0_消すかもしれない独り言
もうすぐだ―
もうすぐ、あの人を救うことができる。
きっと、私を待っているに違いない。今日という日の為に私は生きてきたのだ。
神が私をここに導き、
為すべきことを与えてくれたのだ。
私の役目は神の到来を告げることであり、
その為にはあの人を救うことが必要なのだ。
私は終点のバス停を降りて、そう確信した。
降りたバス停は小高い山の上にあった。もちろん木々は多く、高層ビルもないので今日のような雨の日は自然の作り出す闇が人工の光を飲み込むのに は十分な威圧感を持っている。舗装された路面にいくつか水溜りができ、リズミカルに無数の雨が打ち付けている。バスはエンジンを再びふかすと、無粋にも私が眺めていた水溜まりを踏み潰し、その勢いで小さいロータリーを一周すると元来た道へと帰っていった。
周囲を見回す。
草はざわつき
木々は刮目し
雨は我関せずと堕ちていく。
自分のしたことと知りながら。
信心とは何か
信仰とは何か
神とは、何か。
「私に罰を」
誰かが言った。
振り向けど誰もいない光の中で
命は繰り返され、
レプリカとなっても、踊り続ける。
それを信心と疑わず、
それが愛情と信じて。
脈打つような、妖艶な笑みは
鮮血のような眩さを持って
熱になりすまして、いずれ私を焼くだろう。
それは、月に口づけができるような、純粋な喜び。
ただ、祈ることで達成された願い。
時間など信じない。
生命など信じない。
現実など信じない。
信じることで救われることなど知れている。
だが信じないことで救われるもののなんと多いことか。
滑稽だ。
可笑しい。
興奮していることを隠すように、私は傘で自分自身の視界を遮る。気分を落ち着かせよう。どこかで見られているかもしれない。
ここから病院までは五百メートル程度。舗装されている道を行けば一五分程度かかるが、少しぬかるんではいるが抜け道で行けば十分程度で着ける。
呼吸を整えたところで、深くさしていた傘をあげる。目線の視界には誰もいない。目を閉じ、一度深呼吸をする。聞こえるのは雨の音。前後、左右、近く、遠く、縦横無尽に落ちる雨音が、すべて収束するように耳識する。車すら通らないこの時間帯で、雨は心地よい一定のリズムで響き渡り興奮していた神経の昂りを抑えるように私の心を打ちつける。




