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5-急遽性別が変わった友人への対応とは

 優達は香奈を連れてショッピングモールのフードコートへとやってきた。四人でテーブルを囲むとそれぞれ好きな物を食べ始める。理人の隣には優が座っていて対面に愛華と香奈が並んでいた。


「優、お前……」


「あ、理人も食べて?それじゃ八分目も満たないでしょ」


 三段あるバーガーを既に食べ終えた理人と違い、優は両手に持ったハンバーガーをちまちまと食べている。今のバーガーだけでも彼女のお腹を満たすには十二分にあることが見て取れていた理人は、優の皿にある大盛ポテトを訝しげに見た。

 このままだと冷めちゃいそうだなと思っていると、理人の腹事情を知る優から案の定の答えが返ってきた。

 黙々と優の皿からポテトを摘まんでいると、斜め前から視線を感じて理人はそちらを向く。そこには困惑した顔の香奈がいた。


「どうした?」


「優が女の子になっても理人は動じないなって思っただけ。そんな距離感だったっけ?」


 理人から声を掛けられて我に返った香奈は、正直に目の前の状況についての本音を語った。

 よくある仲の良いカップルとかではなく、言葉なしでも通じ合っている動きが香奈の目には仲睦まじい夫婦のように見えて仕方ない。

 理人は優に視線を向けると、優はどうなの?と伺うように小首を傾げている。その仕草も可愛らしいなと理人は思いながら、今の自分と優の距離感を説明する。


「動揺はしてるぞ?結局のところ、特に考えず接すればいいやってなった」


「えぇ……。優はそれでいいの?」


「少しくすぐったいけど、僕としては嬉しい」


 理人の答えに香奈は納得していいのか悪いのか判断に迷う。普通は異性同士だと意識するものなのだが、二人にとっては違うようだ。

 香奈は深く考えるのをやめると、優の事を色々聞こうと口を開いた。その直前に、優が割り込むように話し始めた。

 優は最近あった事を話し始め、香奈はそれに相槌を打つ。そうしている内に話は高校生活の話になり、相談事を持ち掛けた。


「それでさ、香奈にお願いがあるんだけど……」


「優からのお願いなんて珍しいね。いいよー」


「えっと、内容を聞いてから決めてね?その―――」


 優は躊躇いながら頼みを口にする。その内容を聞いた香奈は目を丸くした後、笑顔を浮かべて承諾した。

 後で璃紗にもお願いするつもりだと告げ、なるべく迷惑は掛けないようにするからと優が言うと、香奈からはむしろもっと頼ってと言われた。

 その後、食事を終えた四人はモール内を見て回った。服は午前中に見たのでほどほどに、靴など買い替える必要があるものを中心に優に合うようなものを探した。

 買い物に付き合わされた理人と着せ替え人形をしていた優は、疲れた様子でベンチの背もたれに体重を預けて休んでいた。


「……疲れた」


「お疲れ。香奈のテンションが思ってた以上に高かったな」


 午前中に愛華があれもこれもと着せられていたが、香奈も加わって二人分の要求に憔悴していた。

 理人が知る中学の頃の香奈はとにかく活発で、女子同士でわいわい騒いでいる姿はよく目にしていた。だが、あの過剰なまでのスキンシップはしなかったはずだ。

 今の様子からすると、胸の内に衝動を秘めていたのか優の姿が琴線に触れたのだろう。初邂逅時に目を輝かせて飛びついていたのを思い出して、理人は小さく笑った。

 テンションの高い香奈は今、満足して愛華と一緒に何処かに行っている。

 しばらくの間二人は脱力してベンチの背もたれに体を預けていた。お互いを見る訳でもなく、自然体で他愛もない話をしていた。


「――そういえば、午前中に驚いてた時あったよね?」


「ん?ああ、優の頬に赤みがさしたように見えてな」


「えっ!?」


 優が思い出したのはどこかの服屋での出来事。理人がぼうっと見つめてきて、思わず顔を逸らしてしまった。あの時は恥ずかしくて顔が熱かったが、きっと気のせいだろうと思っていた。

 だが、理人が何とはなしに放った一言に、優は驚いて身体を跳ね起こして彼を見る。

 理人は飛び起きた優を見て自身も体を起こし、彼女の反応に笑みを零してその変わらない表情の顔に手を伸ばす。そのまま優の頬で遊び始めた。


「……ぁいひへう?」


「ん-?気のせいかもだから揉んでみようって思って」


 優の戸惑いの声を無視して、理人は無遠慮に指を動かして柔らかい頬を堪能する。むにむにと形を変える頬にちょっと楽しくなってる理人が遊んでいる間、優はくすぐったさと恥ずかしさをひたすらに耐えていた。

