箱の武器が浮いた。刃が勝手に踊り、店内に向く。


 粉が舞う未来が見えた。


「……外でやれ」

 ルーカスは低い声で言った。

「ここでやると、パンが乾く」


 男は肩をすくめる。

「外だろうが中だろうが同じです。あなたが魔法を使えば禁魔庁が止める。使わなければ刃が——」


「使わない」


 ルーカスはサンドを一つ作り、男の前に置いた。

 焼き締めたパンの香り。塩とハーブ。チーズの脂。ソースの酸。


「食え」

「毒でも?」

「毒なら店が終わる。俺が困る」


 男は疑いながら一口噛んだ。

 次の瞬間、眉間の皺がほどけた。

 二口目で、契約書を握る力が弱くなる。

 三口目で、武器の浮遊が落ち着いた。呪具が“満足”したみたいに静かになる。


「……な、なんだこれは……」

「挟んだだけだ」

「挟まれているのは……私の……欲……?」


 竜王が低く笑った。

「輪ではなく、挟まれるのも悪くないな」

「こじつけるな」

 ルーカスが即ツッコミを入れる。


 魔王が男に顔を寄せる。

「貴様、流通させたいと言ったな。ならば条件がある」

 聖騎士が続ける。

「戦争地域への搬送は禁止。まずは孤児院と避難民へ」

 局長が淡々と追い打ちする。

「契約は禁魔庁の監査下で。レシピ開示は不可。ブランドの独占も不可」


 商会の男は、サンドの最後の一口を噛みしめながら、震える声で言った。

「……分かりました。独占は……しません。条件……飲みます」

 ミーナがぱちぱち拍手する。

「わー! 世界に広がるベーカリー・エデン!」

「広げるな」

 ルーカスが即座に言う。

「店は一軒でいい。俺の昼休みが死ぬ」


 それでも、サンドは増産になるだろう。配布の話が進めば、会談が増える。

 ルーカスは胃を押さえ、次のパンを切った。


 ……世界を救うより、昼休みを守る方が難しい。10話 禁忌のサンドと、世界を挟む昼休み


 朝の騒動が嘘みたいに引くと、ベーカリー・エデンには“昼”が来る。

 昼は戦場より危険だ。腹が減った連中は、理性より先に手が出る。


「……今日はサンドだ」


 ルーカスは昨日のバゲットを薄く切り、表面だけを焼き締めた。中身は塩漬け肉、香草、チーズ、そして“聖水(魔水)”を一滴落とした自家製ソース。禁忌の魔法で世界を焼くより、一滴のバランスで味が崩れる方が怖い。


 ミーナが札を掲げる。

《本日の昼限定:禁忌のサンド(※禁忌ではありません)》

「変な名前つけるな」

「売れるんです!」

「俺の胃が死ぬ」


 その胃を狙い撃つように鈴が鳴った。


 魔王グラディオ、聖騎士セラフィナ、竜王、禁魔庁局長ユリウス。いつもの“四天客”が、昼にも揃ってしまった。

 全員が武装解除し、私服で、行列に並ぶ。もはや異様に行儀がいい。怖い。


「昼に来るな」

「朝だけでは足りぬ」

「任務です」

「監査です」

「余は……腹だ」


「理由が弱い」

 ルーカスは即座に返した。


 ちょうどその時、入口の木箱がガタガタと揺れた。預けた武器の山が、勝手に動いている。

 局長ユリウスが目を細める。

「……呪具だ。誰かが“回収”を仕掛けたな」


 扉が静かに開き、黒いスーツの男が入ってきた。笑顔が薄い。目が笑ってない。

 首元の徽章は《商会連盟》――中立のはずの巨大組織。


「どうも。私は“買い付け担当”です。こちらの店の新作を、世界に流通させたくて」

 ミーナが目を輝かせる。

「えっ、チェーン展開!?」

「やめろ」

 ルーカスが即答した。


 男は笑ったまま、机の上に契約書を置く。

「配合、製法、火加減。すべてを開示してください。対価は金貨一万枚。断れば——」

 指が鳴る。

 木箱の武器が浮いた。刃が勝手に踊り、店内に向く。


 粉が舞う未来が見えた。


「……外でやれ」

 ルーカスは低い声で言った。

「ここでやると、パンが乾く」


 男は肩をすくめる。

「外だろうが中だろうが同じです。あなたが魔法を使えば禁魔庁が止める。使わなければ刃が——」


「使わない」


 ルーカスはサンドを一つ作り、男の前に置いた。

 焼き締めたパンの香り。塩とハーブ。チーズの脂。ソースの酸。


「食え」

「毒でも?」

「毒なら店が終わる。俺が困る」


 男は疑いながら一口噛んだ。

 次の瞬間、眉間の皺がほどけた。

 二口目で、契約書を握る力が弱くなる。

 三口目で、武器の浮遊が落ち着いた。呪具が“満足”したみたいに静かになる。


「……な、なんだこれは……」

「挟んだだけだ」

「挟まれているのは……私の……欲……?」


 竜王が低く笑った。

「輪ではなく、挟まれるのも悪くないな」

「こじつけるな」

 ルーカスが即ツッコミを入れる。


 魔王が男に顔を寄せる。

「貴様、流通させたいと言ったな。ならば条件がある」

 聖騎士が続ける。

「戦争地域への搬送は禁止。まずは孤児院と避難民へ」

 局長が淡々と追い打ちする。

「契約は禁魔庁の監査下で。レシピ開示は不可。ブランドの独占も不可」


 商会の男は、サンドの最後の一口を噛みしめながら、震える声で言った。

「……分かりました。独占は……しません。条件……飲みます」

 ミーナがぱちぱち拍手する。

「わー! 世界に広がるベーカリー・エデン!」

「広げるな」

 ルーカスが即座に言う。

「店は一軒でいい。俺の昼休みが死ぬ」


 それでも、サンドは増産になるだろう。配布の話が進めば、会談が増える。

 ルーカスは胃を押さえ、次のパンを切った。


 ……世界を救うより、昼休みを守る方が難しい。

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