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15話

 旧友に叱咤され。どちらかといえば活を入れられたみたいな感じだけれど、かと言ってウジウジとしていても仕方がない。

 この程度ケンカですらなく、以前チームとして活動していたときは、お互いもっと口汚く罵り合ったものだ。そんなよくある一幕ではあるのだけれど、あのおとこの心からの言葉である事も分かる。今の俺の暮らしは、あれから見ればさぞむずがゆく、いらだたしいのかもしれないが。かと言って、俺がプロに復帰するかと言えば別問題だ。

 せっかくの初日にリアル事情で新作タイトルを萎え落ちなんて気持ちが悪いし。まあ様々言われるのは、引退するときに起きていた騒動で慣れたものだった。

 もし、もし仮にプロに復帰するとしても、このデザイアリミットブレイクをメインでプレイするのなら更に攻略をするのは必須事項な訳で。このあとうっかり再会してしまったとしても、仏頂面で笑いかけてくる事だろう。


「それはそれとして、結構疲れた。慣れればもう少し長時間コンディションを保てるかな」


 モチベーションはともかくとして、初めてVRをプレイする人は、度々VR酔いを起こして疲れたというか気持ち悪くなってやめてしまう人も居ると言う。俺はそんな事になった事は一度も無いが、初めて彼らに少し共感することが出来るかもしれない。

 このデザイア・リミットブレイクは、現実時間から10倍の時間で進行している。

 チュートリアルをこなしたり、ボスを倒したりと、プレイ時間は7時間を超えた辺りだが、現実ではその10分の1、リアルではまだ1時間も経過していないはずだった。

 ただ10倍の速度で脳みそを使っているようなもの、胃や詳しい仕組みは全然知らないのだけれど、リアルで7時間連続で王礼する以上の疲労感だった。

 理論上はゲーム内で10日連続でプレイしても問題は無いそうだけれど、

 マザーゴブリンを2体マスピッグゴブリンを1体、計ボスクラスを3体、それに加えスケルトンのドロップを狙ったマラソンで経験値を得レベルも上がった。ステータスがバランス良く上昇しているが、レベルでは全く変化しないステータスが存在する。いわゆるスタミナだった。

 そのスタミナの残量はまだまだ余裕はあるけれど、スタミナの残量を高く保つ事は重要らしい。


「ルノース」


「はいさ」


「どこに行ったらスタミナを回復させられる施設があるかな」


「うーん。まだ、見つけていない場所は案内できないんだけど、そういう建物がありそうな所はもう知っているんじゃない」

 

 その下には地下牢でおなじみ、デステマリアの塔から伸びる大通り。どこかの魔女もここらに住まいを構えれば良いのに。プレイヤーもフィールドからぼちぼち戻ってきているみたいだけれど、あふれるほどではなく。少し防具が立派になって個性も表れていた。

 目的の建物はすぐに見つかった。いかにもな立て看板はかなり目立つ、他にもグレードがあるのかもしれないが、とりあえずその建物の中に入った。


「いらっしゃい。1泊500ヒエロ」


 少しぶっきらぼうなのは元からだろうか。プレイヤーが悪さしたのでなければ良いけど。高級店じゃない客商売なんてそんなものか。昼間から薄暗い中、恰幅の良い女性が出迎えてくれた。

 スタミナを回復する施設とはつまり宿屋である。


「ヒエロ。ああ、お金ね。いち、じゅう、ひゃく、せん、所持金は36万か。以外と一泊安いんだな。まあ、宿の値段は段々と上がるものだし、いつまでこの値段かは分からないけれど。はい、これでいいかな」


 スタミナの上限値は100。ゲーム内時間で3日ほどで完全に0になり、ゲーム的には攻撃力や防御力と言ったあらゆるステータスを0にする。これは特定の手段でしか回復せず、上限が増えることもない。それもそのはず、これは一種の安全装置だった。つまり睡眠せずに行動可能な上限値である

 現実では僅かな時間だったとしても脳はやはり疲れるもので、強制的にログアウトさせたり、めまいや眠気のような不快感を伴う作用はないが、特に理由が無ければ一度長時間ログアウトするか、ゲーム内で睡眠を取るのが好ましい。

