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雷の竜、真の覚醒

空が軋む音がした。


神聖魔法と呼ばれる光の奔流が、大地を抉る。


偽りの聖女、レリアが天を指差し、神々しき輝きを降ろす。


「我が祈りに応えたまえ、神よ……!」


眩い光の柱がグラヴェルを包み込んだ。聖騎士団の隊列がそれを囲み、勝利の瞬間を確信していた。


「これで……終わった……!」


「勝った……! あれさえ倒せば……!」


レリアが笑う。


フォリアが叫んだ。


「やめて! グラヴェルは――!」


だが、祈りは届かない。


光が収まり、塵が舞う。


――そして、そこに立っていたのは。


それはもはや、黄金の竜ではなかった。


漆黒と雷光に包まれた、幻想の竜。


「……な……に?」


レリアが一歩後退した。


黒と金の鱗が一体となり、空間すら歪ませる。


四肢には雷の鎖。瞳には星を映し、背に煌くは“始祖の羽衣”。


その存在を見ただけで、騎士たちの膝が折れる。


「ア、アストラル……グラヴェル……?」


伝承にのみ語られていた、始祖竜の第二形態。


絶対なる守護の姿。


グラヴェルが、静かにその名を告げた。


「……貴様ごとき、祈る資格もない」


その瞬間、世界が割れた。


光が砕ける音がして、レリアの神聖魔法が一瞬で消滅した。


そのままの勢いで、彼の翼が風を生み、地を蹴る。


圧倒的な質量で聖騎士団の列を薙ぎ払う。


騎士たちは叫ぶ暇もなく、雷の奔流に巻き込まれて塵と消えた。


フォリアは、ただ呆然と見ていた。


グラヴェルの姿は、怒りでも、狂気でもなく――静寂だった。


その足取りは迷いなく、レリアへと向かう。


「近寄らないで……!」


レリアは絶叫し、再び神聖魔法を詠唱しようとしたが。


その言葉を紡ぐ前に、竜の尾が光の線を描いた。


レリアの杖が、砕けた。

次の瞬間、彼女は虚空へと吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられ、意識を失った。


その場に立つ者は、もはやいない。


ただ、フォリアだけが、そこにいた。


グラヴェルが、ゆっくりと近づき、彼女を見つめる。


彼女は何も言えなかった。ただ、涙が頬を伝う。


すると――グラヴェルが、静かに言った。


「……もう、お前を誰にも触れさせぬ」


その声は、雷よりも穏やかで、火よりも熱かった。


「この世界の全てを敵に回しても、お前は俺が守る」


フォリアが、かすかに首を横に振った。


「……そんなの、あなたが……傷つく……」


「構わぬ」


そう答えたときだった。


 


――ズドン。


空が割れた音がした。


フォリアの身体が、ふわりと揺れた。


彼女の胸元に、赤い花が咲いていた。


「……え……?」


遠く、王都の城壁から放たれた巨大な矢――神殿の“聖なる長弓”が、フォリアを正確に射抜いたのだ。


「……あ……」


グラヴェルの目が、見開かれる。


フォリアが、その腕の中に崩れるように倒れ込んだ。


血が、彼の胸元に落ちた。


「……フォリア……?」


彼女の名を呼んだその声は、風に消えるほど弱かった。


だが。


その後に続く声は――天地を揺るがす雷鳴だった。


「――オオォォオオオオオオ!!!!」


空が裂け、大地が震え、雷が世界を焼く。


それは、竜の怒りそのものだった。

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