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我々には称呼が無い

本編とは一切関係がない登場人物紹介

先輩:後輩の先輩。スパモン教徒。

後輩:先輩の後輩。白米だけでご飯三杯イケる(本人談)

 ホットケーキを作る。そう決めたのは今日が非番でテンションが上がっていたから……ということでは断じてない。


 確かに昨日はスキップしながら帰宅した上に、スピーカーでジャズを掛けながらツマミ片手に缶を傾けていたが、断じて、浮かれてホットケーキを焼くのではない。ホットケーキはホットケーキを食うと決めた時に作るものなのだ。


 といっても連勤の疲れの中、フライパンにバターを塗りたくったりなんだりをするのは面倒だ。凝ったものは目指さず、大人しくホットケーキミックスと炊飯器を使いお気楽な料理モドキを楽しませてもらおう。


 多少ダマになっても自分しかどうせ食わないものだ。卵と牛乳、ホットケーキミックス、ついでに特に意味もなくインスタント青汁の粉をブチ込み豪快にかき混ぜる。甘みを求めていないのなら砂糖なんて必要ない。適当に砕いたクルミをばら撒いたら炊飯器の三合炊きボタンを押して放置。


 ホットケーキは焼くのではない、炊け。


 使った調理器具を洗い終えたら後はフィーバータイムだ。鼻歌でも歌いながら、気分は遊園地でジェットコースター待ちの小学生。だが、


 青天の霹靂、突如鳴り響く着信音。


 社会人の休日昼間の電話など碌なことがない。


 俺は今、全くもって残念なことに調理中で手が離せない……ことは全然ないが、電話を取れる精神状態でないのだ。あーあぁ、全く残念だなぁ(棒)


 幾秒か待ち途切れるコール。されど、息をつく間もなく再び不快音は鳴り出した。


「ハァ……あー、もしもし?」


「先輩先輩先輩センパーイッ! なんで直ぐに出てくれないんスか!? コッチは今、世界が滅ぶかの瀬戸際なんスよ!!」


「うるさっ」


 電話の向こう側の女の早口のお陰様で、俺の頭には微塵も内容が入ってこない。


 正確には、俺自身が詳細を頭に入れることを拒否しているのだろう。一刻も早く後輩(トラブル)から身を遠ざけたいと考えている。いや、電話越しなら身は遠いのだが。


怪異(シゴト)か? ――待て、言わなくていい。今日は休日。マイ安息日」


 わかりきった事を聞いたのを後悔した。


 確かにコイツは星型の○ノやおっ○っとのレア魚を見つけただけで態々連絡してくる、エブリバディ毎秒が幸せ女だが、世界が滅ぶなんてオーバーなことを言うのだからまあまあな緊急事態に決まっている……流石に世界は無事だろうが。


「今日は水曜ッスよ! デカいの出たんで救けてくださいよー! 今全力で追いかけられててヤバいんスよ!!」


「お前、息切れてないじゃねえか。電話通じてる時点で大した規模じゃないんだろ? 俺は今ホットケーキ焼くのに忙しいんだ、よ」


 仕事相手(・・・・)の規模が大きくなれば謎空間に連れ込まれたり、周囲一帯に影響が及んだりするものだ。それを高々二十歳そこらの女がフィジカルで逃げ切れるのだから、相手の強さなど知れたもの。


「あ、調理中でしたか。それは申し訳ないッス……」 


「いや、炊飯器にブチ込んでガッツリ待ち時間真っ只中だが?」


「数十分は暇ッスよね!? 近場で()ってるんで頼みますよ! ひっ、今背中に爪が掠った!」


「嫌だ。フィジカルお化けのお前で対処出来ないなら搦め手系だろ? 時間が掛かるじゃねえか」


「後輩の命の危機ッスよ!?」


「駄目だ、もし救けに行ってる間にホットケーキが炊きあがってしまったらどうするんだ。いくら保温機能があるとはいえ、出来上がりと少し放置された後だと俺のテンション感が違う」


