第38話:描けない。だから、“描ける誰か”が必要なんだ
「……絵が、描けない……。」
リオンが、机に突っ伏していた。
目の前には、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされた羊皮紙と、折れたペン。
「脳の断面図って、なんでこんなにややこしいの!?」
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数日前、ある医師からの依頼が届いた。
『地方での応急医療用に、“人体の基礎構造”を教材化できないか』
リオンはすぐに着手した。
だが、描いてみてすぐに思い知った。
(……俺、“感覚派”じゃない。これは“描写技術”と“専門知識”の融合だ……。)
続いて魔術師ギルドからも、同様の依頼が届いた。
『新規入門者向けに、“魔術式構造”の教材が欲しい。既存の魔術書は難解すぎる』
(いや無理無理、魔術陣の精密図なんて芸術レベルじゃん……。)
リオンは観念し、手紙を書いた。
『サーシャ、助けて』
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サーシャ・レヴァント――かつてリオンが拾い、育て、今や王国育成庁の“教材美術部門長”となった卒業生のひとり。
数日後、颯爽と現れたサーシャは、乱雑な図面を見て苦笑した。
「うん、リオン様。これ、脳じゃなくて“じゃがいも”にしか見えません。」
「うう……やっぱりそう見えるよね……。」
「でも、素晴らしいです。“限界を認める”ってのは、次に進む第一歩ですから。」
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サーシャを中心に、リオン式卒業生の中から新たな“専門協力者チーム”が組織された。
・医療:元育成庁保健師+医大組
・魔術:初期リオン式魔術適正組
・建築・測量:元現場実習生+旅大工たち
これにより、リオン式教材は“基礎+専門”のハイブリッド化が始まる。
さらに――
「この図面づくり、仕事になる?」
「報酬って、ちゃんと出るの?」
「リオン様、専属契約とかできませんか?」
“教材づくり”を“職”にする卒業生たちが続々と現れ始めた。
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リオンは、図面の完成した“初級人体構造図”を見つめた。
正面図・側面図・臓器の位置・血管の流れ――
それは、命の地図だった。
「俺が描けなくても、伝えられる人がいればいい。
その人がまた誰かに教えて、いつか……俺の知らない場所で誰かがそれで命を救うなら。」
「それでいいんだよな、“教育”って。」
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リオン・フォン・エルトレード、5歳と5ヶ月。
手を離れた教材は、他者の手で完成され、“学びの輪”として還ってきた。
限界とは、“終わり”じゃない。
それは、“誰かと手を取る”きっかけなのだから。
つづく。




