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ジュリー 1

シャゼル王国の第二王子ニクラスはジュリーと同じ12歳。銀色の髪にエメラルドのような緑の瞳が印象的だった。

「なんだ、金髪なのか」

初顔合わせの時、ニクラスはジュリーを見るなりそう言った。

「はい、三人兄妹全員この色です」

「残念、銀髪だったらなあ」

そんなに銀色の髪がいいなら、銀髪の人を婚約者にすればいいのに。

ジュリーは心の中で呟いた。

「瞳の色は何色がお好きですか?」

多分私の瞳の色は好きではないのだろうなと思いながら返答を待った。

「菫色だな」

銀色の髪に菫色の瞳···それって私のお母様じゃないの!?

もしかして、お母様の娘なら、私もその色だと思ったということ?

「従姉妹はいるのか?」

これって、銀色の髪と菫色の髪の従姉妹がいたら、婚約者をその人に替えるっていうこと?

「いないのか?」

ジュリーはこれ以上この失礼な王子とはもう話をしたくなかった。だから頷くだけにした。


その後は、何か聞かれると頷くか首を振るだけにしてその日は終わった。



王城から帰宅すると、ジュリーは自室に籠った。


あんな人、絶対に嫌だ。私にだって好みはあるのに。

さっきのあれは「お前は好みではない」と言われたのと同じだ。

私だってお母様みたいな容姿で生まれてきたかったわ。


夕食の時に王子の態度への不満をジュリーが訴えると、

「王子とはいえ、まだ12歳だからな、そんなもんさ」

「次男坊だからじゃないか?」

父や兄はそう言ってなだめようとした。

「お父様もアリスお兄様だって次男でしょ!」

「プハッ」

長兄のレイモンが珍しく吹き出した。

「我が家はみな紳士揃いですもの、12歳でもあんなことはまず言いませんわ」

「そうですよねっ、お母様」

「私もフレデリク様の12歳の頃を見てみたかったですわ」

「グフッ···」

フレデリクが()せた。

「ジュリー、お母様達と違って子どもの頃からお互いを知り合えることは、幸せなこともあるのよ」

お父様は啓示の相手だったお母様に成人するまで会ってはいけないと禁止されていたのだっけ?

「王族の伴侶だからこそ、長く付き合って相手を見極めないとならないのだろうな。その長い月日で育まれる信頼関係が最も大切だからな。もう少し王子の様子を見てやってくれないか?」

「···わかりました」

「お互いに今しか見ることができない貴重な時間かもしれませんからね」

「私もフェネラの12···、おっと、すまない。マデラインの12歳の姿を見てみたかった」

ジュリーの母は一瞬だけフェネラの姿になって、またすぐにいつものマデラインの姿に戻った。


もし私がお母様の髪と瞳だったらニクラス様は何て言うのかしらね。


フェネラにもマデラインにも似ていないジュリーは、私も魔法で姿を変えることができればいいのにと、溜め息をついた。



それから定期的にニクラス王子とお茶を飲む日が設けられ、王子妃教育もはじまった。


二年過ぎても相変わらず王子は不遠慮、無神経な態度のままだ。


それでも徐々に馴れてきて、いちいち腹を立てず、いちいち傷つくことは減って来てはいた。


この人はこういう人だから、この性格は変わることはないのだと言う諦めのような感覚だ。


それを自邸の侍女に言うと


「まあ、お嬢様、それではまるで熟年夫婦のようでございますね」


などと言われてしまったが、自分の両親はそんな何かを諦めている感じでは全くないのに、どうして自分と王子はこうなのだろう?


まだ若いから? お互いに子どもだからなのかな。


レイモンお兄様と婚約者のフィオナ様達だってベタベタはしていないけれど、仲は良いのよね。



「俺は他の奴らとは違って、好きな子は絶対にいじめない」

それは私を好きではないと言っているのと同じなんですけど!?

それに、こんなことを誇らしげに言うのが謎よ。

私は殿下の好みではないし、好かれてもいない、それは嫌というほどわかっているから、それについてはもうこれ以上傷つくこともない。


だって、私も殿下は好みではないし、好きじゃないから。


でも、今回だけは我慢できなかった。


「何でいつもそんなに能天気なんだ? お前は本当に苦労知らずだよな」


王子の話に笑顔で相づちを打っていた婚約者に向かって放たれたその言葉は、過去最高にジュリーを怒らせた。


殿下そのものが私の苦労の根源、苦労の塊なのに!


もうダメ、話が通じない。


もう、無理よ。


ジュリーは婚約破棄を覚悟して、渾身の一撃をニクラスへお見舞いした。


「私は無神経で馬鹿な男性が最も嫌いですわ」


その場が凍りつくのがわかったが、それは無視してティーカップを置くと、では失礼しますと立ち去った。


······破談になるかな?


王子と結婚するのが妖精の啓示ならば、それを破れば短命になるということだ。


これじゃ、王子と結婚できず、王子のことを殺すこともできなかった人魚の姫の物語と同じじゃない。


私ももうすぐ泡になって消えてしまうのだろうか。


王族は妖精公爵一族の苦労を知らな過ぎる。


これのどこが苦労知らずなのだろうか。


自分が死ないためだけにあの王子と結婚するのは、私には絶対に無理だ。


お父様、お兄様ごめんなさい。


私は妖精公爵一族の出来損ないかも···。


私はお母様みたいに、素敵な旦那様と普通に結婚したいだけなのに。


それってそんなに難しいことなの?


『表の裏の王家の血を混ぜよ』


それ、私でなくてもよくない?


私の代わりに誰かなってくれないかな、そうしたら私は短命でもいいから、自分の好きな人と結婚するから。

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