第40話:世界を“見せる”――知識の地図が国を動かす
王国首都・新教育総合展示場。
今日から3日間、ここで“第一回・国際教材見本市”が開催される。
訪れるのは、各国の教育関係者だけでなく――
宰相、大臣、そして“王”たち。
だがその会場で、誰もが足を止める展示があった。
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それは――巨大な“地球儀”だった。
直径三メートル。手回し式。大陸の凹凸が手でなぞれる構造。
内部には光が灯り、昼夜の移動を再現。
そしてその横には、同じ縮尺で作られた“地図模型”があった。
山脈、河川、都市、国境。
そのすべてが、“実際の比率”で再現されていた。
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リオンが案内人として登壇する。
「これが、“私たちの住んでいる世界”です。」
「ここが王国。そして……ここが帝国。ここは、教育を禁じている国。」
「……どこも、同じ大きさの“人間”が住んでいます。」
「なのに、“学ぶ機会”は、こんなに違う。」
王たちの顔が、険しくなる。
「……現実を、目で見てしまったな。」
ある国の元首が、ぽつりと呟いた。
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見本市は連日大盛況だった。
・魔術式投影機で浮かび上がる“魔法解剖図”
・大工が講師を務める“組み立て式屋根模型”
・農業体験VR装置(音声付き)
教材は“知”だけでなく、“職”を、“技”を、“生き方”を見せていた。
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王国は、ある提案を持ち込んだ。
「教材の販売収益を原資とし、各国に学校設立を支援する。」
「条件は、“学びを閉ざさない”こと。そして、“誰でも入学できる”こと。」
各国代表たちは議論した。
だが――誰も否定できなかった。
(教育は、すでに“武器”より影響力を持っている。)
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こうして、王国は“学校設立支援条約”を締結。
さらに、職能特化の《専門学校》設立も認められた。
農業、建築、医療、魔術、言語、記録、治水、裁判、商業。
あらゆる“技と知”が、職業教育として制度化されていく。
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リオン・フォン・エルトレード、5歳と7ヶ月。
彼は世界に“現実”を見せ、国に“学ぶ責任”を思い出させた。
国を守るのは、兵ではない。
“世界を見て学んだ人間”なのだ。
つづく。




