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7話

「なるほどね。すると今までも含めて、ナビゲートに表示されている文字や情報は、見えていなかっただけで、このルノースが記載し管理してくれていたってことか」


「そうだよ、私を敬うと良い。あなたの行動の全てを私は見ているのだ」


 ゲーム的には旅の友、ナビ妖精。メタ視点では専属AIだな。

 専属AIの存在はスカスカな情報雑誌系サイトにも詳細に書かれていたのを覚えている。まさかそれがプレイヤーに話しかけてくるとは思わなかったけど。

 なんでも、どのような悪事も善事も咎めないが、その行動を逐次学習し、そして運営に報告する。どうやら規約違反行為も細かく監視していていて、そのたびに警告もしてくれるし、度が超すようなら、妖精の情報を元にアカウントを停止する。

 まあ、作者が自慢したくなるのも分かる。良くできているようで、コストがかかりすぎたシステムだ。

 これだけの技術力がある、デザイア・アンリミットだからこそ出来る事だろう。


「ちなみに、私を召喚したことでジャーナルの項目が解放されるよ。ジャーナルにはこれまでに遭遇した敵の情報。町や地名、人に、アイテムの詳細まで記録されていくよ。より詳しいことが知りたかったら、人から話を聞いたり、アイテムを使って詳しく調べてね」


 やりこみや収集要素と思いきや、前作であるリミットブレイクでは、コレがなかなか重宝した。前作ではフレーバーの設定がないもっと無機質な辞典だったけれど。何せ、プレイヤーの全ては競争相手。些細な情報1つにしてもリアルマネーで値段がついたほどだ。もちろん噂話や、中には賞金目当てじゃないお人好しが質問に答えるコーナーなんかもあったが、そのほとんどは初心者に古い知識をふっかけるバカを予防するためのものである。


「それは便利だねえ、物事を忘れたりしなさそうだし。それ、他のプレイヤーから買えるんだよね」


「当然」


 それは良い。ゲーム内で取引が完結すれば、リアルマネートレードの阻止、ゲームの健全化につながる。大企業が、金にものを言わせて、賞金と話題を総取りにしても全然面白くないないものな。


「ちなみにウソゴトさんに、召喚(コール)の方法を教えてあげるとかも出来るのかな」


「え、良いんですか。グラスさん」


 てっきり二人分の妖精が手に入るものだと思っていたけれど上手くいかなかったのだだから。

 ときは遡り、魔女の館。


「君にも妖精を無理だね。まずは召喚(コール)を覚えてくるといい。」


 どうやら、なにかウソゴトさんの中で、壊れてしまったらしい。

 猿叫さながらの、奇声が鳴り響き。今度こそR18指定を受けるところだった。


「キエエエエエエエエ」

 

「無理、無理。無理なものは無理だって。やめて、器用に首を絞めないで新たな扉が開いちゃうだるるるるる」


「それぐらいにしておけー、ウソゴトー。なんか良くない生き物を産んでしまう感じがする」


「でもグラスさん、この融通が利かない女が悪いんです。いいじゃないですか多少順番が変わるぐらい」


「その順番が重要なんだってぇ。まずは武器の召喚を学ぶ。そして自分の妖精を呼び出す。コレばっかりは順番通りじゃなきゃ出来ないようになっているんだよ。だいたい、大した勉強も無しに魔術を使ってのける君たちが異常なんだ、それを更に手順を端折ろうだなんて。召喚(コール)を覚えたらまたおいで~」


 ということがあったのである。

 一先ず脱出し、新鮮な空気を吸い込んだところで、先ほどの話に戻る。

 アレはフラグが立っていないという奴だったのだろうか?今に思うと、けどこんなフリーシナリオも良いところのゲームでそんな事があるものかとも。まあ、そう設定されているものは仕方がない。

 現実にだって手順を省略できないものは沢山ある。妖精召喚許可証の発行には武具召喚許可証が必要で、そのためには魔法の使用実績が2年必要とか言われないだけよしとしようじゃないか。

 あと付き合わせて、ごめんねウソゴト。情報料だと思ってゆるして。

 そんなこともあって、なおさら贖罪のためにウソゴトさんも召喚(コール)が出来るようにしたいところだった。

 それくらいの保証はあってしかるべき。ここまで付き合ってくれたサービス料としてお代も要らない。ゲームの肝に触れないのはしらけるってものだ。どうせなら、1本目の装備枠は初期で開放しておくべきだと思っているぐらいだぜ。


「うーんそれは難しいかなあ。何事にも順番があるからさ。やめて、子供と大人どころか、虫と人ぐらいの体格差があるのよ、首というか何か出ちゃう。中身が」


 先ほどのリフレインかな。

 キラリと輝いた良い笑顔から転落して、ダークサイドに即落ち2コマのウソゴトさんがルノーズに掴みかかる。ブンブンと振り回して、放っておいたらバターか何かが出来上がりそうだ。

 妖精もダメージを受けるのだろうか。絵面は実に愉快なのだけれど、あまり俺の妖精をいじめ殺さないでおくれ。

 でもそうか。教えるのは無理か。

 出来れば今すぐに腰のピックアックスを召喚できるようにしてあげたかったのだけれど。そうすれば少し戻るだけで彼女の妖精も手に入れることが出来るだろうに。

 今度は一体何が必要だって言うんだい。

 

「ジャーナルに召喚(コール)の項目を追加するだけなら出来るけど、そういうことがしたいわけじゃないでしょう。やめておいた方がいいよ。どうせ上手くいかないし。


「言っておくけど武器の問題じゃないよ。例えばグラスが今持っているフィンの剣をウソゴトちゃんにあげたとしても、もう一つの武器を貸し出したとしても、それじゃ召喚は出来ない。ウソゴトも、グラスも、それをまだ知らないから私も知らないけど、使えるようになる詳細の条件も教えられないわ。だって知らないもの」


