第1話:転生特典ナシ赤ちゃん、人生ハードモード開幕!
目が覚めた瞬間、状況を理解した。
まず、視界が低い。
というか、寝てる。
しかも、天井じゃなくて布の屋根みたいなやつが見える。
ほこりが舞ってる。湿っぽい。空気がモワモワしてる。
そして体。
「……動かねぇ。」
うん、動かない。手も足も、ぷにぷにの肉団子。
なんだこれ、俺、赤ちゃんか?
いや、そんなバカな、だって俺はさっきまで自室でラノベ読んでて、寝落ちして――
いや、死んだなこれ。
たぶんエアコンつけっぱなしで風邪こじらせて、意識が飛んで……っておい、嘘だろ?
それで転生って、ガチャ爆死どころかチュートリアルすらねぇのか?
「うー、あー。」
とりあえず赤ちゃんボイスで自己主張してみる。お、誰か来た。
「まぁまぁ、起きたのね〜、かわいこちゃん♡」
現れたのは、髪の色がミントグリーンで目が紫の超ファンタジー美女。
しかも俺の体がふわっと浮かんで、スッ……と抱きしめられる。
いやちょっと待って、魔法!?今魔法使った!?
ていうかこの人誰!?俺のママ!?
っていうか俺の名前は!?あああ情報が多い!!
「今日からあなたはリオンよ〜。」
リオン。なるほど、異世界ネームってやつか。
悪くない。音的に中堅主人公っぽい。
でも問題はそこじゃない。
スキル画面は?ステータスは?転生特典は?神様どこ行った!?俺のガチャ画面はどこ!?
──ない。なにもない。
無能力、無課金、ノーチュートリアルの完全新規赤ちゃんライフ、ここに爆誕。
ママがやたらと魔法を多用してミルクを用意し、おしめを替え、俺の周囲には使用人風の人々がちょこちょこ出入りする。
どうやら貴族の家らしい。
めでたく上級国民ルートだが、肝心の俺に戦う力はない。
「……これは、俺が戦うタイプじゃねぇな。」
気づいた。俺は勇者枠じゃない。
完全に参謀枠だ。策士タイプだ。つまりこうだ。
「最強の部下を育てて、俺はその影に隠れて生き残る。」
スキルがないなら、スキルを持った部下を育てればいい。
無能な俺が生き残るには、有能な仲間が必要不可欠だ。
目指すは布陣の王。育成の鬼。陰の軍師。
とりあえず、今は愛想のいい赤ちゃんとして周囲の信用を得ておこう。
「ぱー、まー!」
「きゃー!リオン様、初めてしゃべった〜!!」
よし、まずは第一ステップ成功だ。
リオン・フォン・エルトレード、0歳。異世界、赤ちゃん、無能力スタート。
人生ハードモード、ここに開幕である。
つづく。