 やがて理人が満足して手を離すと、優の顔は目に見えて赤くなっていた。当の本人は気づいておらず、恨みがましい目で理人を睨んだ後、頬を押さえて再び背中を背もたれに預ける。

 理人はその様子を見てくすりと笑いながら、スマホをインカメラに設定して優に渡した。


「ほれ、見てみ」


 画面に映る自身の顔をじっと見つめた優は、すぐに理人にスマホを返した。見て分かるくらい赤くなった自分の姿が映し出されていたのを見て、言葉が出ず口を半開きにしたまま固まった。


「………」


「ここまで顔に出るのは中一以来だな。……ん?」


 新鮮な反応をする優を理人が観察していると、やがて処理が止まった優の身体から力が抜けた。

 ぽすっと理人の肩に軽い衝撃と共に優の頭が乗る。理人は何も言わずにそちらを向けば、彼女もまた何も言わずに頭を擦り付ける。

優から漏れ出る声に理人は内心どきりとするも動揺をおくびにも出さず、ただ黙って彼女の行動を受け入れた。

 こっそりと戻ってきた香奈と愛華が二人の様子を撮影していたのに気付くのは、それから五分後のことだった。


「……」


 二人が戻ってきて移動するも、理人の後ろにピッタリと追従するように優が歩いた。理人の裾を握りしめ、香奈と愛華から隠れるようにしている姿は小動物のよう。

 香奈はそんな優の姿に目を奪われている傍らで、優の表情が分かりやすく変わるのが見えた愛華は密かに驚いていた。


「優、大丈夫ー?」


 香奈は覗き込むように理人の横から優を見る。お前が追い込んだんだろ、と上から掛かる声を無視して彼女の様子を窺った。

 理人の予想通り、優が香奈と目を合わせた瞬間に頬を赤らめてそっぽを向いた。


「もうちょっと待って。こんなに感情が荒ぶるのは久しぶりで……」


 優が自身の変化に戸惑いの声を上げると、香奈は心配するように理人を見つめる。その視線に気付いた理人は大丈夫だと目配せして、優しく優の頭を叩く。

 数回の深呼吸をした優は、恐る恐るといった様子で理人の陰から出てきた。少しずつ調子を取り戻した優は、やがて普段通りに理人の隣を歩くようになった。

 その後も四人で服を見たり小物を見たりとショッピングモールを堪能し、満足した様子で帰宅することになった。


「僕、無意識のうちに理人に依存してるかも」


 香奈と別れて三人が駐車場に向かう途中、優は事もなげにをぼそりと呟く。思いもよらない一言に理人は驚いて優を見るも、当の本人は不思議そうに理人を見上げて首を傾げていた。

 理人とて優との距離感が以前よりも物理的に近めという事には薄々と感づいていた。彼女が細かな場面でスキンシップを求めていたののは間違いなかった。

 優が今それに気づいたのも、今日の失態を振り返って不自然だと思ったからだ。男の頃なら寄りかかるくらいはともかく、甘えるように擦り寄せるのはありえなかった。

 それが今では理人に無意識に甘えてしまっている。これはまずいのでは、と優はできるだけいつも通りに行動しようと心を入れ替えていた。


「優、何となく想像ついたから言うけどさ。……今の状態見てみ?」


 何か決心したような雰囲気の優に、理人は気まずそうに声を掛けた。そして、ある一点を指さす。

 その指先に釣られるようにして視線を向けた優は、すぐに顔を赤らめる。そこにはしっかりと理人の服の袖を掴んで離さない手があった。

 二人の前方を歩いていた愛華が振り返る。今のやり取りを密かに聞いていた彼女は、二人の間を見て微笑ましそうに口元に笑みを湛えていた。


「あ、私のことは気にせず続けて」


「――ッ!?」


 愛華のからかいに優は咄嗟に掴んでいた袖を離したが、行き場のない手が少しの間宙をさ迷う。やがて観念したように、おずおずと理人の袖を掴み直した。

 駐車場に着いても車に乗り込むまでその手を離すことはしなかったことを再び揶揄われて車内で悶える少女の姿があったとか。


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