1話
「グラシブさんどうも」
「こんにちは~。ウソゴトさんどうしたの?個人vcなんて珍しい」
「いやたいしたことじゃないんですけど、今度の文明特異点のオフ会グラシブさんも来るのかなって」
久々にインしたゲームタイトル、文明特異点。フレンドチャットで急に連絡が来て、ゲーム内で話したいと彼女に呼び出されたときは、一瞬どこのゲームの誰かと悩む所だったが、どうやらオフ会のお誘いらしい。
【嘘言枯木】
昔は、アジアのゲーム以外では日本語の名前が使えず、なんちゃって英語ネームのみがゲームで使用することが出来た。今でも、シューター系のプロゲーマーはその流れで英字の名前が多かったりする。
今では世界的に言語システムが、日本語というか、2bit文字に対応しているのは良いのだけれど、タイトルまで中国の怪しいインディーゲームみたいになってしまったこのゲーム。その1つがこの文明特異点だった。最近ではデフォルトネームが漢字が大丈夫な海外ゲームも増えてきて、香る名前もアジア製MMOの全盛期みたいに増えてきた感じがするのだ。
彼女の嘘言枯木なんてユーザーネームも何というか若い感じがして良い名前だ。うん、良い名前だ。
なれれば、そこまで違和感もないし。
本名よりは、あからさまなユーザーネームの方が気を遣わなくて済むというものだろう。
「オフ会っていつだっけ。まあ家からタクシー使わないで行けるところなら行くけれど。呼ばれてもいないのに行ってもね。そもそも最近オフ会行っていないし、俺が行ったらしらけない、俺このゲーム下手くそだしさ」
「グラシブさんが下手なのは事実ですけど、そんな事ないです。皆歓迎してくれますよ。3日後にいつもの所なので、絶対来てください」
絶対、幽霊クラブメンバーなんかが来ても、しらけると思うけれど。後さりげなく下手って言うな、ちょっと傷つくでしょうが。
「まあ、分かったよ。他ゲーに行っていたせいで知らなかったのに、わざわざ知らせてくれてありがとう。面倒だったでしょ」
わざわざ、たいして真剣でもない男の連絡役にされるとは。可愛そうに。
「多分グラシブさんが思っているような感じじゃないですよ。最近、遊んで貰っているんで、私が会ってみたかったんです。大体聞きましたよ。また結果を残してきたんでしょう、私グラシブさんのファンなんです」
ええー絶対嘘だあ。君誰にでもそんな感じじゃない、何なら初対面の野良メンバーの
「その日なら行けそうかな。行ってみるよ。」
「誘っておいては何ですが。本当ですか」
「別にお金を食費以外に取りはしませんけれど、このゲームを練習したってお金にはなりませんよ」
「良いって。初めから賞金を期待してやっているゲームじゃないし。なんとなく好きだから息抜きでプレイしているんだよ。このゲームは。」
それに俺は、プロじゃない。1つのタイトルに集中して。ワールドタイトルを賞金を狙っうような熱は俺にはない。楽に勝てそうな少額賞金の大会を荒らして生活費を稼ぐろくでなしなのだから。
「お、マッチした」
このゲーム、文明特異点は、ストラテジーにアクションを足すという暴挙に出た、異端の作品である。ゲームとしての出来は良いのに、アクション好きには小難しすぎて、ストラテジー好きには認められない。
好きな人は好きなマイナーゲームから、いつクソゲーに転落するかと、明日のプレイ人口にドキドキするような出来である。
「相手チーム、フルパかな。なかなか強そうですよ。絶対にこちらのチームと実力が乖離しています。スキルマッチシステムバグってるんじゃないですか」
「クイックマッチだからどうとでもなるよ。俺が適当に狩るから」
クイックマッチはこのゲームのアクション要素を重点的に抽出したようなゲームモードで、数日から半日は時間がかかるメインモードと違い現実時間で4分程度で遊べるように出来ている。