 今俺が感じている睡眠欲は、本来発生しないものだ。ハード、VRシステムからの警告もない。だからこれは、まだこの世界に順応出来ていないということなのだろう。だが無理をすることもあるまいて。特に今日は深夜0時からロケットスタートしている事もあって、システム的には問題なくとも、休憩がてら試しにスタミナを回復してみたかったのだ。


「あいよ。1泊だね、説明を聞いていくかい」

 

 案内された一室は質素ながらも清潔で、中世らしからぬ様だったが、コレなら快適に眠ることが出来そうだ。

 このゲームでは宿屋やキャンプで睡眠を取ることが出来る。睡眠に派ゲーム的な価値もあって。どちらも、使用するためにゲーム内マネーが必要になるが、より良い設備で睡眠を取ればゲーム的にも少し獲得経験値が増えたりするみたいだ。今はそんな金銭的な余裕はないのだけれど。

 なら、スタミナも所持金も尽きてしまったプレイヤーはどうするのか。町の中でも外でも、一部のエリアでは野宿をすることが出来る。もちろん無料で。救済処置として用意されているのだろうが、普段から利用するのは望ましくない。

 町の外なら一定確率でデスポーン、町の中では所持金をランダムな金額ロストしてしまう。装備を落とさないだけ温情、いや、装備を集めるゲームで装備ドロップは鬼畜過ぎるだろうか。せめて俺のジョブのようにやり返す手段がなければクレームものだろう。足の引っ張り合いで賞金どころじゃなくなるに違いない。

 相手をキルしログイン不可にするだけで、pkは妨害として凶悪なのだから。

 最も、この値段設定なら、早々町で野宿をしているようなプレイヤーには出くわさないのではないだろうか。


「やりようによっては金も稼げそうだけれど、今はまだ難しいな」

 

 そう、一応俺のジョブにはpkされたとき相手に復讐する手段があるのである。


 現在、俺のステータスはこうだ。


  再起する者(リベンジャー) Level15


 HP      1205/1205

 MP 370/370

STR(筋力)  114

 INT(知力)  94

 DEX(俊敏性) 167

 DPS(攻撃力) 1874

 DEF(装甲)  29


 

 スキル


 アクティブ


 死の烙印 Level3 new

 赤の烙印 Level2 new


 パッシブ


 亡者の怨念 new

 再充填(リロード)  new


 新たにスキルが増えたことで、スキルの項目が分割されている。1つはスキルを自らの意思で起動することで効果を発揮する、アクティブスキル。1つは常に効果が発揮されるか、特定の条件を満たすと自動的に発動される、パッシブスキル。

 アクティブスキルには今まで使っていた烙印に加え、ウソゴトさんのスキルや、モンシロのエンチャントもコレに当てはまる。俺の烙印は特定の効果を発生させるツールを生産するスキル。ウソゴトさんは自身に効果を付与し、モンシロは武器に効果を付与する。どれも性質も効果時間も異なるが、全てがクールタイムが溜まっている限り任意に発動することが出来る。

 それらはどれも強力ながらも、補助的な効果が多い。攻撃的な能力はやはり武器のスキル、記憶(メモリー)に設定されている。強力な武器のメモリーを集めること。それが今後の課題だろう。

 そしてパッシブスキルに追加された新たな2つ。亡者の怨念とリロードは、任意に発動することが出来ない。条件を満たすことで自動的に効果が発揮させれる。亡者の執念はリキャストが存在しない代わりに、発動条件が厳しく。リロードは発動条件が容易なかわりに、再発動までに少しのリキャストタイムが存在していた。

 亡者の怨念は名前通り非常にシンプル、死の烙印の能力を延長する力だ。本来死の烙印の力は、周囲で死亡したプレイヤーや敵モブを使う必要があるが、これは過去に殺されたキャラクターへ遡って死の烙印の力を使うことが出来るようになるのである。

 死の烙印は骨を削り出して作られたような不気味な短剣を呼び出すスキル。短剣の攻撃力はさほど高くないが、死体に対して使用することができ、それを殺した人物、同じパーティーメンバーなどをマークする。マークされた対象は、スキルレベルが2になり1分の間、壁などの障害物を無視してハイライトされる。更に俺のマップが埋められた場所であれば、その後数日赤い光点で位置を見ることができる。更にレベル3では、その名前、職業名を閲覧することができる。