「ああもう、出来上がるまでどれぐらいなんスか!」


「四十五分」


「イケますって! 先輩が来てくだされば、行き帰り考慮しても三十分位で片がつきますって!」


「お前なぁ、よく考えろよ。出来立てのホットケーキは出来立てにしか食えないんだぞ? 後輩の命とどっちが大事か考えればわかるだろう?」


「……いや、後輩ッスよね!? 考えても考えなくても命は何物にも代えがたいと思うんスよ!」


 何言ってんだコイツは? 現し世に於いて調理中の料理以上に優先すべきものなんてあるわけがないだろう。


「兎も角、そういうワケだから。切るぞー」


「ちょちょちょ、待ってくださいッスよ! えっと……駅前のホットケーキ奢りますから!」


 咄嗟に絞り出したであろう後輩の言葉。それは手持ち無沙汰でキッチンペーパーを弄っていた俺を制止させるには十分であった。


「……この間、新しく出来た所か?」


「そうッスよ! アイスクリーム乗っけてくれるとこッス!」


 店のホットケーキと家で作るホットケーキは勿論別物……とはいえ、開店早々評判の良い噂しか聴かない駅前の店なら十二分に満足度は高いだろう……


「いやっ……駄目だッ!」


「何でッスかッ!!」


 後輩の悲鳴にも近い問いに、俺は旨を抑えながら絞り出すように言葉を返す。


「その店はっ、次の休みに行く予定だったんだ……」


「いや今行けばいいでしょう!? 楽しみが早く来てむしろラッキーじゃないッスか!!」


「馬鹿野郎、次の休みにすることに思いを馳せずに社会人なんてやってられるか! 俺の明日からのモチベを奪い去る気か!?」


「知らないッスよ! 自分はこの仕事好きですから!!」


「黙れ、自己犠牲大好き女はコンニャクの角に肘でも打ち付けて死んでしまえッ! 俺は休日に世界が滅ぼうとスイーツノルマを達成することに命を賭けるッ!」


「なんてこと言うんスか!? この仕事しといて一番言っちゃいけないセリフッスよ!!」


「だから俺は今日非番だって言ってるだろうがぁあ! 仕事なんてしてねぇんだ! 駅前のスイーツなんかで誘惑してんじゃねぇぞ! 去ね、マーラッ!」


 そう言って俺は勢い良く画面をスワイプすると、後輩の番号を着拒した。


 こうして世界(おれのいえ)に平和は訪れた。


「と、いう訳にもいかんだろうなぁ……」


 溜め息の後、自身が身に纏う鼠色でヨレヨレのスウェット生地を眺め、また溜め息を吐いた。


「あー、面倒くせぇなあ」


 着替えるのが、ではない。それはいつものことだ。


 後輩(アイツ)は霊感は凡庸だが、『祓う』行為に関しては超一流である。その彼女が手間取る相手なのだから、おおよそ何を引き連れてくるのかは予想が出来るというものだ。


「爪が掠った……ねぇ。只の動物やらの霊でもないなら、それこs


「――ぉ邪魔しまぁああッスッ!!」


 独白を破るクソデカボイスと共に、俺の家の窓が障子のように簡単にブチ破られる。ゴロゴロと床を転がり、俺の足元には女が転がってきた。


 そう、件のフィジカルお化けである。


 通りはしないであろう代休申請の取得を考えつつ、俺は煙草に火を着けた。


「思ってたより早かったな。窓は弁償しろよ」


「ゴホッ……け、経費で落ちないッスかね……?」


「んなこと出来たら怪異マッチポンプで簡単リフォーム出来るわ阿呆が」


 大の字になった後輩はいつもの通り、馬鹿みたいな量の耳ピアスとウザったい長髪のプリン頭、殴りたくなる程整った顔のアホ面(えがお)といった嫌でも記憶に残る様相であった。


 その癖、指示通り(・・・・)古臭い丸眼鏡とシワ一つ無いビジネススーツを身につけてくるものだから、赤の他人から見ればコイツの人物像が見当つかないであろう。


「……で、(・・)呼んできた?」


 俺はジッポを取り出しながら聞くまでもない台詞を吐いた。


 眼前には象のように大きな獣が今まさに俺の居住区域だったもの(・・・・・)に土足で踏み込もうとしている所であった。


 図体ばかりデカい『それ』は辛うじてイヌ科の様相を保っているものの、永く手入れされてないであろう毛並みと朧げな輪郭が、此方がそれを何であろうか定義する事を拒んでいた。


「えーっと、わかんないッス……たはー」


 『たはー』じゃないが?


