第18話:成果と課題と、次なる作戦会議
「ただいま戻りました!」
秋が終わりかけたある日。
地方派遣組の子たちが、数週間ぶりに育成所へ帰ってきた。泥だらけの服、でも誇らしげな顔。
サーシャ、レオン、そして他2名の指導者たちは、玄関先で勢いよく頭を下げた。
「帰還報告書、持ってきました!」
「お、おお……正式っぽいな!」
俺は玄関先で、彼らを労いながらすぐに中庭に集めた。
第一回“成果と課題の共有会”の開催である。
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まずは成果報告。
●サーシャ班(辺境村・字習得訓練)
・授業開始2週間で、村の子供12名の名前読み書き可能に。
・絵本導入により、自主的な学び時間が定着。
・村の若者2名が「先生役」に志願。
「最初は目も合わせなかった子が、今じゃ毎朝“おはよう”って言ってくれるんです。」
「それ、最大の成果だな……。」
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●レオン班(山間部・伝令・連携訓練)
・地図と印の訓練により、村内全域の情報伝達時間を1/3に短縮。
・“模擬伝令大会”を実施し、子供たちのやる気向上。
・2名が進路希望として“伝令官”を志す。
「速さだけじゃないって、みんな理解し始めた。言葉を“届ける”意味が伝わったっぽい。」
「やるじゃん、俺の教え子。」
「リオン様、オレの先生だったんですか!?」
「え!?いま知った!?」
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しかし、報告書の最後には――
【課題と懸念事項】
1. 村側の教育文化が希薄で、“学ぶ姿勢”の土壌がない
2. 保護者層との信頼形成に時間がかかる
3. 衛生面・栄養状態の影響で、集中力・体力に個人差大
4. 学びの継続性が保障されない(“戻れば元通り”の恐れ)
俺は、沈黙した。
サーシャもレオンも、明るく笑ってるけど、その目の奥には“迷い”が見えた。
「……つまり、“学びたい”という種をまいても、水も土もないと育ちきれない、ってことか。」
「ええ。でも、種はまかれました。彼ら、また“続き”を欲しがってました。」
「じゃあ、その土を耕す方法も考えなきゃな……。」
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こうして、“地方支援継続制度”の検討が始まった。
●新設案:フォローアップ班(巡回指導・2ヶ月ごと)
●保護者説明会・農村型食事支援の提携案
●育成者育成コースの常設化(派遣指導者育成)
リオン育成所は、“届く教育”から“根づく教育”へと歩み始めていた。
リオン・フォン・エルトレード、4歳になったばかり。理想と現実のはざまで、次の一手を考える冬の幕開けである。
つづく。