つまり、内部時間で40分程度であり。連続して集中して遊べるギリギリを攻めている。メインモードがストラテジーらしく、大半を緩く雑談交じりにプレイできるのと比べると、クイックマッチはとても激しく忙しい。
「ゆるい感じはゆるい感じで好きなんだけどね」
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「あいつらマジキモいんだけど」
「リスポして一言目がそれですか。知能指数を日焼けサロンで溶かしてきたJKですか」
だってあいつら、ハエみたいに飛び回っているんだもの。クソゲーだよクソゲー、空の芋砂軍団だよ。
「グラシブさんグラシブさん。それ、仕様って言うんですよ」
そんな仕様にした運営が悪い。
「で、結局押されてるじゃないですか。どうするんですかコレ」
このゲームにプレイ時間なんかに応じたキャラ差は存在しない。同じ性能のユニットを扱ってそれを回復型、攻城型、遠距離型、走力型、近接型、飛行型のいずれかにマッチ内で成長させる。そうしてユニットを使いエリアの取り合いをするのだが。
「いやー、きついっす。バリバリ近接走力特化ビルドで、飛行艦隊には勝てないって。無理無理」
「大体、なんで敵に飛行艦隊組まれるだけ経験値稼がれてるんですか。飛行ユニットなんて、相当経験値稼がないと出てこないですよ、こっちはまだ馬の戦車でボウガン撃ってるんですよ。ダヴィンチヘリ通り越して、ジェットパック飛んでるんですけど」
初めは良かったのだ。
相手の構成は全員投石兵の弾幕特化型で、実際、低レート帯の弱いチームなら、それだけで完封できただろう。良い作戦だが俺には通じない。
基本的にこのゲームは、バランス良くそれぞれ役職を分担した方が強いのだ。何かに特化したチーム構成は、ザコ狩りには特化していても実力が上の相手が一人居れば瓦解する。
俺が相手が走力特化で相手の懐に潜り込めば、後は紙装甲のノーコンピッチャーを、バラバラ連続殺人事件にすれば良い。
敵チームをボコボコに打ちのめして、俺のキルスコアはぶっちぎりでトップなのだが。まあ、それが気持ちよすぎて自分チームに経験値を渡さず刈り尽くしていたら、いつの間にかに飛行分隊ができあがっていたというか。
「こっちがその、特化型になってどうするんですか。しかも相手が突出したチームなのに対して、こっちは突出した個人になってますし。敵に乗せられないでください、めちゃくちゃですよ。どうやったらこんなスコアボードになるんですか。本当に戦闘以外は下手ですね~。さすがのグラシブさんも、攻撃が届かなければ置物ということですなあ」
「言うじゃないの、ウソゴトさんよ。良いだろう、ちょっと待ってろって。全部たたき落としてやるから」
「いやいや、おとなしく城守っててくださいよ。室内に入ってきた相手には剣が当たるんですから」
それじゃあ試合終盤まで座ってまっていなきゃいけないでしょうが。そんな面倒なことが出来るか。そして何より暇でつまらない。
大事に素材を集めて作った、長剣二刀を売却する。
そうしてたまったクレジットで、弓を購入した。ステータスは弓向きに育てていないが、これはコレでいくらでもやりようがある。
無駄にサイバーパンクな宇宙服を着た一団が空を漂っている。それが今回の敵の全容だった。
「しかし、ぬるい敵だったな。あの二刀流は強かったけど、あんまり上手くなかったし。後は女が一人上手いのがいただけでザコザコ」
「イージーゲームも偶には良いじゃんか。このゲームただでさえ長ったらしくて爽快感とか皆無だし」
「そういうのがやりたいなら別ゲーやればー。そういえば、そろそろアレが出るッ」
矢が2本顔面を貫いて墜落する。
「上一体、殺った」
「クソ。散開ィ、散開ィ」