「せめて何処で遭遇したかと被害状況、周辺地域の噂や伝承の有無ぐらいは報告しろと何度言えb――「遭遇した地域は  市、    の鳥居近くッス。被害状況は自分が確認した限りでは二名が物理的要因で死亡。伝承は調べる暇がありませんでしたッ!!」――最初からそれを言え」


 寝たまま敬礼をする我らが脳筋女。その情報を整理する間もなく、眼前の猛獣が唸り声を上げ此方へと飛びかかってくる。


「GRRAOOOッ!」


「チッ、大人しく御座りも出来んのか……」


「先輩っ、ここはジブンが!」


「黙れ。そこで寝てろ」


 俺は手元に用意してあったそれ(・・)を指で弾き獣の鼻先にぶつける。一瞬にして膨らんだ『紙の兎』はエアバッグの様に衝撃を受け止め、休暇の邪魔の侵攻を防いだ。


「キッチンペーパーで作った風船兎だ。物理的な攻撃手段しかないならばだが、数秒は保つだろ」


「いや、キッチンペーパーで風船兎作るの結構難しいと思うんスけど……ツッコんだら負けなんスかね」


「GIGIGAGRRRA!!」


 何か後輩が言っているが……兎も角、毛むくじゃらの化け物は馬鹿みたいに俺の作った折り紙に攻撃を繰り返している。幸いに状況を整理する時間は十分にありそうだ。


「……地名が聞こえなかったな」


「えっ……ああ、自分の報告する声が小さかったッスか!? 申し訳ないッス……!」


「違う、聞き取れなかったんじゃなく『聞こえなかった』って言ったんだ」


「それって……」


 その訂正で俺の考えを察したらしい。


「大衆にはもう忘れられたんだろ。お前と同じようなもんだ」


「……」


 俺の言葉を受け、名も無き『後輩』は押し黙った。


「何度も言うが、超自然(・・・)なんてものは、所詮人の認識の上でしか生きられん」


 自然法則から逸脱した超常。それらは所詮、俺達の視ている世界の上にしか存在しない。


 例えば、俺があの化け物に喰い殺されたとしても、霊感を持たない人々は、それを事故や何かとしてしか認識しないだろう。


 ああ、全く。最初から怪異など居らず、俺達が集団幻覚を視ていると考えた方がマシだ。


 幼き日から目に視え、触れる事さえできるというのに、俺ですら未だに奴等の存在に懐疑的である。


「大衆の集合的無意識下の恐怖、慣習、或いは願いだとか……そんなものが偶々、『霊感』を通して視えているだけだ。忘れられれば消えるし、噂になれば増えもする」


 実在の証拠が無い、存在を証明できない超自然。


 業務上、怪異から人を守ったように感じても、それは自己満足でしかないのだ。


「それでも、」


 彼女は身体を起こす。


「だからといって、他者を食らってまで生き残るのが道理とは言えないッス」


「ああ、尤もだな」


 それでも、我々の世界では怪異は存在する。


 他でもない、生活と自己満足の為に仕事するのだ。


 後輩が息を整えると同時。除け者されたことに激昂するかのように、件の獣は咆哮した。


「さて、そろそろ防壁も限界だ。どうする?」


「大丈夫ッスよ先輩。こういうのは大概――」


