第13話:君たちは旅立ち、そして俺の伏兵になるのだ。
ある日、王都から手紙が届いた。
いや、手紙というか……書状、印章、封蝋付きの“公式文書”。
その数、なんと十通。
送り主は王都の高官、名門貴族、王立魔術研究院、そして果ては軍部まで。
「……なんか、すごいことになってない?」
俺は書類を広げながら、読みながら、変な汗をかいていた。内容はすべて、こうだった。
“貴家にて育成された若者たちを、正式にスカウトしたく存じます”
「え、就職?まさかの3歳で就職斡旋業?」
いや、ちょっと待て。これはつまり、あの訓練試験で“目をつけられていた”ってことだ。
子供たちの実力と可能性が、王都のお偉いさんたちに刺さったわけで――
「まさか、うちの育成所、王国クラスに認知され始めてない?」
「ええ。すでに“リオン育成方式”と名付けられているそうです。」
「そんな方式あった!?俺、ただがんばってた風出してただけだけど!?」
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そして、送り出しの日が来た。
ジルは、名門の軍事貴族の養子として迎えられ、将来は近衛隊の指揮官候補に。
サーシャは王立魔術院で研修生に選ばれ、特別指導枠に配属。
レオンは伝令部隊の訓練学校へ推薦され、通信技術の開発にも関わるとか。
ミナは軍医志望で、治療士の名門家に弟子入り。
ダントはなんと、宮廷の情報部から“分析官見習い”として招かれた。
そして――そのほかの子供たちにも、それぞれに合った道が示された。
「……いよいよだな。」
俺は、出発前の中庭で、5人と向かい合っていた。
「お前らを手放すのは、正直、寂しい。でも、これはお前らのために必要な一歩だ。行け。そして、活躍してこい。そして……いつか俺が困ったときは、全力で助けに来い。」
「「「はい!!!」」」
ジルは泣きそうになりながら拳を合わせ、サーシャはぎゅっと俺の手を握りしめ、レオンはなぜか敬礼を3回ミスり、ミナは涙をこらえてたが最後に「だいすきだよ」と言って泣き崩れた。
ダントだけは静かに言った。
「次に会う時、俺が貴族になってたら、リオン様は俺の上司ってことでいいですか?」
「お前、ちょっと怖いこと言ったな今!」
笑いと涙と希望に包まれた、門出の日。
リオン・フォン・エルトレード、3歳と半年。はじめて“送り出す”ことの喜びと重さを知った、花咲く季節の旅立ちである。
つづく。




