ー第4話テック
お友達のおっさんのキャラバンで移動し、ミラクルサウンドと言う会社から16トントラックに乗り換えて、静岡の丘陵地帯に入った。
聡はドラムテックのポンポンさんの手伝いに入った。
「三上聡です。よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げる。
「おおよろしく」
と言って、ポンポンさんは聡の手をつかんだ。
「トンボレスキューの皮手?判ってるね?」
手の甲にロゴが入っている。
「昔からずっと家に有って。軍手より家はこれなんです」
「そう?なんで皮手がテックの仕事に良いか判る?」
「いえ。判りません」
「よし。いいぞ。知ったかぶりしないヤツは扱いやすい。皮手は自分の手の保護。それと楽器の保護。ただギターのネックは外せ。素手で握る物は素手だ」
「はい」
「よし。トラックから降ろして、ステージに載せる」
ドラムセットを置き、ポンポンさんが言う。
「これはチューニングされてるが、ペグを全部緩めろ。チューニングを教える」
「お前さ。親は音楽関係」
ひととおりセッティングも終わって、待ちになった。
「最近親父がバンドのボーカルだったって知りました」
「へぇ。何てバンド?」
「Grandmenuって古いバンドみたいです」
ポンポンさんの眼が見開かれた。
「Grandって……三上……三上慧の息子か?お前?」
「そうみたいです」
「驚いた。お前手袋の裏見せてみろ」
聡は皮手を外して渡す。ポンポンさんは裏返して、ミウラと言う文字を出した。
「ミウラは、俺の師匠だ。そうか、本人は駄目だが、息子は帰って来たか」
「親父の知り合いなんですか?ミウラさん」
「いつか戻って来いって1ダース渡したんだ。去年ガンで死んだ。最後の言葉はな。三上は戻って来たか?だった」
「親父はなんで戻らなかったんでしょう?」
「崖から転落した。三上だけ生き残った。俺の後ろをやれるヤツは死んだと言う理由でマイクを捨てた。それ以来音信不通だった」
「あまりに家族の事を考えないクソ親父でした。母は僕を連れて離婚したんです」
「香さん……三上が大好きだった。苦労したんだな」
「音楽を一切聴かないクソ親父でした。バントの話も一切話してくれなかった」
「クソは止めろ。親父さんよっぽど辛かったんだ。ゴミ箱あさりながら、デビューまでこぎつけたんだ。別のヤツと組む気になれなかったんだよ」
ミラクルサウンドの社長洲応一郎がステージに上がって来た。センターマイクに言う。
「強風で新幹線が止まった。バンドは来ない」
動揺が会場に広がる。
「ファンのワゴンRで向かっているが。到着は19時以降になる」
中止ですか?の声が出る。
「いや。開場は18時。1時間テックで保たせる。リハ無しでやれるように頼む」
洲応社長は、センターからポンポンさんの所に歩いて来た。
「ポンポン。久しぶりにお前の神ドラムが聴ける。楽しみだ。観客は2万7000だ。少ないか?」
「1時間なら。1人も帰しません」
「すまない。頼む」
洲応社長はステージを降りて行った。