第3話:うちの使用人、強すぎない?
あれは、近所のリーネ村でちょっとした騒ぎがあった日のことだった。
「魔物が出たぞー!村がやられるー!!」
何やら血相を変えて駆け込んできた農民が叫ぶ。
ちなみに俺はその時、ベビーチェアでお昼寝中だった。
「魔物?……って、ここ、貴族の館のすぐ近くだよね?」
どうやら、村の外れに小さな亀裂ができて、そこからモンスターが漏れたらしい。
スライムか?コボルドか?……と思ってた俺の耳に、次の報せが届く。
「出たのはサラマンダーだ!!火の精霊型!村が焼かれるぞ!!」
「ファイアドラゴンの親戚じゃん……え、ガチのやつ!?」
俺は使用人のエミルおばさんに抱かれたまま、おろおろしていた。だが、そのとき――。
「お任せください、ロルフ出撃します。」
そう言ったのは、例の執事ロルフさん。
眼鏡に白手袋、涼しい顔。
なのに、背中から取り出したのは漆黒の大剣。
え、待って、なんでそんなの持ってんの!?
どこに隠してたの!?
しかも――。
「スミス、サイドから制圧。エミリー、治癒の準備を。リリア、燃えたら困る物資の避難。」
全員がそれに「了解」と即応する。え?ちょっと待って?今、戦隊モノ始まった?
この屋敷、戦闘力で構成されてるの?
俺より圧倒的に強いメイドが、当然のように斧とハルバードを持ち出して走っていく。
ロルフさんは、そのまま壁を駆け上がり、村の方向へ跳躍。
「跳んだ!?」
「うおおおおおおっ!!」
次の瞬間、空から降ってきたのは……サラマンダーの頭だった。
いやいやいや!?首!首落ちてる!何その爽快ワンパン処理!?しかもスーツ汚れてないの!?どうなってんのこの人!?命の重みとかどうした!?
「……事後処理完了です。」
淡々と報告するロルフさん。メイドたちも淡々と後片付け。焼け残った木材を資材として回収しつつ、被災者を手当てし、被害を最小限にとどめていた。
俺、思わずエミルおばさんの腕の中でつぶやいた。
「……うちの家、なんなん?」
「お坊ちゃま、何か?」
「いえ、もう……親の威光に平伏しますわ……。」
この使用人たちを雇い揃えたうちの両親、マジで只者じゃねぇ。貴族の中の貴族、採用基準に何を使ったんだ?魔王軍スカウトでもしてたのか?
「こりゃ下手に悪いことできねぇな……。」
心の中でそっと誓った。うちは間違っても、メイドに逆らってはいけない家系である。
リオン・フォン・エルトレード、1歳半。うちの使用人が最強すぎて震える初夏の出来事である。
つづく。




