表と裏を合わせたら 2
婚約破棄の手続き完了の報告を自邸で待っていたジュリーは、リアムから恐ろしく魅力的な誘いを受けた。
あなたのお父上と禁書の閲覧をすることになりましたので、よろしければあなたもいらっしゃいませんかと。
お父様まで一緒に閲覧する禁書とは、一体どんなものなのだろう?
禁書という言葉にくらくらする程の誘惑を感じる自分は、やっぱり変なのだろうか。
王族すら許可無しに閲覧できない書なんて、見たいに決まっている。
ニクラスに変な奴扱いされているのはわかっていたし、そう思われたとしても痛くも痒くもなかった。
それに既に彼はもう婚約者でもないのだから。
お父様やリアム様の補佐をできるような仕事に私もつけたらいいのに。
例え自分が短命で終わってしまうとしても、やっぱり彼らの傍で役に立ちたい。
その事を、今度会う時伝えてみよう。
禁書閲覧の立会人として、王立図書館館長のクライヴが待っていた。
いつもは穏和な笑みをたたえている彼も少しだけ緊張しているのがわかった。
王家の禁書など滅多に閲覧されることはないからだ。
王弟であるリアム殿下がいなければ、もっと立会人は増やされていた筈だ。
ようやく目的の書が、専用の閲覧室に木箱に入れられ運び込まれた。
手袋を着けた館長が中から取り出すとリアム殿下へ手渡した。
ジュリーはその表題を見て絶句した。
ジュリーがチラリと二人を見るとフレデリクとリアムは平然としていた。
フレデリクが見守る中、リアムが手袋を着けた手で慎重に頁をめくってゆく。
途中でフレデリクとリアムはギョッとした表情を見せ、二人で顔を見合わせた。
「「······」」
リアムは目を見開いた後にすぐさま困り顔になり、なぜかフレデリクは笑いを堪えている。
何度も同じ頁を読み返した後、二人はその禁書を閉じた。
リアムは盛大な溜め息をついて、長椅子にもたれ込んだ。
「ジュリー、お前も読んでみなさい」
フレデリクは、待ちきれなさで一杯の愛娘に手渡した。
それは全て古語で書かれてあり、著者名などは記されていなかった。
古語を習っていなければ読むことはできなかった筈で、こうして読めるのも今まで努力して来た成果だ。
ジュリーが頁をめくってゆく度にリアムは手を口に当て、目を伏せつつ視線は泳がせている。
こんなに動揺しているリアムはジュリーも初めて見た気がした。
ある頁に辿りつくとジュリーも赤面し硬直した。
「···何ですか、これ···」
娘の疑問に
「そのままの意味だ」
父は答えた。
その禁書の内容はこうだった。
数頁ほど白紙が続き、その後にある御柳の挿し絵のある頁をめくると、そこにこのようなことが書かれてあった。
『ここに綴られているものを読みに来る者は、真の王族自身とその伴侶になる者である。
迷うことなく
速やかに
表と裏の王家の血を混ぜよ
この先の頁は、真の王族とその伴侶の結ばれた後、再び啓示を受けた子孫がいずれ読みに来るであろう。
ゆえに、そなたらは、この先を読む必要はない。
尚、この内容は他言無用である』
リアムとジュリーは不意打ちを食らったように、黙り込んでしまった。
「リアム殿下、そういうことでございますので、どうぞ我が娘をよろしくお願いいたします」
フレデリクはリアムの前に進み出て、跪いた。
リアムは弾かれたように姿勢をただすと「謹んでお受けさせていただきます。求婚は後日また改めて致します」
そのように返答した。
「どうぞよしなに」
ジュリーは絶句したままだった。
クライヴ館長が、何事かと怪訝な眼差しで三人を見つめている。
「閲覧はもうお済みでしょうか?」
「はい、もう十分堪能させていただきました」
フレデリクが満面の笑みで答えた。




