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悪魔の契約 - 真実

☆前回のあらすじ☆


蒼馬をケンタウロスにした悪魔を呼び出し、あーんな事や、こーんな事を聞いていた。


 翔子が五歳の時、突然、病室は煙に包まれた。

「え、火事!?」

 翔子は狼狽した。病気が原因で床に臥せっていることが多かったので、どうすればよいかわからなかった。

「安心しろ、火事ではない」

 謎の声が聞こえた。

 声の方をみやると、そこには上半身が牛で下半身が人間――ミノタウロス――の悪魔が毅然と立っていた。

「ひい」

 翔子は怯えた。

「安心しろ、変質者ではない」

「その姿だと、全然説得力ないよ」

「幼いのに、『説得力』って言葉を知っているのだな」

 悪魔は感心した。

「何の用なの?」

 翔子は警戒しているが、さきほどのように怯えてはいなかった。

「実は、君の病気を治したいという少年がいてね。本人にその意思があるかどうか聞きたかったのだよ」

「え、本当? 病気がなくなって外で遊びたいから、できれば治したい!」

 翔子は快活に答えた。

「わかった。それでは、その少年の願いを叶えることにしよう」

 悪魔は立ち去ろうとしたが、その時、

「待って!」

 翔子は呼び止めた。

「なんだ?」

「私の願いも聞いてもらえるかな?」

 幼女は上目遣いで言った。

「別にいいが、その代わり、大事なものをいただくぞ」

「それは困るなぁ」

 翔子はがっくりと肩を落とした。

「願いを聞いてから、それは決める。とりあえず、言ってみろ」

 ミノタウロスは促した。

「あのね。私、白馬の王子様と結婚したいの!」

「なんだ、そんなことか。それは叶えてやるよ」

「本当に? でも、大事なものをとっちゃうんでしょ?」

「ああ。そうだな。――それでは、君が最近、大切な人と過ごした記憶をいただくというのはどうだ?」

 悪魔は提案した。

 しばし翔子は考えた後、

「それでよければ」

 と首肯した。


 *


 現在、高校生になった蒼馬たち。

「そんなことが……」

 蒼馬はつぶやいた。翔子は絶句し、美波は気難しい顔をしていた。勇作はおろおろと翔子と蒼馬の顔を見ていた。

「え、じゃあ。僕は」

 蒼馬は悪魔に弱々しい声で言う。

「五歳の時に会った病室の少女と美波ちゃんを重ね合わせていたけど、実際は美波ちゃんではなく翔子ちゃんだったということ?」

「その通りだ」

 悪魔は頷いた。

「私と翔子は、昔は、よく『双子』といわれるくらい似ていたの」

 美波が補足した。

 蒼馬は愕然とした。初恋相手は翔子だった。その事実が胸中を複雑にしていた。

「そういえば、なんの病気だった?」

 努めて明るく、勇作が尋ねた。

「私は小児糖尿病だった。二十歳まで助からないだろうって言われていて……」

 翔子は暗鬱な表情をした。

「ところで、翔子から奪った記憶って、どんな内容なんだ?」

 勇作が悪魔に聞いた。

「それは、蒼馬少年との思い出だよ」

「なるほど」

 勇作が納得した刹那、

「あ、翔子。どこに行くの?」

 美波が声をあげた。翔子が部屋を飛び出していった。

「蒼馬くん」

 美波は蒼馬に言う。

「翔子を追いかけて」

「え、僕が?」

「早く!」

「わ、わかった」

 蒼馬は慌てて部屋を出て行った。

「私はどうすればいいんだ。帰ってもいいか」

 悪魔が退散しようとしたので、

「待って」

 美波はストップをかけた。

「なんだ?」

「あなたには、まだ聞きたいことがあるの」


 一方、蒼馬と翔子はというと、

「翔子ちゃん、待って」

 駅近くのコンビニ前で追いついていた。

「私の事は、放っておいて。美波のとこにいなさいよ」

 翔子は涙を拭った。

「色々とその、胸中複雑だろうけど……」

「複雑なのは私ではなく、あなたの方でしょ」

 翔子は言葉とは裏腹に、再び泣き出しそうだった。

「うん。僕の初恋だったのは翔子ちゃんってことはわかったよ」

「でも、蒼馬は、私よりも美波が好きなんでしょ?」

「うん。ごめん……」

「やっぱり、お願いしなければよかった」

「え? なに?」

 蒼馬は困惑した。

「なんでもないわよ!」

 翔子は駆けだした。


 一方、美波と勇作と悪魔。

「なんだ、聞きたいことって?」

 悪魔ミノタウロスは腕を組み、美波を睨みつけた。

「翔子のお願いって、ひとつだけじゃないでしょ? もうひとつあったはず」

 美波が尋ねると、悪魔は笑った。

「よくわかったな」

「なんとなく」

 美波は普段よりも凛々しく見え、勇作は感服していた。いつもの天然ボケの美波とは別人のようだ。

「彼女の願いはこうだ。『友達の美波の喘息を治してくれ』ってな」

 悪魔の発言に美波は驚くことなく、

「やっぱり……」

 とつぶやいた。

「それで、その願いをきいたデメリットは?」

「お前の様子をみると、もう察しはついているんだろう?」

「質問に質問を返さないで、答えてよ」

 美波が屹然と言うと、

「やれやれ。気の強い女ばかりだな」

 悪魔は肩を竦めた。

「翔子が白馬の王子を求めていたから、その恋のライバルが現れるというデメリットをつけたんだよ」

「そのライバルって、私のことでしょ?」

 美波の指摘に悪魔は頷いた。

「ああ。ただし、ライバルはお前だけじゃない。白鳥蒼馬に五月女というフィアンセがいただろ。そいつも翔子のライバルだよ」

「そんなのいたな。すっかり忘れていた」

 勇作が苦笑した。

「ライバルという割には、あまり出てこないわ」

 美波は同意した。

「今は、そうだな」

 悪魔は不敵に笑った。

「これからは、どうなるかわからないぞ」


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