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脱出

現れたミルはいつもと少し違うように見えた。なんだか少し透けているような気がする。

俺の目がおかしいのか。


「ローグ様良かった!見つけられた」


しかし、やはりミルのようだ。ホッとした表情で駆け寄ってきた姿はいつも通りのミルだった。


「ミル!どうやってここに?」


いつも通りの姿にホッとすると同時に冷たかったからだが少し暖かくなった気がした。


「えっと……色々ありまして……」


ミルは少し気まずそうな表情になりながらも説明し始めた。



**********


フェイ局長がミルの部屋に入ったその時、透明化の魔法がかかり切った時だった。ギリギリ間に合った。

初めてだったが上手く使えたようだ。


「ここにはいないみたいですね」

「そう、みたいですね……ミルは一体どこに?」

「……でも一度ここに来たみたいですね。最近、器具を使った跡があります」


ロストと局長は部屋を見回してそんな会話をしている。ミルはそれを部屋の隅で息を殺して見つめていた。

自分が透明になっていると分かっていても、緊張する。

二人の会話はそのまま続いている。どうやら二人はこのまま二手に別れて探すことにしたようだ。そのまま部屋を出ようとしていた。

見つからなくて良かったとホッとしたが、すぐにミルはそのまま二人について行く。


(危険だけど。逆にチャンスだ。ここで見失ったら後を付けられない)


それでも、危険な物は危険だ。慎重に動かないと。

姿は見えなくなったとはいえ、それ以外は消えた訳ではない。それにこの魔法を使うのは初めてだ、しかも最近まで忘れられていたような魔法だ。この後何か不測の状況が起こるかも分からない。


(でも、ローグ様を見つけるにはもうこの方法しかない……)


ミルは息をつめてゆっくりとついていく。

後をつけるのは思った以上に大変だった。まず見失わないようについていかないといけないが、あまり近づきすぎてはダメだ。触れでもしたらバレる。

そして厄介なのは二人以外の人間だ。

普通ならむこうから人が歩いてきたら、人は当然のように避けてくれる。でもミルは透明で見えない。しかし、ぶつかったら何かいるのがバレてしまう。それをよけながら見失わないようにするのは大変だった。

それにこのままフェイ局長がローグのところまで行くかどうかの保証もない。いずれは行くだろうが、透明化の薬がどれだけ続くか分からない。


(薬は一回分しか作れなかった……)


もし、薬が切れそうになったらその時は諦めようと思っていた。しかし、その後フェイ局長は一人になったかと思うと、人気のない裏庭の怪しげな場所に入って行き、さらについて行くとローグがいる部屋に辿り着いたのだ。


