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38_AI技術管理特別室にて

***

・第五章-4

結局、君島は解決するまでこの事件について記事にはしない、解決したら一番最初に記事にできるという約束とポジションを獲得して同席することになった。


科捜研のビルは警視庁本庁から少し離れた別棟だが、地下から専用通路が繋がっており、厳重にセキュリティチェックされる。そこへ向かう途中、藤堂はずっと赤井への憧れを口にしていた。まるで少年が憧れのヒーローにあって話すかのような無邪気さがあったが、対して赤井は「そうですか」とか、「もう覚えていませんねぇ」などと、のらりくらりとかわしているのが面白かった。


今回、周防がわざわざこの場所を選んだのは、ユウリの保管や解析が行われている区画への立ち入り許可を取っているからだった。


「藤堂、お前は別フロアにいる職員に暫くここに立ち入るなと連絡してこい。」


「了解っす」

元気だけは良さそうな声で答えながら、藤堂は去っていった。側から見ていて赤井との会話は手応えがなさそうだったが、本人はそれでも満足らしい。幾分機嫌が良さそうに見えた後ろ姿を見て、なぜか小津の方が安堵する。


残ったのは周防、赤井、小津、それから君嶋アンナ。


白い壁と照明がむき出しの少し寒々しい廊下を進むと、突き当たりに小さな扉があった。横には認証パネルが設置されていて、周防が警察手帳をかざすと金属的な音を立ててドアロックが解除される。


「ここは『AI技術管理特別室』。いわゆるデータ解析専用の隔離施設です」


周防が小声でそう説明すると、アンナが思わず息を呑んだ。


「ユウリって子が…この奥に?」

「ええ、他の捜査資料もここに集めている。一係の中でも扱えるメンバーは限られているから、私と藤堂が担当ってわけですね」


周防の言葉は淡々としていたが、その瞳には微妙な焦燥感が漂っているようにも見える。


一行が部屋の中に入ると、区画の中央にガラス張りのスペースがあった。その向こう側に、子どもほどの背丈で椅子に座ったまま動かないヒューマノイドが見える。


──ユウリだ。


まるで人形のように感情を閉ざし、そこに置かれている。頬や耳にかけてセンサー類が増設されているのか、一見すると異様な姿だった。


「暴力的な行為をしているわけではないよ。こっちとしても可能な限りユウリ(あのこ)の人格は温存しておきたい。しかし何重ものロックや暗号──それも独自の仕組みが施されていて、ヘタに動かすと証拠ごと失われかねない」


周防は自分の肩を掻きながら言う。「だから観察モードに留めている。深層のコア領域にはまだ手を付けられていない。そうだな、冴木」


スペースの一角、ガラスの前に机があり、端末のディスプレイが置かれている。それを凝視していた男が横目でチラリと小津達をみた。どうやら冴木と呼ばれる男らしい。


「かつて、ロボットがまだオンライン主体だった頃は、遠隔からのシャットダウン指令や再起動は当たり前のように行われていました。しかし、今や個人オーナーが所有するタイプのヒューマノイドはオフラインで動くことが主流となって、コアの独立性が大幅に高まっています。特に今回のあの子は量産型では見られない高度な技術が詰め込まれている。結果、警察側(こちら)も弄り方に相当神経を使わなければ破損、破壊のリスクがある…いや、そのリスクを招いたのは人間の側とも言えるかもしれませんがね」


冴木はまるで用意していた台詞のようなことを言うと、小津の方をチラリとみた。


「その方が噂の」

「あぁ、そうだ」


周防はそう言うと、やはり小津を一瞥する。

なんとなくは分かっていたのだが。


「僕がユウリの記憶を視るんですか」


小津はユウリの後ろ姿をガラス越しに見つめながら、冴木と周防の顔を交互に見やった。


「あぁ、話が早くて助かるよ」


周防が肩をすくめるような仕草をしながらそう言った。隣に立っていた冴木が、じっと小津を探るように視線を送ってくる。


「ということは、冴木さんはALAのことをご存知なのですね」

「えぇ、教えてもらったのは昨日です。まだ半信半疑ですがね」


顎が細く少し神経質そうなその男は、無表情を装っているものの少し挑戦的な目をしている。だが小津にとってそれは問題ではない。むしろ

「半分も信じてくれてるんですか?普通は怪しむものではないですか?」


普通はいかさま、ペテン師、妄想癖といった関連の言葉を連想するものだ。しかも相手は科捜研の捜査官だ。科学的な根拠などどこにもないものに半信もできるものだろうか。

しかし冴木は表情こそ憮然としているが目を逸らすことなく


「あぁ、怪しんでいるよ。私が信用しているのは周防さんだ。それにALAの存在は以前一度だけ聞いたことがある。こういう仕事をしていると奇怪な事件に遭遇することも多い…結果的に立場以上の情報が入ってくるもんだよ──まさか本物を目にする機会があるとは思っても見なかったがね」


冴木は無表情を装ってはいるがその目は少し挑戦的にも見える。だが冴木だって自分の捜査官、あるいは科学者としてのプライドがあるに違いない。その知識や経験、技術を持ってしても難航している件のヒューマノイドを、警察に所属しているわけでもない一般人が見たこともないALAとかいう疑わしい能力で記憶を視ると言うのだ。冴木の態度は最大限紳士的と言えるだろう。


周防はふぅ、と聞こえるような大きな息をつくと「人払いはしてくれたようだな。冴木」と聞いた。

「えぇ、もちろんですよ。こんなこと…AI技術管理特別室(このへや)の連中に見せられるわけがない」


私も期待値は下げていますから失敗しても文句は言いませんよ、と付け加えた。

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