 つまり、プレーヤーキラーをあぶり出すのに非常に優秀なスキルへと進化したのだった。

 ただ亡者の怨念は直接戦闘能力が上がる能力ではない。再充填はそれを補って余り有るほど強力なスキルだ。

 再充填のテキストはシンプル、現在召喚している武器の記憶解放を即時使用可能にする。銃や機械弓に弾を込めるように、武器スキル、記憶もリキャストタイムを無視して発動待機状態に移行させる。

 あれ、この世界って銃はともかく、弓や魔法系みたいな遠距離戦闘職ってあるのだろうか、魔女や魔術があるぐらいだから、ジョブ自体はあるのだろうけれどデステマリアの町中で、そのような風貌のプレイヤーは見てない。

 ともかく、この再充填は弓だろうが剣だろうが槍だろうが機能する。条件させ満たせばだ。

 条件とは一度に最大HPの15%以上のダメージを持つ攻撃を剣で受け流すこと。ほとんどの雑魚ではこの条件を満たすことはない。剣では強力な攻撃をシャットアウトすることは出来ない。この条件を満たすためには、ボスの強力な攻撃や記憶解放(メモリーリリース)を受け、そして上手く凌ぐ必要がある。

 条件は厳しいが強力無比。今後はこのスキルが活かせる武器を優先して装備する事になるだろう。

 起きた後にやるべきなのはその辺りの情報収集だろうか。

 何せ、この町の周囲について俺はまだ何も知らない。正面にある大門が確か北だったか。北にはピッグゴブリンの集団。東にはフィン達が住む森が広がり。その麓には共同墓地。町中もまだまだ探索不足だし、南と西には何があるかすら知らない。

 現在装備しているエクスキューショナーも悪くはないが、どうも基礎攻撃力ばかりを重視しているからか、問題のスタンの有効性もいまいちだった。マスピッグ戦ではそれで随分と助けられたけれど。あれ、助けられただろうか。そもそも俺の火力がレベル相応なら、一当てして無謀を悟り、そのまま撤退していたのでは。

 何か、知らなくて良かった真実を知った気がしたが。まあ良し。

 

「この手のゲームでの、強力な武器を手に入れる方法は昔から決まっているんだよね」


 ナビのコンソールの中から、外部ツールをゲーム内から起動する。

 ゲーム専門情報交換掲示板。SNSのようなオープンなコミュニティーに比べ、ゲームアカウントと紐付けが必要な、よりコアなプレイヤーが集まるサイトだ。

 既に随分と盛り上がっているらしい。

 

 【デザイア・リミットブレイク】5 ボス討伐

 

 579 名無しのデザイアプレイヤー

 結局、誰かマスピッグゴブリンの所在確認した奴はいないの


 580 名無しのデザイアプレイヤー

 初心者から情報奪おうとすんなカス

 自分で探せ


 581 名無しのデザイアプレイヤー

 まあ、普通にデステマリア北周辺だろ

 他の町でスタートしたプレイヤーは居ないみたいだし


 583 名名無しのデザイアプレイヤー

 けど、町から出て行った最速組が、町の外からプレイヤーがやって来たって話があるんだよなあ



 既に、盛り上がっているな。これだけ多くのプレイヤーが居るならそのうち誰か食いつくだろう。



 592 grass seed unlimit

 記憶のリキャストが長く強力な武器の情報を買うよ

 ゲーム内マネーで1振り10万まで出す

 起きたら確認するから、ここに書き込むか個人チャットに連絡よろ


 593 名無しのデザイアプレイヤー

 本物じゃねえか


 594 名無しのデザイアプレイヤー

 おい、寝るな


 595 名無しのデザイアプレイヤー

 まさかの、本人降臨。


 このサイトでは、設定によってゲーム内の名前をそのまま利用することが出来る。今、俺の名前はワールドアナウンスで、誰でも知ってる有名人。情報にもそれなりに期待できるだろう。

 そこら辺を一斉に管理してくれる人か何かが居ると楽なんだが。一人でそういう人材を雇うのは難しい。

 情報が出そろうまでは時間がかかるだろうし、難しいことは起きてから考えることにしようか。

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