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19_ナギサが戦いたそうにうずうずしている

***

君島のオフィスを出てビルの外へ出ると、日が落ちていた。


「あら、意外と暗くなってるね」


「一応、暦上は秋ですからね。さて、じゃあ車に乗って帰りましょうか」


小津がそう声をかけると、ナギサがあからさまに伸びをしながら「面倒そうなやつだったわね」とぼやく。


「まぁまぁ、全部真に受けたらダメですよ」


ロディはビルの玄関脇でぽつんと佇み、小津とナギサの会話を無表情のまま聞いている。


「ロディ、行こうか。車、こっちだよ」

「わかりました」


そう言って小津の後ろに静かについてくるロディ。淡々としているが、やはり一般的なヒューマノイドより気品があるのがわかる。かなり気合を入れて作られているな、と感じる。

だが、歩道に出てほんの数秒もしないうちに、風の中に嫌な臭いが混じった。

嫌な予感のする危険な匂い。さっき通った路地裏は、厳密に言えばビルとビルの間である。大柄な男、小柄な男、長身の男。長身の男がリーダーなのだろう。二人の後ろにいて壁に寄りかかって顔だけこちらを向けている。三人とも未成年だろうか。小津よりも年下に見えた。


「あんたら、なにか面白そうなもん抱えてんじゃんか」


小柄な男が軽く顎をしゃくってロディの方を指し示す。紺のスウェットの上下に身を包んで、サバイバルナイフを持っている。


「へぇ?なんだ、子供かよ。ヒューマノイドってやつか? 転売したらいくらになるかな?」


細身の男はゴルフクラブを持っている。もちろんゴルフをするためじゃないんだろうな、と思う。


「そのまま売るのとバラしてパーツごとに売るの、どっちが儲かるんだろうな」


傍らにいた大柄の男が下卑た笑いを浮かべながら言う。体格通り力自慢なのだろうか。武器になるようなものは持っていないようだ。しかし三人とも、見事に柄が悪い。

小津はその三人はあえて無視して周りを見回すが誰もいない。


「なにあれ、頭悪いわね…」


ナギサがぼそりと呟く。

それにも応答せず小津はなるべく穏便に済ませられないかを考える。

完全にロックオンされている状態で来た道を引き返しても逆効果だろう。


「悪いけど、急いでるんだ。邪魔しないでくれるかな」


小津はやんわりと言葉を選んで対応しようとする。が、それを聞いた男たちの機嫌が良くなるわけもない。


「あぁ、邪魔はしねぇよ」と細身の男が応える。

「そのヒューマノイドを置いて行ったらな」


小柄な男がそういってサバイバルナイフの先を小津達に向けた。

その言葉を嘲笑いながらナギサが髪をかきあげる。


「置いていくわけないでしょ、バッカじゃないの」


「んだとてめぇ!」


あぁ、良くない。

良くない流れだなぁと小津は心の中でため息を吐く。


「ナギサさん、バカじゃないのは余計ですよ。皆さんも、暴力とかやめましょうよ。怪我したら痛いですよ?」


両手を挙げて笑いかけてみるが、効果はない。むしろ逆上しているようにも見える。


「はぁ?怪我したらってどういうことだ、まさか俺たちがってことじゃないよなぁ?」

「あぁ、そこ分かってくれてよかったです。はい、そうなんですよ。多分怪我しますからやめましょうよ」

「おいおい…わかってねぇようだから教えてやるが、この辺は監視カメラもないから警察もこねぇぞ」


それは確かにないようだった。もっと都心では至る所にあるが、少し離れた郊外では意外なほど取り付けがまばらだったりする。そこまで予算を割ける状況ではないのだろう。地域格差の結果、三十年前とほとんど変わらない、むしろ劣化した設備の補修すらままならず治安が悪くなりつつある地域も少なからずある。

小津はため息をつく。それを聞いたチンビラの一人がさらに逆上する。


「てめぇ、俺たちに勝てると思ってるのか!」


「あぁ、いや、僕はもちろん勝てませんが、そういうセリフもフラグっぽくて良くないと思うんですよ」


小津の言葉が言い終わらないうちに、大柄の男が小津に拳を振り下ろしてきた。

その時。


「なんだ…」


男の狼狽えた声。

振るった拳は小津に届いていない。

大柄の男の拳を止めたのはナギサだった。男の右手の拳を左手だけで止めて、余裕の笑みを浮かべて男を見上げている。


「ねぇ、こいつらなら良いわよね?」


ナギサが、なぜか嬉しそうに後ろにいる小津に振り返って許可を求めた。


「そうですね…ロディ、この三人にウェアラブル端末の反応は?」

「この三人からウェアラブル端末の反応はありません。周囲にも録音、録画などができる機器の反応はありません。小津様、袋小路様の様子から見て緊急性は低いと判定していますが、オンラインにして助けを呼びますか?」


ロディが均質的な発声で機械的に応える。


「ありがとう、気がきくね。助けは呼ばなくても大丈夫」


さすがオーダーメイドモデルだけあって知性は量産型よりも高いな、と小津は感心した。人間で言えば冷静な判断ができるタイプといったところだ。一般的なヒューマノイドならとっくに警察に通報しているだろう。


「承知しました」

「一点だけ、「様」はつけなくても良いよ」

「私も、袋小路よりナギサが良いわ」


「承知しました。小津、ナギサ」

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