第21話:教わる側から、教える側へ。そして学校はできた。
「リオン様、ちょっとお時間いただけますか。」
その日、中庭のベンチに座っていた俺のもとにやってきたのは、元洗濯婦のリナさんだった。あのアオの母親だ。
「実は……わたし、“教える側”になってみたいんです。」
「えっ……!」
目をまんまるにしたのは、俺のほうだった。
「まだ完璧じゃないけど、読み書きも、計算もできるようになってきた。
なにより、“学んだことで生活が変わった”って、実感があるんです。
だったら、今度はわたしが誰かを変える番かなって……。」
俺は、すぐに手を取った。
「リナさん、ようこそ。“先生見習い”へ!」
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それは、ほんの始まりにすぎなかった。
炭焼きの父さんが、「計算ができるようになったら、材料の無駄が減った」と言って来た。
魚屋の女将さんは、「帳簿つけたら、盗まれてたのに気づいて、損失減った!」と爆笑して報告してきた。
そう、“学んだことで生活の損が減った”。
そしてその結果、少しだけ――でも確実に、“貯え”が生まれた。
「リオン様、あの、相談があるんですが……。」
「“学校”、建てませんか?」
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提案したのは、かつて“字が読めなかった”大人たちだった。
「子供たちをリオン育成所に送り出すのもいい。
でも、あの場所みたいな場所を、うちの村にも欲しいんです。」
「大人も子どもも、もっと気軽に学べて、遊べて、助け合える場所を。」
計画は瞬く間に進んだ。
育成所から教材を譲り受け、使っていない集会所を改装し、最初の“教師役”にはリナさんが選ばれた。
名もなき村の、名もなき学校。けれど、そこには明確な“光”があった。
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開校式の日、俺は祝辞を頼まれた。
「えーと……では、リオン代表より、一言いただきます!」
「ちょ、待っ……事前に聞いてないんだけど!!?」
小さな台に立ち、俺は笑った。
「“学ぶこと”って、かっこ悪いって思う人、まだいますか?」
数人が、苦笑い。
「でもさ、文字が読めると、手紙が書けます。計算ができると、お釣りをごまかされません。
知らなかったことを知るって、つまり――“守れるようになる”ってことなんです。」
「そして、大人が学んでると、子どもが安心する。
子どもが笑ってると、大人もがんばれる。
そういう場所を、ここに作ってくれて、ありがとうございます。」
パチパチパチ……と、やさしい拍手が鳴った。
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リオン・フォン・エルトレード、4歳と2ヶ月。かつて“教えられるだけ”だった人々が、“教える人”になった日。
この世界は、まだまだ変われると確信した、冬の陽だまりの出来事である。
つづく。