続けて弓を当てるが。さすがにさっきみたいにヘッド二発で殺すのは簡単にはできない。アレは雑談に集中してこちらを全く見ていなかったからだ。
単調だった動きも、今は複雑に空を縦横無尽に動き回っている。
奴ら本当に全員飛行型にしているらしい。一体落としたから残り5人だが、すぐに立て直すだろう。大弓の構えを解いたところで奴らはこちらに向かってくる。
奴らの装備は短身のフリントロックを4本束ねたような見た目の武器で、遠距離から一方的に制圧出来るほどの威力はない。
近接型ステータスを活かして、こちらは相手の射程外へと走って逃げ続ける。
「追えぇ。絶対に敵陣に返すな」
「よっと。飛行型はもう少し武装の時代が進まないと、足遅いだろ。短銃系の武装はただの的だぜ」
『飛んでいるのに足が遅いとはこれいかに、って感じですけどねー。羽が遅い。いや、羽もついていないけど』
うるさいな。そっちはちゃんと準備できてるんでしょうね。
「はいはい。大丈夫ですよー」
メインモードでは、ノンプレイヤーユニット、ミニオンがプレイヤーについて回る。そのため飛行型遠距離ユニットには面制圧力があるが、それはクイックマッチにはない。クイックマッチではでは近接殺しと上空から城攻めが出来るという利点はあるものの、本来は6人全員で使うユニットではないのだ。当然弱点もある。
「クソが。銃は絶対に間に合わないはずだったのに。反則だろその弓。まさかチーターか」
「まさか。元シューター畑の人間を舐めて貰っちゃ困りますね。偏差射撃も、風速とかにこだわり始めちゃったリアル志向クソゲーも乗り越えてきた我々に、死角はない。色物武器もお手の物よ」
武器の売却によって得られるクレジットで、他の派生の武器を購入することが出来る。今回は長剣二本を売却して遠距離武装を入手しなければならなかった。だが交換レートの関係上、普通に装備を強化していった場合よりも弱い装備しか購入できない。そこで選んだのがこの機械弓だった。
機械弓はその弾道落下と射撃レートの低さから、かなり扱いにくい。だが比較的安価に購入することが出来る優秀な武器だ。
ほとんどの武器が非常に簡単、ゲーム側の補助でたとえ初心者でも戦っている風に動ける文明特異点では異端の武器と言っても良いだろう。
最大の特徴はその射程で地面にさえ落ちなければ無限にダメージの判定がある。一方、銃器系の武器種は設定された距離を超えると急激に勢いを失う。そして射程範囲外でもし命中しても1点程度の最低ダメージしか相手に与えることは出来ない。
その射程の差のアドバンテージが、俺を有利たらしめていた。
もちろん、簡単とは言え戦闘テクニックによって差は出てくる。とてもじゃないが彼らの射撃のテクニックも、近接戦闘も、俺に通用する土俵に立っていなかった。
まあ、そういうフィジカルの強さを作戦でひっくり返せるのが、このゲームの良いところなんだけどね。実際一度はそれでボコボコにされたし。
「見たかい、ウソゴトさんや。俺だってやれば出来るんだぞ」
『よく、そんな超遠くからあたりますよね。ぶっちゃけ無駄ですけど。本来であれば、遠距離ユニットを育てたプレイヤーに任せれば良いんですよ。何故か今回はぁ、グラシブさん以外にまともに経験値を稼いでいるユニットは居ないですけど』
「そりゃすみませんね」
なおこの機械弓にも弱点はある。それは強化の上限値が低いことだ。この後解放される、パワードスーツなどの装甲がある装備やユニットにはダメージを与えることが出来ない。 もし冷静に拠点防衛に集中されたら。一人でも防衛特化のキャラクターが居たらこの会敵での勝利は難しかっただろう。
「何を勝ったつもりになってんだ。お前を倒せばこっちはそっちの城を完全に制圧出来る」
「そりゃ無理だね。お前らじゃ俺にもウソゴトさんにも勝てない」
