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ジュリー 3

ニクラスを見送ると、ジュリーはリアムの姿を探した。


リアム様はいつも華美ではなく、上品な装いに身を包んでいる。中肉中背の物腰の柔らかさは、人に圧を決して与えず、周りからどこか一歩引いているようなところがある。


あえて目立ちすぎないよう、空気のような存在感、自分の存在感をわざと薄めているのではないか、そんな感じをジュリーは出会った時から感じていた。


ジュリーにとって「静かなる王族」「気品の塊」のような彼は理想の王族の姿だった。


ジュリーが自分の方へ来るのを見つけると、リアムは優しく笑んだ。

この穏やかで暖かい笑顔が好きでたまらない。


でも、リアム様とは教師と生徒のようなものだ。


リアム様に大切な想い人がいることを知ったのは二年前、図書館へ通いはじめた頃だった。

彼は修道院に行ったその方を今でも一途に想い続けていて、だから彼はまだ独身なのですってと侍女のウルスラが教えてくれたのだ。


ニクラス様と婚約破棄が成立したら、もう会えなくなるだろう。

王家の図書館へは王族の婚約者だから出入りすることが許されていたのだから。


今夜が、リアム様と踊る最初で最後のダンスになるかもしれない。


「リアム様、よろしくお願いいたします」

「お待ちしていました」

リアムが差しのべた手の上にそっと自分の手を預けた。暖かくて大きな手だ。ニクラスとは違う大人の男性の手だ。

「デビューは緊張されませんでしたか?」

「はい、素敵なものを見てしまって、緊張するどころではなかったのです」

「素敵なもの?」

「人が恋に落ちる瞬間を見てしまったのです。まさか自分の婚約者のそれを見るとは思いませんでしたけれど」

「ニクラスがですか!?」

リアムは目を見開いた。

「···あいつは何をやってるんだ。しかもこんなデビューの日に」

「ふふ、デビューだからですわ」

「あなたという方がいるのに」

「いいのです、婚約破棄になると予想しています」

「····あなたはそれで構わないのですか?」

「ええ、熟年夫婦みたいなものでしたから」

リアムは困惑した顔になった。

「熟年夫婦···?」

「侍女が私達の関係をそう言っていましたの」

「······」

そこで曲が終わった。

「ああ、もう終わってしまいましたわ、リアム様、踊っていただいてありがとうございました」

リアムのリードは素晴らしかった。これが洗練された大人の貴族というものなのだなと感激した。

「いいえ、私でよければいつでもお誘い下さい。お飲み物はどうされますか?」

「では、いただきます」

飲み物を口に運びながらニクラスを目で探すと、丁度飲み物のグラスを二人分手に持ってテラスに行こうとしているのが見えた。

テラスにはアレクシア殿下がいるのだろう。


「ジュリー様、ニクラス様からでございます」

給仕が小さなメモを渡して来た。

さっと開くとテラスに来て欲しいという文面だった。

これは、ニクラス様の字ではないような······、それに彼は、たった今アレクシア殿下と二人きりで過ごそうとしているのに、こんなものを私に寄越すのはおかしいわ。

「どうしました?」

リアムに状況を説明すると、それは確かに妙ですねと同意した。

「きな臭いので、私もご一緒します」

「お願いします」


先ほどニクラスが向かったテラスへ、ジュリーはリアムと共に向かった。


ニクラス達がいるであろうテラスを窓からチラチラ覗く男がいた。

リアムが声をかけると慌てて逃げるような動きを見せたので、リアムは彼をその場で拘束した。


ジュリーは嫌な予感がして、急いでテラスへ出るドアを開けた。

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