第32話:戦を止めるのは、剣でも金でもなく、“知”だった
場所は、両国の国境にある旧修道院。
ここが、王国と帝国の和平交渉の場となった。
王国側代表:宰相デュラン、軍務卿ライナー、そして育成庁代表――リオン・フォン・エルトレード。
帝国側代表:元帥バルゲン、宰相エルベルト、外交補佐官ロザリエ。
その中央に、静かにリオンが座る。
誰よりも小さく、だが最も重い言葉を持って。
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会談は、王国側が完全に主導。
「王国はすでに帝国軍を各戦線で包囲。現在は貴国の自発的撤退によって無血回収が進行中。」
「さらに補給線断絶により貴軍の継戦能力は大幅に低下している。」
「戦を続ける合理性は、貴国側にはないと判断されます。」
帝国側は、言葉を返せない。
事実が、すべてを語っていた。
そこでリオンが、口を開く。
「……降伏条件は提示します。でも、それは“命令”じゃない。“提案”です。」
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【和平条件】(王国→帝国)
1. 帝国は戦闘行為の完全停止と撤兵を行う
2. 今後10年に渡る定期交流会談の設置
3. 王国からの“リオン式教材”の安定供給
4. 帝国側各地に分校設立支援(希望制)
5. 帝国民の希望者に対する“育成庁研修”の提供
「我々は、戦わずに済む力を渡します。“戦いの強さ”ではなく、“戦わなくてもよくなる力”です。」
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帝国側、沈黙。
そのとき、外交補佐官ロザリエが立ち上がる。
「……どうして、そこまでして“教える”のですか?」
リオンは、しばし沈黙した後、言った。
「“教える”って、“信じる”ってことだから。」
「あなたたちは、変われるって思ってる。だから渡す。力じゃなく、“希望”を。」
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帝国宰相エルベルトが深く、頭を下げた。
「……この条件、受け入れます。共に歩みましょう。新たな“学びの時代”を。」
会談は、和平で終わった。
だが、それは“始まり”でもあった。
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リオン・フォン・エルトレード、4歳と11ヶ月。
彼は、剣も振るわず、血も流さず、国を救った。
そして、別の国も、救おうとしている。
次に始まるのは――“帝国教育改革”である。
つづく。




