第43話:学びは言葉ではなく、結果で語る――教育外交の幕開け
場所は、再び国連会議の場。
だが今回は、戦争でも経済でもなく――
《教育亡命》を巡る緊急外交会談だった。
会場は緊張に包まれていた。
アーグラ代表が立ち上がり、冷たい声で言い放つ。
「王国の行為は“思想の越境”であり、我が国への侵略行為に等しい。」
「“教育”という名のもとに、民を洗脳し、国を揺るがすのは許されざる行為だ。」
ざわめく場内。
その中心で、王国の代表――そして、国師であるリオン・フォン・エルトレードが、静かに前に出た。
彼の隣には、かつてアーグラから亡命してきた少年と少女。
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「私は言葉で、説得はしません。」
「ただ、“数字”と“現実”をお見せします。」
背後の魔術式投影に映し出されるのは――
・リオン式導入国における識字率の上昇グラフ
・平均寿命の伸び
・犯罪率の減少
・経済成長曲線
・国民満足度の調査
そして次に、亡命者に関するデータが映る。
・亡命者総数:月間1,000名超
・平均年齢:18歳以下が過半数
・亡命後の再教育成功率:92%
・職能就業率:76%
リオンは、はっきりと告げた。
「これが、学びがもたらす“結果”です。」
「亡命してくる人々が後を絶たないのは、私たちが奪っているからではありません。」
「“求められている”からです。“学びたい”という意志に、我々は応えているだけ。」
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場内に沈黙が走る。
リオンは続けた。
「貴方たちが“教育を禁じる自由”を主張するなら、私たちは“学びを提供する責任”を選びます。」
「そして、学びを受け入れた国々をご覧ください。」
魔術映像が、世界各地の光景を映し出す。
・農村で文字を読み解く老人
・工房で機械を組み立てる少年
・裁判所で弁論する少女
・診療所で助けを求める人々を導く医師たち
すべて、“学びを得た”者たちの姿だった。
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アーグラ代表は沈黙した。
世界は、“否定”ではなく、“問い返し”の眼差しを向けていた。
(なぜ、彼らは“学ばせない”のか?)
その場で明確な反論を返す者はいなかった。
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リオン・フォン・エルトレード、5歳と10ヶ月。
彼はこの日、“言葉の戦争”に勝ったのではない。
“現実”で、世界を圧倒したのだった。
つづく。




