表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/63

49_窮地の教祖

***

「小津君、大丈夫ですか?」


まるで何事もなかったかのような丸みのある声で、赤井は小津に微笑みかけた。


「えぇ、僕は問題ありません。それより…」


小津は先ほどまで自分を拘束し刃物を突き立てていた男を見下ろす。

赤井のALAによって頭の中全てを恐怖で埋め尽くされたその男は、白目を剥き口の端から泡沫が出ている。


「あぁ、彼なら問題ありませんよ。手加減しましたからね。気絶しているだけです」

殺してしまっては小津君も後味が悪いでしょう?と赤井はさらりと言った。

社長がそういうのだから間違いないのだろうが、一応しゃがんで脈を測る。息もしているので確かに気絶しているだけのようだ。

小津が赤井を見上げると、すでに鬼人は龍樹院リショウに視線を向けていた。


「き、貴様はいったい──」


巨眼の教祖は、すでに赤井の能力にあてられているのか、それとも単に驚愕しているのか、顔から汗が吹き出し狼狽したような表情だ。


「あなたが言ったんでしょう。鬼人オリザ…私は決してこの名を気に入ってるわけではないのですよ」


「そ、そんな能力は聞いていない!」


「そうでしょうね。見た者は死んだか、生きていても言うなと伝えていますから」


赤井は平然とした顔でそういうと、一歩前に出た。

龍樹院との距離はおよそ二十メートルといったところか。その距離は今、彼にはどう感じられているのだろうか。

赤井が一歩近づくごとに龍樹院の顔がみるみる引き攣るのがわかる。

三歩目には玉座の肘掛けを指がめり込むほど握り込み、そして


「し、式衆よ!前へ出よ!」と叫んだ。


すると、ドームの奥、龍樹院が座っている玉座の両脇に見える二体の金剛力士像のようなロボットが動き出した。

大きさは二メートルくらいだろうか。彫刻としてならそこまで大きくないが、信者たちの中にはどよめく者もいた。それはそうだろう。ヒューマノイドや人工知能を持つロボットに対しアンチの姿勢をとっていた宗教だ。まさか参拝していた広間にある彫刻がロボットだったとは思いも寄らないだろう。


「おやおや──、ロボットは魔なる物、魔物と言ったのはどこの誰だったか」


「う、五月蝿い!」


龍樹院は赤井の声をかき消すような大声を張り上げた。ぜぇぜぇと肩で息をしているその目は畏れと怒り、焦りがないまぜになった鈍色をしていた。


「き、貴様が如何に奇怪な能力を使おうとそれは人間に対してのみ…機械には通用せん!始末しろ!」


ほとんど金切り声に近い命令。金剛力士像はサーボをうならせ突進した。


しかし。


突進していた二体のロボットは赤井と龍樹院の中間地点で右、左と順番に跪き緊急停止した。


「な、なんだ!どうした!?」


教祖は、滑稽に慌てふためく。


「僕が停止させましたよ。ALAで」と小津が自己申告した。


それを聞いた龍樹院は、口をあんぐり開けて「なんだと…」と言った。

小津はそれを聞いて意外だな、と感じていた。


「いえ…、ですから停止させました。彼らのコアに侵入して。僕の能力、知ってたんじゃないですか?」


まさかこれが奥の手ではないと思うのだが、赤井にばかり負担をかけるのも申し訳ない。できることは手伝っておこうと思っただけだ。

しかし龍樹院は小津の能力を知っていたはずだ。だからこそ仲間に引き入れようとしたのではなかったのか。小津がALAを使うと計算しているとしたらこれは陽動で、他にも仕掛けてくるのでは―と思っていたのだが。


──何もなかったのだ。


「ば、馬鹿な…貴様の能力はロボットが()()()()()()()()()()()()が発動条件のはず!」


そこまで聞いて小津は「なるほど」と合点する。

昨晩小津の仮想空間に攻撃を仕掛けてきた天則と、システムの脆弱性を装い攻撃させて偽の情報を渡したフレイヤの様子を思い出した。


(そうか、奴が知ってるのは昨日ハニーポットから抜き取った偽装情報ってことね…フレイヤ、ナイス!)


スリープモードが望ましいのは確かだが、それはALAを使っている最中はリアルの世界で体の自由が効かなくなるという保身のためだ。発動条件ではない。


赤井が、龍樹院に視線を向け、更にゆっくりと歩を進める。それは鬼が人間を甚振りながら追い詰めるようにも見えた。

龍樹院は胃袋がひっくり返り、全ての液体が逆流しそうになる。目の前で“絶対の護り”が粘土のように無力化された事実が、さらに全神経をひりつかせていた。

声が掠れ、指が震える。


「お、お前たち何をしている!全員でかかれ!はやく!」


灰衣の一般信者は顔を引きつらせたまま武器を構える。

赤井がゆっくりと首を巡らせ、ただ眼差しを送るだけで何人かが一歩退いた。


「もうわかったでしょう。あなた達が盲信していたのは欲と虚栄心に支配された、ただの張りぼて…。教祖などではありませんよ」


龍樹院は歯噛みし、椅子から立ち上がり足をもつれさせながら後退する。


「悪魔の声に耳を貸すな!奴は悪鬼!ここで我らが退治せねば世界は地獄と化すぞ!」


確かに普通ではなくなっている。

赤井が狂乱の教祖を睨もうとしたその時──。

ep.49 おまけ

(そうか、奴が知ってるのは昨日ハニーポットから抜き取った偽装情報ってことね…フレイヤ、ナイス!)

…[29_怒りのフレイヤ]より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