 俺が知らないことは、ルノースも知らないってか。


「けどグラスは心当たりがあるんじゃない。大丈夫、上達すればすぐに使えるようになるからさ。ともかく、すぐには召喚(コール)は使えないんだよ」


 どういうことだってばよ。


「そもそもウソゴトちゃんの装備スロットはまだ解放されていないんだよ」


 ルノースが指で作った片眼鏡でウソゴトさんを観察する。

 

「そうなのか、装備スロットと召喚(コール)派てっきり同時に使えるようになるものだと」


 俺はそんな感じだったし。

 

「いいえ、全然違います。てっきりこのゲームではインベントリから取り出した武器を腰に吊しておくものかと。なのでグラスさんが引きを持っていたかったのを不思議に思っていたんです。」


 おもむろにフィンの剣を召喚し、それをウソゴトに真似させてみせるが。本当に出来ないようだった。俺は剣を握った瞬間に、知識が流れ込んできて理解できたというのに。

 

「まあ雑に言えば、経験と才能の差ってやつだよ。既にVRゲームになれている人には簡単にできることでも、初心者は全然ダメ~みたいな事もあるでしょ。その人に合わせて序盤の進行状況は調整しているのです。グラスさん的に言うなら、私たち妖精はチュートリアルを担当されているので」


 ふーん。


「それにウソゴトさんには、枷を設定してますからねー。妖精も慎重に判断しているはずですよ~。その点グラスさんは全然手加減の必要が無くて楽でした」

 

 枷って。囚人じゃあるまいし。地下牢からやって来たウソゴトちゃんも、手枷ファッションをしている様子は無い。

 何の事だろうか。システム設定?そんな選択はなかったはずだけど。思い当たるところがあるとすれば。


「そういえば、ウソゴトさんってゲームモード何にしたの」


「え、ノーマルですけど」


 現状の選択肢の中では、唯一ゲーム的に制限がある設定だものな。おそらく枷ってのはプロフェッショナル以外にあるサポート機能のことだろう。ゲーム内の説明だけではあまり詳しくはなかったけれど。確か主な内容はいつも通り、攻撃や防御を簡単にできるようにするものだったはずだ。


「ウソゴトも、ゲームモードの違いはちゃんと分かってるんだろう」


「はい。それぐらい分かってますよ。コレでもゲーマーなんですよ。大会で賞金を取れちゃうようなグラスさんには全然及びませんが」


「小さい大会ばっかだけどな」

 

 プロフェッショナルモードでは、かなりのテクニックを戦闘で求められる。盾を使う角度から、剣を振る速度、力、動き、体勢、それらを加味した、いわば物理エンジンのようなシステムをベースにダメージなどを算出している。より複雑で、繊細なゲーム体験が保証されている。

 一方、ノーマルモードは簡単にプレイすることが出来る。片手で振り回した剣も、全身の重さを乗せた剣も当たり方が同じなら等しいダメージだ。別にノーマルモードが悪いわけじゃない。実際、リアル志向のゲームタイトル以外、ほとんどのゲームはこのノーマルモードに近い操作感で製作されている。デザイアのように操作感が高級なゲームも、ノーマルモードのように遊びやすいシステムを別で用意してあるのが大抵だ。

 まあ、こう言っては何だが、初心者には俺も初めはノーマルモードでプレイすることをおすすめするだろう。ノーマルモードぐらいが普通に遊ぶには丁度良い。ノーマルモードは補助輪なんて小馬鹿にされたりするけれど、プロフェッショナルモードも良いところだけではない。

 ノーマルモードでは極端な話、剣を振って敵に当てさえすれば、ちゃんと攻撃できる。剣に重さが設定されているから、剣がすっぽ抜けたりして、ちゃんと振るのにコツはいる。けれど、重心、刃の向き、速度、他にも色々あるらしいが、それらがぐちゃぐちゃでも、全て均一にチャンバラごっこが出来るようになっている。逆に言えば、それらが整っていなければ、プロフェッショナルモードではスライムも斬る事が出来ない訳だ

 もちろん、なるべくプロフェッショナルモードでプレイ出来る方が良い。ノーマルモードじゃ、テイマーの狼相手にやったような、ゲームのシステムを悪用した剣で敵を投げて転ばせるみたいな、裏技は使えない。敵の攻撃を盾や武器で受け流したり。あるいは一撃の威力を上げるために頭の上で大きく振りかぶったり。物理演算を悪用して、その振りかぶったエネルギーを2振り目に流してみたり。その些細な違いの積み重ねが、勝敗を分けることもある。

 つまるところ、ノーマルモードすらも難しいと感じる人も一定数存在するし。ノーマルモードが温かったり悪いということはない、ただプロになるほどの人間は自然とプロフェッショナルモードでもプレイできる。ただそれだけの話だった。

 枷。

 用意された、補助輪は世界の解像度を下げる。ある意味においては枷そのものだ。

 

「別に大会とかを目指すわけでもないし、ノーマルだよな。それじゃあ、俺たちもひと狩り行こうぜ。俺が対MOBの戦い方を教えてやるよ」


「そうですね。私もバッタバッタと、ゴブリンやスライムをなぎ倒して見せます」

 

 ルノースが俺たちの前に飛び出して待ったをかける。

 

「盛り上がっている所悪いけど、グラスがチュートリアル関係を早く済ませたいのなら丁度良い場所があるよ。戦士訓練場さ」


「「戦士訓練場?」」

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