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アレクシア 2

アレクシアの社交界デビューは一昨年だった。

まさかこの二年間でこんなにも多くのものを失くすことになるとは思っても見なかった。

親族も婚約者ももう戻っては来ない。


しかも、父らに他国の王子に色仕掛けを命令され、今ここに立たされている自分が信じられなかった。


王女など、所詮王家の操り人形のようなものねと自嘲したくなった。


先ほど今年デビューする令息令嬢の紹介で、第二王子ニクラス殿下と、その婚約者であるジュリー様を確認した。

ニクラス殿下は、なかなかの美形であることはわかった。ジュリー様もさすが美貌の一家のモンサーム伯爵家の令嬢らしく、可愛らしくもありながら美しい。あれならば、仮に殿下と婚約破棄になっても引く手あまたでしょうね。


見目だけが全てではないけれど、嫌々結婚しなければならない相手、しかもこの数日間で誘惑しないとならない相手が、生理的に無理な相手では地獄だ。

少なくともその相手の外見が不快ではないということは、それだけでも幾分気は楽になった。


まずはダンスに誘っておく必要があるわね。


しかし、アレクシアが自分なりの計画を実行に移す前に、標的の王子は向こうから接近してきた。


「アレクシア殿下、お初にお目にかかり光栄に存じます。よろしければ私と踊っていただけますか?」

「喜んで」

アレクシアは、これは外交のうちだから自分を誘ったに過ぎないと思っていた。


だが、それにしてはやけに王子の視線が熱を帯び過ぎてはいないのだろうか?


これは気のせいよね?

アレクシアは内心狼狽していた。


腰を押さえる手や、自分の手を握っているその手が、あまりにも力強くはないかしら?


元婚約者だってこんな熱っぽい触れ方はしてこなかったわ。


私の顔から殿下が目を離そうとしないのはどうしてなのかしら?


1曲目が終わっても、手を離さずに、何事もなかったようにそのまま続けて踊ろうとするので焦ってしまった。

「殿下、いけません、これでは···」

「いいのです、了承済みですから」

「え? それはどなたの···?」

「私の婚約者です。ああ、今宵限りで元婚約者と呼ぶことになるかもしれませんが···」

アレクシアは耳を疑った。


この方は正気なのかしら?


それとも相当酔ってらっしゃるの?


流石に3曲も続けてなんて不味過ぎると思い、少し休ませていただけませんかと言って、テラスに避難した。


誘惑しようとしているこちらが焦ってどうするの?!


そう思いこそすれ、ニクラスの押しの強さにアレクシアはすっかり調子を狂わされていた。


テラスで夜風にあたり涼んでいると、ニクラスが飲み物を手に近づいて来た。

「お飲み物はいかがですか」

「ありがとうございます」

王子の手前、飲まないわけにゆかず、一口だけ口をつけた。

ニクラスはぐいぐい飲み干して、ニコリと笑った。

その姿がまるで子どもみたいだなと思った。


ニクラスがずっと押し黙っているので、どうかなさいましたかと声をかけようとすると、いきなり抱きしめられて唇まで奪われた。

「······っ!」

ニクラスの胸を押しやって、唇を離したが、今度は耳元で

「どうか、私の妻になって下さい」

ニクラスは掠れるような声で囁いた。

「な、何をおっしゃるのですか、殿下には婚約者様が···」


再び荒々しく口づけられて、頭がどうかしてしまいそうだった。


婚約者に口づけをされてもこんな感覚にはならなかったのに。


この抗えないような、痺れるような感覚は一体····


もしや、······媚薬を盛られているの?


気がついた時は既に遅く、身体に力が入らなくなっていた。


ニクラスがアレクシアに覆い被さり、押さえつけられて身動きができなかった。


「場所を変えましょう···」

ニクラスは充血した目で、苦し気に言うと、そのまま自分の身体を押し当てながら、会場からは死角になっているもの蔭へ、アレクシアを運ぼうとしている。


ま、待って、な、なぜこんなことに····


罠にかけるのはこちら側だった筈なのに、これではこちらが罠にかけられたのと変わらない。


助けを呼ぼうとして、会場の窓の方を見やると、窓ガラスの向こうにニヤリと嗤う自国の大使の姿があった。


アレクシアは謀られたことを悟った。


い、いやよ、こんなの酷過ぎる···!


私など捨て駒、道具でしかないのね。


お父様もご存知ならば······娘ごと罠にはめる親など鬼畜だ。


側近も人の皮を被った魑魅魍魎よ。


こんな王家などいっそ滅びてしまえばいい···!


私は王家の犠牲になどならない。


アレクシアは力を振り絞ってニクラスの急所を思い切り右膝で突いた。


ニクラスが悶絶して倒れ込んだのと同時に、テラスへ誰かがやって来た。


「ニクラス様お呼びでしょうか」


蒼白な顔で固まっているアレクシア殿下と、その傍でもがいているニクラスの姿がジュリーの目に飛び込んで来た。


「ち、違うの、こっ、これは誤解です、わ、私は薬を盛られて···」

その場でガタガタと震えるアレクシアに

「アレクシア殿下を私は信じます、ですからどうか落ち着いて下さいませ」


テラスの端にある椅子に彼女を座らせると、少々お待ちをと言って、ジュリーはリアムと侍女らを連れてすぐに戻って来た。


「アレクシア殿下を安全な場所へお連れしろ、丁重にな」


リアムはニクラスのみぞおちを突いて気絶させた。


テラスへ来る直前も、不審なベシュロムの大使を一撃で倒して拘束していた。その手際の良さにジュリーは驚いた。


······リアム様って、意外に武闘派なのね。

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