第41話:声高に語らずとも、“姿”が語る――学びの祭典、開幕
場は、かつて“知識の黒海”と呼ばれた地域。
そこは、隣国アーグラ――“教育禁制国家”との国境近くに設けられた。
木と石と魔道具で組み上げられた仮設都市には、世界中から人が集まる。
その名は――《学びの祭典》。
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各国代表が席に着くなか、アーグラの代表団の姿もあった。
仮面と黒衣に身を包んだ彼らは、無言で周囲を見回していた。
そんな彼らの目に映ったのは――
・複雑な魔術式を即興で応用し照明装置を組む少年
・自作の水循環農業模型を披露する少女
・10カ国語で観光案内する語学チーム
・平均年齢14歳の“司法模擬裁判”劇団
・木工芸、製薬術、測量術、航海術、すべて“学んだ子どもたち”による出展
舞台も、接客も、案内も、管理も――すべて学生たちの手によるものだった。
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リオンは、会場の外れで静かに見守っていた。
「“見せる”だけでいい。“言い聞かせる”より、“ありのまま”を見せる方が強い。」
ロルフさんが隣でうなずいた。
「彼らは語らずとも、“学ぶこと”の意味を背中で示しています。」
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そして、祭典3日目。
ついにアーグラ代表の一人が、リオンのもとに歩み寄った。
仮面の奥から、かすれた声が問う。
「……これは、本当に“教育”なのか?」
リオンは答える。
「ええ。“教育”です。生まれの違いも、国境も関係ない。“学べたかどうか”だけが、人を変える。」
「……こんなものを、我が国に入れるつもりか?」
「いいえ。押し付けません。望まれるまでは、決して。」
「……それでも、これだけの民がこれを求めると?」
リオンは、会場を一望しながら言った。
「人は“学び”を見たら、それを欲しがるんです。“それが幸せに繋がる”と知ってしまうから。」
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その夜、アーグラ代表団は無言で帰った。
だがその背中には、確かに“揺らぎ”があった。
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祭典は大成功に終わり、世界各国の教育庁は“次年度も開催”の意志を表明。
リオン式は、“見せることで広がる教育”として新たな形を得た。
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リオン・フォン・エルトレード、5歳と8ヶ月。
彼は、説教せず、演説もせず、“ただ育った者たち”を立たせた。
その姿が、世界中の“学びを閉ざす者”たちに、最も痛烈な問いを突きつけることになったのだった。
つづく。




