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転生特典のない俺は最強の布陣で異世界に挑む  作者:


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33/60

第33話:それは、火ではなく“水”。静かに染み込む、知の革命

帝国南部・バラン領。


新たに設立された“リオン式仮分校”には、朝から様々な声が飛び交っていた。


「踊って九九!?ふざけるな!」


「読み書きは“論語”から始めるのが帝国の常識だ!」


「“算数の冒険絵本”?そんなものは教育ではない!」


分校の前に集まったのは、伝統主義の貴族や学者たち。


しかし――中から聞こえてきたのは、明るい笑い声だった。


「わたし、買い物で計算できたよー!」


「“い-ろ-は-に-ほ-へ-と”、歌で漢字も覚えた!」


リオン式教材は、子どもたちにとって“遊びながら学ぶ”入り口だった。



---


数日後、帝国地方紙にひとつの投書が掲載された。


投稿者は、ある学者の孫娘だった。


『祖父は、リオン式を笑っていた。でも、わたしは学んだ。


 そして、祖父が“間違えていた歴史年代”を、指摘してしまった。


 祖父は怒らなかった。ただ、黙って、私の本を読み始めた。


 “知る”って、恥じゃない。“知らぬままを良しとする”のが、恥だと知ったから』



---


リオンは、その報告を育成庁で聞いて、ただ一言つぶやいた。


「……水だな。」


ロルフさんが尋ねた。


「水、ですか?」


「うん。“火”は一気に燃えるけど、“水”はゆっくり、でも確実に染みる。

 抵抗はある。でも、“必要だ”と体が知ってれば、やがて受け入れる。」



---


事実、帝国の一部都市では大人向けの“夜間教室”が自然発生的に始まっていた。


・計算ミスで損をしていた商人

・読み書きできず契約で搾取されていた農民

・時代の変化についていけなかった兵士


彼らは皆、子供たちに教わるようになっていた。


「この“教材”……息子がくれたんです。“パパも使ってみて”って。」


「教えてくれるのは孫娘で……先生がちっちゃくてねぇ……ありがたくて泣けるよ。」



---


そして、静かに一つの言葉が帝国に根づいていく。


「リオン式は、子ども用ではない。“生き直す”ための道具なんだ。」



---


リオン・フォン・エルトレード、5歳。


火を使わず、刃も振るわず、ただ“知”という名の水をまき続けている。


それは、誰の心にも届くもの――“未来”の土壌を潤すものなのだから。


つづく。

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