第11話:拾う理由に優劣はない。育てるのに資格はいらない。
豪遊翌日、俺は久々に屋敷の街道側を散歩していた。というのも、なんとなく“街の雰囲気”が気になったのだ。昨日の浮かれテンションの反動かもしれない。
「……なんか変だな、静かすぎる。」
人気のない裏通りに足を踏み入れたときだった。
「ぐっ……やめろよっ!」
「言うこと聞かねぇガキには、食い物も寝床もいらねぇって、何度言わせんだ!」
ガラン、と木箱の倒れる音。俺の足が止まる。
その声の主は、明らかにまだ幼い少年――そして、相手は酔った風の中年男。……即断だった。
「ロルフさん。」
「……了解です。」
いつのまにか背後にいた執事が一歩踏み出し、「通報しますね」と冷静に告げるだけで男は逃げていった。残された少年は、唇をかみしめ、涙は見せずに立っていた。
「名前は?」
「……セリス。」
「うん。今日から君も、俺の直属部下だ。」
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その後、同じような“事情持ち”の子供たちに次々と出会うことになる。
・貴族の家に生まれながら、「魔法が使えない」という理由で蔵に閉じ込められていた少女:ミレア(8)
・宿屋の息子だが、母親が仕事に夢中でほぼ放置されていた皮肉屋の少年:ベル(6)
・遊び人の親から逃げて来た、体格のいい双子:ギン&ガン(推定年齢4〜5)
・物乞いとして生活していたが、実は字も読めて簡単な計算もできる利発な子:ロト(年齢不明、歯が足りない)
「……えーっと、何人増えたんだ?」
「ロト含めて9人です、リオン様。」
「じゃあ合計……14人!?俺、幼稚園の園長になってない!?」
だが、一人ひとりに出会って、言葉を交わして、わかったことがある。
彼らには“なにか”がある。
セリスは反射神経が抜群。
ミレアは記憶力が異常で、昨日読んだ本を丸暗記していた。
ギンとガンは見た目で判断できないスピードと連携力。
ベルは他人の嘘を一発で見抜き、ロトはそろばんの計算速度が異常だった。
「これは……俺の直属部が……軍団化する予兆……?」
「むしろ自治体になってきてますね、リオン様。」
「笑いごとじゃないんですけど!?」
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子供たちは全員、与えられた部屋を「わーい!ふわふわ!」と跳ね回り、「食っていいの!?マジで!?」と食堂で幸せを噛みしめていた。
「……あー、これはもう俺、一生逃げられねぇやつだな……。」
でも、なぜだか悪い気はしなかった。
どの子も、俺があの日拾った5人と同じ目をしていた。
希望を見たがっている目だ。
リオン・フォン・エルトレード、3歳と少し。部下が14人に増えた春の午後、人生が少しだけ“責任者寄り”になった気がする。
つづく。