*********


「――という感じでここにきました」


話を聞いて俺はため息をつきたくなった。ミルが気まずい表情だったのも分かる。それはとても危険な方法だったからだ。


「……見つかったら、どうするつもりだったんだ」

「それは……あまり考えてませんでした。ただ、どうにかしないとって思って……」


ミルはもごもごと言い訳をした。ミルが優しい性格だという事を忘れていた。


「まあ、いい。それより早くここを出ないと。あの二人は……アレフは戴冠式で兄上を殺す気だ」

「ええ!そんな」

「だから早くここを出たいんだ。まずは手枷をはずさないと」

「そうですね。あ、そうだ服も見つけて……」


ミルはその時やっとローグがどんな恰好をしているか見た。


「あ……うわ!み、見るな」


ローグも自分の恰好を思い出して、慌ててベッドのシーツを巻きつける。


「ローグ様それ……」

「あいつらに着させられたんだ。好きで着ているわけじゃない」


ローグは嫌そうに顔をゆがめた。


「あ、で、でも良く似合って……」

「そんなの嬉しくない」


なんとかフォローしようとミルはそう言ったが俺は遮るように言った。


「す、すいません。と、取り敢えず手枷と足枷をどうにかしないと着替えられませんね」


ミルは慌てて謝り、話題を逸らした。きっと何かを察しているだろうが触れずにいてくれるようだ。


「手枷と足枷は鍵があればとれるんだが……」


ローグはそう言って腕を持ち上げる。手枷はとても分厚い鉄で出来ていて、そう簡単に取れそうにない。


「酷い、手首も傷だらけになってる……」

「これくらいならすぐ直る。そもそも、もっとひどい怪我をしたところで……」


そう言ったところで、突然ドアが開いた。


「やはり思った通りでしたね」

「っ!!フェイ局長!」


ドアから入ってきたのは局長だった。俺はミルの前に庇うように立つ。


「な、なんでバレて……」

「あなたの部屋で見た器具や薬草を見てね。私が透明化の薬を使っていたのはあなたも分かっていたでしょう」

「そ、その時に……」


ミルの部屋でフェイ局長には、透明化していることはバレていたようだ。


「そうです。それに、私の後をつけていたのも分かっていたので……」

「ど、どうしてバレて……」

「おや?知らなかったのですか?私の使役獣にはヘビもいるんです。ヘビは舌で熱を感知できるので、姿が見えないなんて意味もない事なんですよ」


そう言って局長が腕を上げると腕に絡まるようにヘビが出てきた。侍従長が言っていたヘビの事を思い出した。メイドが見たというヘビは本当にいたのだ。そして、隠し通路やこんな誰も知らなかった地下の部屋を知っていたのは、このヘビが見つけたのかもしれない。

局長はヘビの喉を撫でてさらに続ける。


「だから、この機会にあなたをおびき出して二人纏めて始末してしまおうと思ったんです」


局長はこのために持ってきたのだろう剣を取り出して言った。


「そんな……」


どうやらミルは泳がされていたようだ。


「私の計画にあなたという不確定要素は必要ないんです。早いうちに片づけておかないと」

「やめろ。っぐ!」


恐怖に固まっていたミルをローグが引き寄せ庇う。ローグの腕に酷い切り傷が出来た。


「ロ、ローグ様!」

「ミル!隠れていろ。……出来れば、隙をみて逃げろ」


ここを出るのが目的だったがそんな事を言ってられなくなった。取り敢えずミルが生きていればどうにかなる。そこにかけるしかない。

幸いな事に局長はミルがローグを使役しているとは知らない。


「でも……」

「どうにかして兄上にこの場所を知らせてくれ。っく……」


ローグは痛そうに顔を歪める。いくら死なないとはいえ痛みがないわけではない。


「ローグ様。それより少し時間をください」

「何をごちゃごちゃ話している!」


局長がそう言ってまた剣を振り上げる。


「っぐ!止めろ!」


ローグはそう言って鎖を使って剣を防ぐ。鎖は太く丈夫なので切れることはなかったが防ぐ事は出来た。

おかげで少し時間を稼ぐこともできた。


「えい!」


ミルはその時間を使って何かの薬が入った瓶を局長に投げつけた。


「っ、な、なんだ!」


局長は怯んだ。その隙にミルは短い呪文を唱えた。その途端局長の目の前で爆発が起きた。

爆発は小さなものだが人一人を吹き飛ばすには十分だった。

そんなに広くない部屋で爆発したので、局長は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

しかし、威力が大きかったのか俺達も同じように吹き飛ばされてしまった。


「っぐ!」


咄嗟にミルを抱きしめて庇う。幸いにもフェイ局長よりも遠かったからか、吹き飛ばされた程度ですんだ。


「な、なんとかなった……」


ミルは自分でも驚いたように言った。

「凄いじゃないかミル。よくやった」

「ありがとうございます。使うのに少し時間がかかるので、作っても意味がないかと思ったんですけど……。ってそんな事してる場合じゃないですね。局長を動けないようにしておかないと」


フェイ局長はピクリとも動かない。でも息はある、局長はどうやら気を失っているだけのようだ。よく見ると壁には穴が開いている。死ななかったのは運がよかったのかもしれない。


「殺してしまってもいいが、兄上に引き渡して罪を償ってもらおう。どちらにしても時間もないしな」


そう言ってローグも手伝う。城では戴冠式がおこなわれているはずだ。早く行かないと、第一王子が危ない。


「っくそ……手枷の鍵は持ってないか」


この服を着替えさせられた時少し枷を外したがその時、鍵はアレフが持っていた。鍵はアレフしか持っていないようだ。その時も舐めまわすように見られて最悪だったのを同時に思い出した。


「こいつもしばらくは大丈夫だが時間の問題だ。だからといっていまから鍵を取り返して戻ってくるなんて時間がかかりすぎる」


そう言ったところでローグは何かを思い付いたように黙った。


「どうかしたんですか?」

「ちょっと、乱暴だがこれを外す方法を思いつた」

「本当ですか?」

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