アレクシア 1
一昨年はデビュー後に祖父と、叔父夫妻とその一人娘だった従姉を立て続けに亡くすという散々な年だった。
一家三人が亡くなり取り潰しになったバディム公爵家は、呪われているのではないかと口々に言われるようになった。
先王の死の時期が被ったことで王家にまでその火の粉が飛んで来そうな状況に、新国王となった父は温和な性質がすっかり神経質な人物に変貌してしまった。
王家への求心力と印象を回復させようとする父の狙いにより、そのとばっちりが王女であるアレクシアにもまわって来た。
アレクシアには幼少の頃から縁組みされた婚約者がいたが、故·バディム公爵の縁戚だったために、父は世間の目を怖れて破談にしてしまった。
そればかりか、「お前は隣国の王子を婿にしろ」と命令されてしまった。
しかも父が縁組みを取りなすのではなく、お前が自力で連れて来いというのだ。
隣国の王太子には既に妻子がいるため、狙うのは第二王子だ。だが、その第二王子にはアリステア·モンサーム伯爵令息の妹が婚約者として内定していた。
モンサーム伯爵家はこの国のモンターク公爵家の分家にあたるのだが、故·アンジェリーナと婚姻話で揉めた因縁の家門でもあった。婚約内定者ジュリー·モンサームの父フレデリクがその因縁の人物だ。
故·アンジェリーナの兄である現王は、個人的にフレデリクへは別段遺恨はなかった。
が、娘のジュリー·モンサームから王子を奪うことで意趣返しとなり、亡き妹君への供養になるのではないかと側近達に唆されてしまったのだ。
シャゼルの王子を自国へ婿入りさせれば、王家への評判も上がる筈だという浅はかな王の思い込みから、そのような命令が下った。
それは王家が公式に婿入りを要請するのではなく、あくまでも王子自らが望んで婿に来たという体にすることで、婚約破棄についてこちらの責任を問われない形で目的を果たそうする企みだった。
まったく、叔母様のせいでいい迷惑だわ。
モンサーム伯爵が叔母様を選ばなかったのは、それだけ伯爵が女性を見る目があったということよ。
あんな裏表の激しい苛烈な王女なんて、結婚したら大変ですもの。
またその従姉も性格がそっくりで、私はあの二人が苦手で仕方がなかった。
亡くなったのは気の毒ではあるけれど、もう関わらずにすむのは正直ホッとしているの。
それなのに、死後も叔母達の後始末に振り回されるなんて、勘弁して欲しい。
私の結婚までズタズタにするなんて。
私は婚約者を嫌いではなかった。愛してはいなかったけれど、政略結婚の相手として十分に満足していたのに······。
早速来月シャゼルへ訪問する予定を組まされ、その滞在中に王子を誘惑せよという、無茶苦茶過ぎる王命に、憔悴するアレクシアだった。