第23話:知識は渡る、心も渡る。そして、根づいていく
「それでは、第一期留学生の名簿、確定しました!」
ロルフさんの声が、部屋に響く。
留学制度――正式名称「育成巡回交流プログラム」――が、ついに始動。
子供たちは推薦制で選ばれ、それぞれの得意分野や希望に応じて派遣先が決まった。
「学ぶだけじゃない。“教えに行く”要素もあるから、準備は入念にね!」
---
そして、第一期留学生たちがそれぞれの村へ旅立った。
アオは“木工村”へ。言葉少なめだった彼が、今や設計図を読めるようになっていた。
「この机、ぼくが作りました!」
ホストとなったのは、老大工のイエル爺さん。
「まさか、子供に教える日が来るとはなあ……。」
アオは一緒に道具を磨き、材料を選び、夜には“物作り哲学”を教わった。
ある日、彼はぽつりとつぶやいた。
「ぼく、ここ……住んでみたいかも。」
---
サーシャの推薦で派遣された少女・ミイナは、“歌と詩の村”へ。
最初は照れて声も出なかったが、数日後には即興で九九の替え歌を披露していた。
「あなた、音楽に向いてるわ。ここに“残る”のも、選択肢の一つよ。」
そう言ったのは、ホスト母となった元吟遊詩人のマーヤさん。
ミイナはうれしそうに笑いながら、そっと言った。
「じゃあ、また来るかも。そのときは……“教えに”来る。」
---
留学期間が終わり、子どもたちが育成所に戻ってきた。
でも、戻ってきた彼らは、以前とはまるで別人だった。
「ぼく、今度は“木工授業”の助手をしてみたい!」
「私、歌で読み書きを教える方法をまとめました!」
自分が学んだことを、次の世代に伝える――その自然な流れが、リオンの願いだった。
「ようやく、“学びの循環”が自走し始めたな……。」
---
やがて、移住計画も具体化していく。
・ホスト村の一部が「教育支援区」として整備
・留学生の家族が希望すれば、定住も可能に
・その地に根ざした“分校”の構想も始動
「移動じゃない、“融合”が始まってる……!」
---
リオン・フォン・エルトレード、4歳と3ヶ月。
子どもが旅し、大人がつながり、土地と人が混ざり合って、新しい“根”が張られようとしていた。
これは、教育の話であり――希望の話である。
つづく。




