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今後の計画をたてる

「なんですか?」


ローグが少し言いよどむので、ミルは首を傾げて聞いた。ローグは言いにくそうに続ける。


「ミルの協力が必要なんだ。巻き込んでしまったのに、図々しいとは思うが……」

「そ、そんなことありません!勿論手伝いますよ。ローグ様に使役の魔法をかけてしまったこともありますし、無関係ではいられませんよ」


ミルは慌てて言った。当然のようにミルは協力するつもりだったし、なにもしないなんてあり得なかった。むしろローグが申し訳なさそうにする事が意外だ。

ローグの立場であれば、ミルにいくらでも命令できる立場で、ミルは断ることも出来ない。

それなのに律儀に聞いてくれるなんて思ってもみなかった。


「そうか、ありがとう」


ローグはホッとしたように微笑んだ。ミルはその笑顔にまた顔が赤くなる。普通に微笑んだ顔は、心臓に悪いくらい綺麗だった。

噂でしか第二王子のことは知らなかったが、こんな優しい方だとは思わなかった。


「い、いえ……」

「どうした?大丈夫か?また顔が赤いぞ、魔法薬を作って疲れたんじゃ……少し休むか?」

「い、いえ!大丈夫です!それより。具体的にはなにをすれば……」


またもや心配そうに近づかれて、顔が真っ赤になる。ミルはなんとか話を戻す。


「ああ、とは言え。そんなに具体的には決めてないんだが……まず問題を整理しよう」


ローグはそう言って考え込みながらも続ける。


「一つは、俺が王を殺したという疑いを晴らすこと。誰かに猫にされて殺されそうになったこと。それから、使役されてしまった事か……」


問題は三つしかないが、どれも重大過ぎて解決できる気がしない。


「取り敢えず、使役されてしまったことはひとまず置いておこう。バレたら最悪だし、すぐに問題になるようなこともないだろう……あの、無いと思うが。ミル、変な命令とか無茶な事を命令したりしないでくれよ?」


言っていて少し不安になったのかローグがそう言った。


「も、勿論です!そもそも、今回初めて使役術が使えたんですよ。使い慣れてないし、使い方も知識として知っているだけです」


ミルは慌てて言った。


「わ、わかった。疑っているわけではないんだ」

「いえ、心配されるのは当然です。だからこそ、この魔法は禁忌なんですから」


ミルはそう言って表情を暗くさせた。ローグは改めてミルが人間を使役した事で気を失うほど驚いたのか分かった気がする。なんのリスクもなく人に命令して何でもさせる事ができるのだ。