 俺の問いに後輩は馬鹿みたいに前向きな顔で、ファイティングポーズを示した。


「――殴り合え(はなせ)ばわかるッスから」


 訂正、正真正銘の馬鹿野郎の表情だ。


「肉体言語とゴリラ語のバイリンガルとは恐れ入った」


「正真正銘第一言語日本語ッスよ! え、まさか今まで会話できてたと思ってたの自分だけッスか!?」


 肉体言語話者なのは否定しないのな。


「ま、手伝わんが、『手』は貸してやる。好きにやれ」


「え、先輩非番スよね? いんスか?」


「良い訳ねぇだろうが。頭にホットケーキでも詰まってんのか?」


「それ先輩が言うんスか!?」


「貸してやるんだから利子付けて返せ。格上相手でも一人で立ち向かえるようになれ。俺の休憩時間を増やせ。序でに俺の上司になり有給申請を通しやすくしろ」


「最初の二言くらいなら照れ隠しに取れたッスけど、みるみる内に怠惰人間と化すッスね……」


 当たり前である。俺は自分が一番大切で、仕事も他人も世間体もどうでも良いのだ。


 何かを救ける事も、何かに従うことも、全てが自分に利があるから、所詮自己満足の為に行う。


 今回の場合、俺は正々堂々殴り合うタイプではない。故に、現在の状況を早急に解決するためには彼女の力が必要なのである。


「ホットケーキを置いて逃げるわけにはいかん。早く片付けろ」


「あーもうわかったッス! 自宅ぶち壊して申し訳ございませんでした! やるッスからもうっ!」


 後輩は大きく息を吐き、


「『ジブンの名前は豌冗・樣据蜿、です』」


 音にならない言葉を称した。


「対戦、よろしくお願いします」


 後輩と空間の境界は曖昧となり、その容姿は向こうが透けて見えるように揺らいでいく。


「何度も言うが、眼鏡だけは外すなよ……あー、そこのお前」


 既に目の前の彼女を何と呼んでいたかすら朧げとなり、俺はそう口に出した。


「ハイハイわかってるッスよ。毎度のことながら、結構傷つくッスねぇー……怪異化す(わすれられ)んのはっ!」


「GRAAA!」


 その双眸は先程とは違い、明瞭に咆哮する異形の姿を捉えている。


 綺麗に身体に捻りの入ったストレート。女がその拳骨を振るうと空気が揺れた。技を食らってもいないというのに、女の半透明の体躯からは想像できない程の圧が俺に駆け巡る。


「オ゛ラァッ!」


「GYAGI!?」


 そうして彼女の拳は俺が丹精込め作った兎をブチ抜き、獣の頬を容赦無く打つ。が、その勢いは対象の首を数度曲げさせたのみで止まってしまった。


「GRRRRR……」


「あ、これダメなやつッスね」


 おい。


「GRURAAッ!」


 ピンボールのように吹き飛んだ女は、その身体で俺の家のカウンターキッチンを真っ二つにしたのに壁に叩きつけられる。


「ゲホッ。ッ痛いッスねぇーえ!?」


「ホモ・サピエンスならミンチなんだよ。ようやく馬脚、いやゴリラ脚を現したな」


「せ、先輩。ゴリラへの過大評価ッスよそれは……」


 やけにマジレスだけは口が回るな。マジレス委員会会長か?


