ー第11話ヤンキースタジアム
ヤンキースタジアムでのファウチの風ニューヨーク公演はまあまあの入りだった。
聡はポンポンさんと撤収を手伝っていた。
ポンポンさんが人気のない観客席をチラッと見て、聡に言った。
「サトシ。ここはもう良い。親父さんが来てる。言いたい事言って来い」
サトシは観客席を見た。ステージ後方、ホーム側のダグアウトに、ヨレヨレの上に破れた服の父親が居た。サーフの時に破れて、ファンの記念品になったのだろう。
挨拶もなく、聡は父親の隣に座った。
「良く入れたね?」
「俺を誰だと思ってる?」
「Grandmenuの伝説のボーカル。でも、僕とお母さんにとってはクソ親父だ」
「それは褒め言葉と取っておこう。実際は警備員に取り押さえられたが、チンピラ時代の仲間がお偉いさんになってて入れてくれた。驚いたぜ」
「昔の仲間がまだチンピラだったから?」
「良いジョークだ。どっかで使わせてもらう。
そいつが言うのさ。アルマーニのスーツでだ。ミカミ、サインをくれよ。アトランタでは酒が無料になる。くれたら入れてやるけど?息子の前座にはまだ間に合う」
聡は父親とハイタッチした。
「僕らのバンド見てくれた?」
「あぁ見た。悪くない。トランポでAC/DCはかけるな。それ以外アドバイスはない」
「母さんに、愛してるを」
聡はスマホを父親に向けた。
「あぁカオリ…もう抱くことはないが……愛してるよ……クソ坊主を頼む。YouTubeに上げるなよ?ジェニファーに殺される」
サトシはスマホを持ったまま、体を九の字に曲げて笑った。
「おい!笑い過ぎだぞ」
父親は息子の体を抱いて、一緒に笑った。




