第7話:手書きカリキュラムは、愛情と必死の象徴
「よし、今日は“教育革命”の日だ。」
中庭のベンチにちょこんと座る俺の目の前には、膝の上に広げた巨大な羊皮紙と、太めの羽ペン。
そしてインク壺。
なんなら、指先はもう黒い。誤ってかじってしまったせいで、舌もうっすら黒い。苦い。
「これは未来への投資……!人は資産……!」
なにせ、教育は愛情である。いや、建前だけど。
でも、手書きってそういう雰囲気が出るのだ。
市販の教本に載っていない、“その子専用”の“君だけノート”――これは効く。
俺は知っている。乙女ゲーで学んだ。
というわけで、各部下用に作った“特別カリキュラム”が以下である。
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【ジル:体幹ゴリラ型】
●訓練目標:「守れる盾役」
●内容:
・毎朝、重り付き棒立ち耐久訓練(10分)
・おんぶしながら家の周囲を走れ(俺を)
・「ノックしてから入る」を学ぶ(意外と重要)
【サーシャ:集中力の鬼】
●訓練目標:「精密魔法支援」
●内容:
・一日一瞑想(時間:サーシャの集中が切れるまで)
・鳥の鳴き声模写(耳と集中力の鍛錬)
・魔法触媒の持ち方を練習(キラキラした石でテンション↑)
【レオン:高速ちびっ子】
●訓練目標:「疾風の連絡係」
●内容:
・“鬼ごっこ”強化週間(俺は絶対逃げ切れない)
・素手ナイフ投げ練習(目標:命中率10%突破)
・叫ぶ訓練(伝令は声も重要)
【ミナ:不屈のメンタル】
●訓練目標:「絶対生き残る娘」
●内容:
・毎日転ぶ訓練(痛みに慣れろ)
・自分の服を縫う(生存スキル)
・自分の昼飯を確保する(庭の草に触れる勇気を持て)
【ダント:沈黙の観察者】
●訓練目標:「サブ司令官」
●内容:
・読書タイム(週1冊)
・村人の観察日記をつける(“不審者”と言われないよう注意)
・俺の言い訳を完璧に覚える(副官は主君を守るのも仕事)
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「ふふふ……これで君たちは化ける……きっと。」
文字はぐにゃぐにゃ、インクで紙が破けて、ところどころ“おう”と“あぅ”が混在しているけど、それがいい。味がある。努力の味だ。
「リオン様、何をされているんですか?」
ロルフさんが背後から覗き込んでいる。やべっ、字がバレた。
「……直属部下育成計画書です。」
「ほほぉ。……これはまた“戦略的ですね”。」
あ、気を遣ってくれてるのわかる。でもいいんです、最初は“風”でいい。あとで結果を出せば、それが全部“先見の明”に変わる。
リオン・フォン・エルトレード、2歳10ヶ月。手書きの魔力にすがった冬の昼下がりの出来事である。
つづく。




