最終話:世界のどこかで、君は笑っている
都市の西の郊外、
夕暮れの風が草を揺らし、魔導端末のホログラムが淡く光っていた。
その片隅、名もない公園のベンチの下に寝転ぶ二人の少年がいた。
---
「リオーン!お前またステ振り間違えてんじゃねーか!火力足んねーよ!」
「いや、ちょっと補助型でバランス取ろうと思って……。」
「何がバランスだ!俺がバチバチに殴ってんだから、お前はもっと後ろで火の雨でも降らせとけ!」
「えぇ……めちゃくちゃ言うなあ、フリッツ……。」
---
フリッツ。かつてリオンが“近所のジャイアン”として恐れた幼馴染。
だが今や、誰よりも熱く、誰よりも真っ直ぐで、
リオンとこうして笑い合える、かけがえのない友人だった。
---
一方その頃、リオンの屋敷では――
かつて“最強の使用人”と噂された老執事は、今日も平然とお茶を淹れていた。
「坊ちゃまは今日も外で遊んでおられますか」と笑いながら。
ティーナ、アルゴ、マルタは屋敷の掃除、洗濯、事務連絡――それぞれの仕事を一糸乱れずこなしている。
リオンの両親に忠義を尽くす日々のなかで、時折リオンの話題が出ると、皆少しだけ笑う。
「まぁ……あの方は、どこまでも自由な子ですから。」
---
そして、かつてリオンに拾われた五人の戦争孤児たち――
ジルは剣の才を磨き、今や《戦技教導局》の筆頭指導官。
最前線で戦士を育てつつ、夜は孤児たちに剣術を教えている。
サーシャは魔術の理論を極め、《魔術言語再編計画》のリーダーに。
教育用の魔導書を次々と生み出し、母国語で魔法を教える世界を目指している。
レオンは統計と経済に精通し、《職能流通省》で物資と情報の橋渡しを担う。
都市間協定の半分には、彼の名が添えられている。
ミナは福祉特化のVR空間「やすらぎ街区」を設計し、各地の高齢者や病弱者の拠り所となる。
彼女のログイン通知には、必ず“ありがとう”の言葉が並ぶ。
ダントは何度も失敗しながら、今では《技術試作庁》の主任研究員。
日々何かを爆発させては、世界を一歩進めている。
彼らは各地で言うのだ。
「リオンに拾われていなかったら、俺たち……“誰”にもなれなかった。」
---
夕暮れのなか、フリッツがゲラゲラ笑う。
「おいリオン!やっとラストボスだぞ!準備はいいか!?」
「うん、準備万端……!」
飴を転がしながら、リオンは目を細める。
世界は、もう彼の名前を必要としていない。
だが、彼が蒔いた“仕組み”と“思い”は、
人の姿を借りて、土地を借りて、静かに、確かに動いていた。
---
『リオンクエスト・ゼロ:はじまりの街』
それが、今ふたりが遊んでいる新作ゲームのタイトルだった。
画面の向こう、誰もが最初のステップを踏み出す“あの街”から始まる冒険。
きっと、誰かがまた、自分の世界を作るのだろう。
---
「人生ってさ、案外、何周でも遊べるんだね。」
「意味わかんねぇけど、なんかそれっぽいな、お前。」
二人は、笑った。
風が吹いていた。
おしまい。




