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表と裏を合わせたら 3

禁書の閲覧を終えてから、父には先に帰ってもらい、ジュリーはリアムと二人きりで話をすることにした。


「ジュリー様、こちらを見て下さい」

リアムに促されて、書庫の廊下の格子窓から外を覗くと、自分のお気に入りの隠れ場所が見えた。

「······ここからはまる見えだったのですね」

自分の恥ずかしい姿の数々を図書館の人達に見られていたことは、既に手遅れだとジュリーは諦めた。

「あの場所は、子どもの頃から私のお気に入りの場所でした。まる見えとは知らずに」

「そうだったのですね」

「自分がこの王族用図書館に出入りするようになって、ここから覗ける背の高さになるまで私も気がつきませんでした」


リアムは子どもの頃から本の虫で、ほぼ図書館の主だった。それは幼少時代、王宮内で難しい立ち位置にいた彼にはここしか居場所がなかったからだ。歴史研究家になったのも、その肩書きがあればここにいられたからだ。


私はリアム様のことをまだ何も知らないのだわ。


「リアム様、私はあなたのことをもっと知りたいです」

「それは私もです。ですから私にもあなたのことを教えて下さい」


二人で階下に降り、「姫君の腰掛け」へ向かった。


「リアム様は修道院に想い人がいらっしゃるとお聞きしたのですが···その方はよろしいのですか?」

「どこでどう間違って伝わったのかはわかりませんが、修道院にいるのは私の叔母ですよ」

「えっ?」

「母を早くに亡くした私を母代わりに育ててくれたのが叔母でした。故·前皇后は私の後ろ楯をことごとく断つために、叔母を修道院へやったのです」

「そんな···」

ジュリーは、側妃を母に持つ王弟リアムの幼少時代の立ち位置が、そこまで苛酷なものだったとは知らなかった。

「私に想い人がいるとしたら、それはあなたです」

ジュリーはリアムに抱き抱えられるように石段に座らされた。


「私はあなたがここで見せる百面相を、いつも楽しみにしていたのです。気分がすっきりしてこの石段から立ち去る前に見せるあなたの笑顔が、私の癒しでした」

いつになく饒舌なリアムにジュリーは戸惑いが止まらない。

「そ···れは、い、いつからなのでしょうか?」

「4年前からですね」

「そんな前から···」

「気がつきませんでしたよね?ええ、必死に隠して来ましたから」

「······」

ジュリーはリアムの抑え切れない心情の吐露に、どう反応していいかわからなくなっていた。

「なのにあなたは、二年前から笑わなくなってしまいました」

「えっ? そんなことは···」

「その時からですね、あなたのことが気になってしょうがなくなってしまったのです。教えて下さい、あの頃、あなたに何が起きたのか」

「きゃっ···」


ジュリーは隣にいたリアムの膝の上に座らされてしまった。

しかもがっしりと身動きできないほどの力で抱きかかえられている。


リアム様って、こんな方だったの······?


ニクラスよりも暴走していない?!


もうこれ、リアム様でなかったら、肘鉄ものよ!


リアム様が私の本当の啓示の相手なのよね?

あんな禁書にまで書かれているほどの。


ああ、お父様、お兄様、今ならわかります。


妖精公爵の一族は楽ではないって。


それでも、このような少し重めの愛にも私は応えて見せるわ。


「私が笑わなくなったというのは、もしかしたらですけど、啓示の相手がニクラス様だと思っていたので、婚約破棄になれば、啓示を守れなかったということですから、そうしたら自分は短命になるのだっていう、恐れというか、ああ私は早く死ぬんだって思ってしまっていたんです。だから、それが原因かもしれません」

リアムはジュリーを更に力一杯抱き締めた。

「あなたはそれを一人で耐えていたのですね」

ジュリーはリアムの手に自分の手をそっと乗せた。

「はい。でも私は長生きできそうですね、これからはずっとリアム様がいて下さいますから」

ジュリーは屈託のない笑顔でリアムへ振り返った。


夏の終わりの薔薇が一陣の風に吹かれ、芳しい花吹雪を作って二人を祝福した。




ジュリーの結婚式が間近に迫り、愛娘の結婚の顛末について、フレデリクは備忘録に記す内容に思い悩んでいた。


『フレド、あれは他言無用だからね~、あはは』


あのような特別な内容、書きたくて仕方がない内容を書けないなんてと、彼は苦悶した。


リアムの修道院にいる叔母こそが、あのティルダだということをフェネラはこれから知ることになる。

それは彼女が還俗を許されて結婚式に参列するからだ。

ティルダの本名はベアトリス、修道院帰りの美貌の侯爵夫人としてティルダとフェネラが再会を果たすのはもうすぐだ。



『表と裏の王家の血を混ぜよ』


その啓示を再び受け取る子孫達も、そのまた先の一族の末裔達へ、妖精公爵の備忘録は受け継がれてゆくのだった。



(了)

以上で取り敢えずシリーズ完結です。

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!

残りの番外編もよろしければお楽しみ下さい?!


この作品がヒストリカルというジャンルで良かったのか疑問ですが、また機会があれば書いてみようと思います。

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