もし、地位が高く権力のある人間が悪意あってこの魔法をかけられてしまったらと思うと悪夢だ。


「わかった。取り敢えず使役に関しては後回しにするとして……問題は、ミルに協力して貰うにしても、限界があるってところか」


ミルは魔法使いだが王都からも離れた場所に住んでいる無名の魔法使いだ。出来ることも限られている。


「そうですね……私に出来ることは魔法薬を作ることぐらいです」


ミルはしゅんとしながら言った。そもそも、自分で自分の世話をするので精一杯な生活をしていた。 


「取り敢えずこの状況をどうにかできる人に話して、協力してもらうしかない」

「そうですね」

「やはり兄上にこの状況を知らせるのが、一番最善だと思う」

「第一王子ですか……でも、一時的にしか人間になれないですよ」


ミルは頷いたが、心配そうに言った。第一王子はローグの兄だし、この国で一番の権力者だ。頼るにはこれ以上の人はいないだろう。

でも、ローグが王を殺したと疑いをかけられている以上、下手に姿を現すのは危険だ。


「それは分かっている。他の人間に見つかるのは不味い。でも、どうにかして城に忍びこめばどうにかなると思う」

「え?お城に?」

「ああ、俺は城の中の事は詳しいから、そうすれば兄上のところまで行くのは簡単だ」

「入れれば……」

「そう、……まあその入るのが一番難しいんだが……」


ローグは困った顔で言った。

王城は堅牢な壁で囲まれている。もしも戦争があっても、内部を守れるようになっているのだ。

勿論ミルのような平民がそう簡単に入れる場所じゃない。

そもそも、王都に住んでいても死ぬまでお城に入れないこともある。

しかも、今は王が殺されたのだ。きっと警備はさらに固くなっているだろう。


「そうですよね……」


ミルにとってはそんな事考えたこともなかったので、どうすればいいかなんて見当もつかなかった。


「それで、相談なんだが。今、王都がどういう状況なのか見に行きたいんだが」

「え?でも、流石に目立つのでは?」

「勿論、この姿じゃない。猫の姿で行きたい。ミルと一緒なら俺は使い魔にしか見えないだろう」

「あ、なるほど。それなら王都ではなんとかなりそうですね」

「ただ、ミルには負担をかけることになるとは思うが……」

「え?そんな事ないですよ」

「でも、さっき追加注文が入ってただろ?それに王都まで行くのに、そこそこ時間もお金もかかるだろう」

「追加……ああ!そうだ忘れてました」


ジョージが来たのは商品の追加のためだった。その後に聞いた衝撃的な内容の所為で忘れていた。


「兄上には早めに伝えたいが、あまり焦っても仕方がない。まずミルの生活を維持したほうがいい。変に行動を変えると怪しまれることもあるだろうし」

「怪しまれるって?私の事なんか誰も気にしてないと思いますが……」

「まあ、警戒しすぎなのかもしれないが、俺を猫にした奴が探しているかもしれないんだ」

「あ、そうかその問題もありましたね。……そう言えば猫にされてしまった時の事を聞いていませんでした。具体的には何があったんですか?」


人間に戻って色々喋ったが、伝えることが多すぎてまだその事は言えてなかった。


「ああ、そうかその時のことも話した方がいいな」


ローグはそう言って猫にされてしまった時の事をミルに伝えた。


「……とまあ、こんな感じだ。兵の中に手引きをした奴がいたようだ。そいつが黒幕かその仲間だろうな。流石に一人でこんな事は出来ないだろうし……」


ローグは考えを纏めながら言った。


「じゃあ、お城の中にもローグ様を殺そうとしている人がいるってことですか?」

「おそらくそうだろうな。それもあって、こっそり城に忍びこみたいんだ」

「なるほど……あ!」


考えながらそう答えたミルが、突然何かを思い出したように言った。


「どうした?」


突然の大声にちょっとびっくりしながらローグが聞いた。


「す、すいません。今思い出したんですけど、家の近くで何かを探していた怪しげな男がいたんです!」

「何!」


ミルは急いで、その時の事を話す。


「村に行った時もそんな男がいたって聞いていたし……まさかと思ったんですけど。その男がローグ様を?」


話を聞いたローグは考えながらも頷きながら言った。


「おそらく……可能性は高い」

「!そ、そんな……」


ミルは顔をこわばらせる。あの男を見た時は何とも思わなかったが、そんな危険な人間とニアミスしていたなんて恐ろしい。


「取り敢えず、何もなくてよかった。おそらく向こうは俺が怪我をしていると思っているだろうし、死んだと思っているかもしれない。しばらくは大丈夫だろう……しかし、やはり変な動きはしないでいた方がいいだろう」

「そうですね。気を付けます」


ミルは気を引き締めて言った。何かあってもミルだけではどうにもならない、解決するためにも王子がここにいることは隠さないと。


「えっと……それから。申し訳ないが人間になる薬を予備にもう少し作ってくれないか?こんな頼んでばかりで悪いが……」

「え?勿論ですよ。もっと言ってもらってもいいくらいです」


王族なのに、優しく腰の低いローグにミルは恐縮する。


「それにしても、ミルの魔法の技術と知識は凄いな、こんなに優秀だとは思わなかった」

「え?そんなに意外でしたか?」

「ああ、実は村に来た時少し、噂を聞いていて。この近くにいる魔法使いは……その……」

「落ちこぼれ、ですか?」


ミルは言いにくそうなローグの言葉を引き継ぐように言った。ローグは気まずい顔をする。


「あ……いや、そんなことは……」

「いえ、本当のことですから大丈夫ですよ。それに、今薬を作れているのはほとんど殿下のおかげですから」

「うん?俺が?」

「ええ、皮肉な話なんですが、私はずっと使役獣がいませんでした。魔法使いは使役獣を持つことで魔力を安定させて魔法を使うんです。それが私には今までなかったので、薬も苦労して低レベルの魔法薬しか作れなかったんです。知識はそれをなんとか補完しようとして身につけたものです」


ミルは魔法学校の事を思い出す。魔法の実習がほとんどできなかったので、それを埋め合わせするためには座学をするしかなかった。

かなりがんばったが、それでも卒業するのがやっとだったのだ。


「……それは確かに皮肉だな。ミルが使役をしてくれなかったら死んでいたし、使役したから魔法が使えるようになった。でもその使役は最大の禁忌だったということか」


改めて並べると本当に皮肉だ。


それからミルたちは今後の事を具体的に話し合った。時間が経つとまたローグは猫に戻ってしまうからだ。

ローグが猫に戻ったころ、外はいつの間にか暗くなっていた。

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