「GYAGYAGYAGYAッ!」


 傍観する俺が気に触ったのか、怪異は此方へ牙を向ける。


 手を貸すのは一本だけで良いと思っていたのであるが、やれ仕方がない。


 俺はタブレット端末のペイントアプリを開くと、雑な書体で『おふだ』と書いた。


「座れよ、頭が高ェぞ」


「GAッ!?」


 フッと一息入れ、右手で持っていた端末を振り下ろす。俺の即席デジタル御札に直撃した怪異は、磔にされたかのように地面に叩きつけられた。


 恐らく、数秒程度の間ではあるが動けないであろう。


「あ、相変わらず、力技ッスねぇー……」


「何言ってる。超自然が認識の延長なら、俺が怪異に効くと信じれば通用するのは当然の理屈だ」


「それが力技って言うんス、よッ!」


 地面を蹴り、半透明の女性は俺と怪異の間に入る。気がつけば異形は起き上がり、殺意剥き出しの眼光が此方を狙っている。


 会話でも挟めば直ぐこれだ。この世の神秘とやらには嫌気が差す。


「蜈郁シゥは紙耐久な上に補助特化でしょう! ここは可愛い蠕瑚シゥに任せtドゥわァ!?」


「GGGGARRRA!!」


 がっぷり四つ。否、女性の方がやや圧されているであろうか。


 何はともあれ馬力が足りない。このまま怪異同士(超常共)がぶつかり合っていても、いずれ時間切れが来てお互い消滅するだろう。


 それだけならまだ良いが、俺の休日の楽しみの象徴である炊飯器の中身が被害に遭うのだけは避けなければならない。


「おいそこのマジレス委員会会長!」


「それまさかジブンのことじゃあないッスよね!? この緊迫した場面で判断つきにくい呼び方やめてほしいッスっ!!」


 知るか。こちとらもうお前のことなんざ、辛うじて人型の何かであることしか認識出来とらんわ。後は直近の流れとお前が馬鹿っぽいということしか思い出せん。


「そんなモンさっさと片付けて俺に駅前のホットケーキ奢れ!」


「なぁんでジブンの事は忘れてるのにそういう事は憶えてるんスか!? 現金! 現金魔人!! っと、おわわっ」


 おっと間違えた。発破を掛けるつもりでつい口からド願望が……


 今のやりとりで気が散ったのか、人型の怪異は徐々に俺の方に押し込まれてくる。


「訂正だ。お前なら絶対勝てる、このジョン・ドゥが保証してやる」


「……はぁ、名無し(ジョン・ドゥ)さんに言われてもイマイチやる気出ないッスけど、蜈郁シゥからの鼓舞はちょっとだけ引き締まるッスね」


 朧げに見える人型はニヘッと口角を上げると、直ぐに表情を引き締めた……様に視えた。


「じゃ、骨は拾って下さいよ?」


「馬鹿野郎、骨すら遺らんだろ……だがまあ、『拾って』はやる」


「充分ッスね……!」


 人型の異形が気合いを入れると、その両腕は神々しく光り輝く。


 最早俺の目にはその輪郭しか映っていないというのに、何故かその姿は如来像のような存在感を放っていた。


「GRGYAVAVAッ!!?」


「還って、もらうッスよ……! どの道、も、もう、現し世では、原形保てないでしょう!?」


 光が強まると、四足の形が崩れてゆく。


 がっしりと抑えつけられたその化物の姿は、やがて自らの終りを悟るかのように、徐々に弱々しいものへと変わっていった。


「……破ぁ!!」


「Grヴァヴァヴァあァ……ァ……」


 やがて異形達を中心に、天へと光の柱が昇った。


 部屋は白一色に塗り潰され、俺に長い瞑目を強要した。


 *


 ……閑話休題、俺は今まで何をしていたのだろうか。


 ホットケーキを作っていた事迄は憶えている。


 気がつけば窓であったであろう屑が床に散乱し、部屋も散らかっている。そして、右手にはタブレット端末が握られていた。


「なるほど」


 さて、俺は左利きである。左利きなのだから、右手でタブレット端末を持つのは何も不自然ではない。起動してるアプリに即席御札が書いてあるのも、記憶が残らない怪異退治など腐る程してきた。


 ――だがしかし、俺は怪異退治にタブレット端末など使わない。


 こんなものを使う場合は決まって、


「誰かの補助、か」


 俺は床に落ちている丸眼鏡に目を向ける。アレは自分のものだが、他人に貸す(・・・・・)としたらあれであろう。


 俺は眼鏡が落ちている辺りの地面に左手を当て、そこにある空間から女の腕を引っ張り出す。


「おら、帰って来い」


「うっぷはー。先輩、感謝仕りッス……」


 ズルズルと引きずり上げる俺の手を握り返すのは、いつ見ても憎たらしい後輩のそれであった。


「その自分の存在消し飛ばす癖そろそろ止めろ。非番の日まで何で手を貸さにゃならんのだ」


「わざとじゃないッスよ! 超パゥワー出すのに必要に駆られてと言いますか、あの状態保つの三徹するぐらいキツいって言いますか」


「三徹で死地乗り越えれるなら安いもんだろ。やっぱお前コンニャクの角に腓腹筋外側頭でも打ち付けて死ね」


「場所変わってるッスね!? ふくらはぎに何かぶつけるのって難易度高くないッスか!?」


 ――かくして諍いは終わりを告げた。


 俺達の誠に自己中心的な行動により、また一つ人に仇なす異形が征伐された。


 果たして正しいかなどは俺なんぞにわかるわけがない。


 重要なのは、ホットケーキはまだ炊けず、後輩は俺に奢る義務があるという事だけである。

 どうも初めましての方は初めまして! そうでない方は真っ事お久しぶりでございまバラレットラ!

