第22話:知恵は、旅することで交わり、育つ。
「視察に行ってきます!」
その宣言に、屋敷中がざわついた。
「えっ、リオン様が!?自分で!?」
「馬車の高さ、登れるかな……。」
「ロルフさん、何人くらい護衛連れて……?」
「いや、全員です。全部隊です。」
「全員!?大名行列か!!」
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かくして、リオン・フォン・エルトレード、4歳2ヶ月。
人生初の「育成所外視察」に出発した。
第一の目的地は、“リナ先生”が教えている村の学校。
そこには、なんと――
「野菜、算数、読み書き、ぜんぶ“八百屋形式”でやってるの!?」
「はい!例えば、“3個100リットの大根を5つ買ったらいくら?”みたいに。」
「わかりやすっ!」
教室は市場そっくりに作られており、計算も言葉も“実生活に即した形式”で教えていた。
「これが……実地応用式か……!」
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次の村では、逆に「詩と歌による教育」が導入されていた。
「九九も、あいさつも、みんな歌になってる……。」
「ねえリオンさま、きいてきいて!」
子供たちが口々に、手を叩きながら“九九のラップ”を披露する。
「七いちが七!七にじゅうし!ひちさん二十一~!」
「すげえ音感!天才児出てない!?」
教師は、元吟遊詩人の父親だった。
「勉強は音だ。音は心を繋ぐ。」
その言葉に、リオンはうなずいた。
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三つ目の村では、なんと――
「木工!?」
教室が工房になっており、読み書きも「図面から読む」「看板を書く」といった実務直結型だった。
「しかも、椅子と机、全部子どもたちの手作り……!」
「ここ、将来“大工ギルドの登竜門”になるかもしれん。」
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視察を終えた帰路、馬車の中で俺は言った。
「全部、すごかった……でも、もったいない。」
「どういうことですか?」
「各地で、文化も工夫も“独自に進化”してる。
だったらさ、それを“交換”したら、もっとすごいことになると思わない?」
「……つまり?」
「“留学”だよ!」
俺は、ノートに大きく書いた。
『リオン育成式・巡回留学制度』
・優秀な児童を別の村・学校へ“期間派遣” ・文化・技術・価値観を学ぶ交流型
・教える側も、他地のノウハウ吸収へ
・毎月報告書、派遣先の家庭と連携
「知識って、旅してこそ混ざる。混ざってこそ強くなる。」
「リオン様……あんた、天才ですよ。」
「言ったな!?今、ちゃんと記録しといてよロルフ!」
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リオン・フォン・エルトレード、4歳2ヶ月と10日。
“教育の交差点”を作るために走り出した、旅の終わりと始まりの日である。
つづく。




