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48_鬼人の無双

***

「識っているぞ、お主のALA(チカラ)──」


ムツのような大きな目をした龍樹院は、その目を三日月のようにしならせる。

ニヤリと笑ったその口から、唾液の糸が見えた。


「お主のALA、それは簡単にいえば()()()()()の能力。気配を悟らせずに静かに敵を抹殺する。一瞬でも目を離せばお前の術中にハマる可能性は高かろう。確かに油断ならない能力だが…、残念だったな。ここには360度の目があり、常に誰かがお主を見ている。そして目の前の男は赤外線コンタクトカメラも装着している」


確かに、このドーム内には今、五十人あまりの人間の目が、赤井や小津の周囲をぐるっと囲んで視線をこちらに向けている。


──だが。


「潜むところ、隠れるところはどこにもないぞ。さぁ、観念するが良い」


──奴は()()()している。


「隠れるところ、ですか。確かにそうですね」


赤井はそういうと、一度だけ深呼吸した。

それだけで、みるみる室温が下がっていくような気がした。


「小津君、すぐに助けますから安心してください」

「はっ!、お前自分の立場わかってんのか──」




『黙れ』




鋭い目で赤井がそういうと、小津を捕らえているステルス迷彩の男は急に顔を強張らせた。


小津も初めてみる赤井の形相、


そして、身体から放たれる冷気。


視界に入るその表情で小津は再度、周防の言葉を思い出す。



──気配を消すのなんざ、本当にALAなのかは怪しいな。俺からすりゃただのクセなんじゃないかとも思ってる。もしALAだとしても、それはあの人の能力の一端でしかない。真に恐ろしいのは…──



「な…なんだ…貴様、何を」


「聞こえなかったか、私は『黙れ』と言っている」


「ひぃっ!」


痙攣のようにびくんと身体を反らせると、男は小津をあっさり離し、ナイフを落とし、その場でへたり込んだ。


いや──、腰を抜かしたのだ。


そして、目を見開き、過呼吸のようにひゅーひゅーとした息遣いになるとガタガタと震え出し、身体をさすりながら


「なんだ、なんだこれは、何をした!なんだナんだなんなんだ!」


と言って──、嘔吐した。


ステルス光学迷彩を着ているからまだ景色と同化して、顔だけ宙に浮いているようにも見えるが、両手足をばたつかせ、浅い呼吸のまま口と目と鼻から体液を垂れ流し必死で逃げようと這いつくばっているようだ。


「三下が。私の大事な従業員に手を出すとは…」


赤井は、男にゆっくりと歩む。

一歩。

また一歩。

しかし周囲の人間は誰一人動かない。否、動けないのだ。

龍樹院すら先ほどの余裕の笑みは消え去り、それどころか顔に脂汗を浮かべ、身体が硬直したかのように動けないでいる。


──鬼は、(オヌ)


姿形を知覚できない、この世ならざる“恐ろしいもの”


そう──、赤井のALAは、()()()()()()なのだ。


(これが赤井さんの能力か。初めて見る…)


その能力を向けられた者は、恐怖以外のあらゆる感情が削ぎ落とされる。

喜怒哀楽はおろか理性も、修羅場を潜り抜けた猛者の知見や勘ですらこの能力の前では完全に遮断されてしまう。しかも経験豊富な人間ほど危険回避能力が高い。恐怖は生き残るために必要な能力であり、それを知覚できるからこそ危険を回避できとも言える。


しかし、強制的に恐怖を増幅させられ、それ以外の感情がなくなればどうなるか。


「く、来るな!いやだ…来ないで…来ないでくれ!」


男に人目を気にする思考の隙間は残されていない。

赤井は腰を抜かしながらも背走しようとジタバタしている男の肩を掴み、ぐいと引っ張った。


「私の目を見ろ」


赤井の顔は赤井のままだが、怯える男の目にはどう映っているのか。きっと赤井の眉ひとつ動いたのを見るだけで何をされるのかと想像し、それが恐怖へと変換されるだろう。


止め処なく溢れてくる赤井への畏れは──、男の自制心を簡単に破壊した。


「や、やめてくれ!こ…怖い…怖いヨォぉぉ!!」


恐怖に支配された男は完全に冷静さを失い、泣き喚いている。半ば錯乱のような状態だが赤井は手を緩めるどころかさらに顔を近づけた。


「正直に言え…大田黒レオを殺したのはお前か」

「は、はい!り、龍樹院リショウの指示でやりまシた!」

「ユウリを攫ったのもお前か」

「は、はい!そうです!」

「侵入した技研に爆薬を仕掛けたのもお前だな」


爆薬、という言葉を聞いた男は、その時初めて呆けたように口を開けたまま──


──黙った。そして


「ち…ちがう…」


消え入るようなか細い声で、怯えながらそう言った。


「もう一度言え」

「ち、違う!それは私じゃない!嘘じゃないお願いだ信じてくれ!私は爆発が合図だと聞いていただけだ!仕掛けたのは私じゃない!」


赤井は嘘じゃない、信じてくれぇ…と泣き喚きながら懇願する男の胸ぐらを掴み、持ち上げた。


「偽りの言葉はないな…もしあればその代償は…」


「ひぃいぃ!ありましェん…!」


絞り出すようにそういうと、男は白目を剥き、そのまま仰向けになって動かなくなった。

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