 全自動駄文生産ラインこと残機(略です!


 先日、電車に乗っていたらですね、後からハイカラなお姉様が乗ってこられまして……その時私は吊り革に揺られていたんですが、隣にしゃなりと、その方が来られた訳なんです。

 あんまりジロジロと見ても失礼だなと思いつつも、私は「はれー、洒落た方やなぁ」なんてアホ面カマしてた訳なんです。

 が、ふと目に入りまして……


 そのお姉様の親指の付け根に、ボールペンで『オンデマンド』の文字が。


 ……なんで?


 もうそこからはお姉様が美人だとかそんな些細な事など頭に入ってきません! 私の脳内井戸端会議は即座にそのメモ書きの事で頭が一杯になりました。


残機A「え、なんでオンデマンド???」

残機B「オンデマンドって、あのオンデマンド?」

残機C「いや、そもそもオンデマンドってなんだっけ?」

残機D「何か聞いたことはあるけどイマイチ理解してないよなオンデマンド」

残機E「オデ、オマエラ、マルカジリ」

残機F「ていうかそもそもなんでオンデマンドだけ書いてんだよ。単体で何かを思い出せる単語じゃないだろオンデマンド」

残機G「おい今何か変なやついたぞ」

残機H「ふむふむ。オンデマンドとは、ユーザーの要求に応じてサービスを提供する方式のことらしいぞ」

残機I「スマホググった知識そのまま伝えるな!もっと噛み砕かなきゃメモの意味が通らんだろ!」

残機J「ああもうそんな考えても正解絶対でないだろっ!!」


 そうして、この衝撃的な感覚を忘れないようにと私はスマホのメモ帳を開き、『オンデマンド』とだけメモしたのでした。


私のそのまた隣の方「(オンデマンド……???)」


 というのは茶番ですが……


 私達文字を良く読むタイプの人種というのは、例え一単語や短文であったとしても、ストーリー性を見出したり、自身の脳内で色々と補完してしまったりとが良くあります。


 逆に言えば、書きすぎると読者にとっては冗長になりすぎるのでは?


 そんな事を考えながら作者としての色んな設定書きたい欲を抑えて抑えて、本筋とは関係ない物を諸々書かないようにしたものが今回の短編になります。


 タイトルの『我々』って何処までーだとか、怪異って結局何やねんとか、後輩ちゃんの事情とか能力とか、先輩の過去話とかなんでホットケーキ好きなのーとか、そんなものを抑えて! 抑えて! 短編に必要な部分だけ、切り分けてご提供しております。


 ま、風呂敷広げ過ぎたら畳むのが大変ですからね!! そんな分量書く気力が無かったです!!!!(これが本音)


 また気が向いたら彼らのお話を書きたいなーという気持ちはありつつ、でも短編で収まってくれたので一区切りつけてもいいかなー……などと久しぶりに筆を取ったので自分がどこまで書けるかわかっていない私で御座います。多分軽く話しかけていただければ聞いてもいないのにベラベラと設定語りだすと思います。


 所で、私の居ない間に小説家になろうにリアクションボタンが追加されたんですね! 皆様ご存知でした?

 ブックマークと評価ポイントで小説にポイントをつけられる機能はもちろん皆様ご存知だと思いますが……(多分知らない人の方が多い!)

 リアクションボタンはそんな『評価』とは関係ない気軽に押せるボタンなんですってね。旧ツイッターのファボ……あ、いいね?みたいな?(何がどういう名称だったかうろ覚えインターネット老人)

 まあそんな評価以前に、本当に久しぶりに書いてみたので、今読んでくださっているそこの貴方の1PVだけで本当に嬉しいです


  いや、この後書き書いてる時点では、


「本当に読まれるのか……? これが?」


 と、半信半疑のマジガクブルです。ガクブル大名です。


 さてさて、そんなくだらない話をしたところで……後書きを二千文字に届かせる訳にはいきませんのでここらで私は失礼したいと思います。


 また何処かで貴方の時間を無駄に出来ることを願って。ではでは。

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