ムキにならず、普通の構成で戦えば良い勝負になったかもしれないが。
もう、手遅れだ。
「不味い、こっちの城の中に入られてる」
「何」
「急いで引き返せ」
今頃奴らの脳内には、侵入者感知のアラートが鳴り響いていることだろう。
背中を向けた敵を一人ずつ始末していく。こちらの体力も残り少ないが、攻撃が来ないと分かっているなら、当然打ち落とす。
「そっちはあと何秒で制圧完了する」
『後60秒なんで、相手のリスポーン間に合わないですね。全員キルして良いですよ』
「OK~」
ウソゴトさんには、チームメンバーに話をつけて貰い、その全員を隠密型走力ユニットに転職して貰った。
隠密型ユニットとは読んで字の通り、相手の拠点に忍び込んだり、相手の陣地の情報を奪い、時には背後から奇襲するための能力が備えられているユニットである。今回は相手チームをくぐり抜けて、相手本陣を占領して貰った。通常なら紙装甲で相手陣地に潜り込もうものならすぐに撃退されるが、相手チームには防衛用ユニットが居ない。
防御はゴミでも、それなりに攻撃力があるのが、隠密型走力ユニットの本領。それも味方全員の総力をもって、最速で占領は完了する。
ウソゴトさんは、戦闘も決して上手では無い。戦術も上手では有るけれどランキング上位には決して及ばない。
けど。
「さあ、頑張ってください。グラシブさんはちょっとお馬鹿ですけど、とってもお強いので、ここであの小バエを落とせば城を制圧完了です」
有象無象の軍団をまとめ上げ、負け濃厚のクソみたいな空気すら吹き飛ばせる。そんな輝かしい光が、彼女にはある。
「俺たちの勝ちだ」
矢が放物線を描き。人影が霧散する。
残った最後の一人、リーダー風の男が立ち止まり。そして、こちらに再度反転した。
勝敗は諦めて。俺のキルを取りに来たのだろう。覚悟を決めたのか、諦めたのか。どちらにせよ彼は全力だ。
「一勝一敗ってことにしてやるから、このマッチでの決着をつけようじゃないか、なあ」
「クソ、余裕ぶりやがって。気に入らねえ」
相手も上空に居ることに、アドバンテージがないことを察したようだ。地上でお互い足を止め向かい合う。射程はこちらが上だ。弾を当てればこちらの勝ちだろう。相手は左右の移動の他に低空での空中機動がある。遮蔽物がある分、上空にフワフワ浮かんでいるときよりも当てにくい。
「チッ」
胴体に一発当てたところで相手もこちらを射程範囲に収めている。こちらが残弾の続く限り打ち続けられるのに対して、相手の装弾数は4発。
相手の射撃に合わせて前に飛び込む。銃弾は頭上を飛び越えて、こちらも弓に矢をつがえた。残り3発。立ち止まっての射撃でなければ遠距離では真っ直ぐ矢を飛ばすことが出来ない。だが逆に近距離まで入り込めば、多少狙い通り飛ばなくとも確実に命中する。
更に二本、矢を胴体に打ち込み、後1、2本当てればこちらの勝ちだ。
さあどうする。チマチマ撃っていてはこちらには勝てないぞ。このステータスで走れば当てるのは難しいだろう。一度引くか?
こちらが矢をつがえたところ、男がこちらに走り出す。奴の銃口はこちらの頭部を狙っている。なるほど、接近すれば当てやすいのは相手も同じ。足りない火力を補うためのとうぶめがけたフルバースト。
ガガドン っと銃声が響く。
「なにぃ」
弓で相手の腕を下から打ち上げる。銃弾は虚しく上空に消えた。
「忘れたのか。初めから、近接では散々負けていただろう」
「そんなの反則だろうが」
「文句は、遠距離武器でも近接ダメージを設定した運営に言うんだな」
相手の首を挟むようにつかみ取り、天地を返し、相手の頭を地面にたたきつけた。
「うへえ、グロ。終わったよー、ウソゴト」
「お疲れ様でした。グラシブさん。」
VICTORY
MVP grass seed civ