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11話

 sideウソゴト


 敵の力は圧倒的だった。そして、私の前で戦っている二人はそれを上回っていた。

 威圧感の凄い攻撃には、モンシロさんも(てこ)()っていたようだけれど。絶妙なタイミングで、グラスさんがマスピッグゴブリンの足を止めている。攻撃をして視線を奪い、モンシロさんのアシストをして、相手の攻撃を全て一身に受け全てを回避する。タンク職のまねごとまでしている。

 こう言っては失礼だが、私の目にはトッププロであるモンシロさんよりも、グラスさんの姿が、輝いて見えた。

 想像の10倍ほど攻略は順調で、この二人はマスピッグゴブリンをなんだかんだと倒してしまうのだと思っていた。

 何せ私なんかが居ても居なくても何にも変わらなくて、少しばかり強引だけれど完璧な連携を見せつけられた。この二人の間に私の居場所は存在していない。

 そんな、失礼な事を考えていたのがいけなかったのだろう。空白の意識の中、その光景をぼんやりと眺めていた。

 分裂。突然の出来事に、私は反応できず。モンシロさんに庇われてしまった。何をやっているんだろう私は。

 グラスさんが新たに生まれた。ピッグゴブリンに囲まれている。モンシロさんが、グラスさんを助けようとするけれど。


「モンシロ。問題ない。お前はそっちをなんとかしろ」

 

 グラスさんはそれを否定する。別にいくら二人の中が微妙だからって、意地で断っているのではない。本体であるマスピッグゴブリンをなんとかしなければならないと言うことは私にだって分かる。そして私には足止めすら出来ない。だからモンシロさんが、相手をする。簡単な理屈だ。

 モンシロさんは迷うそぶりもなく、すぐにマスピッグゴブリンに向き直る。今まで二人がかりで戦っていた相手。一人で勝てるわけないのにそれでも立ち向かって行っている。

 私には出来ない。何も出来ない。

 グラスさんは、私のことをどんな時でもチームを明るくするなんて言ってくれるけれど、それは全て見栄っ張り。ただ、グラスさんや皆に、暗い顔を見られたくなかったから。明るい道化を演じて見せただけだ。

 どうしてこんなにも私は弱いのだろう。私もグラスさんみたいにならたら良いのに。


『赤の烙印』


 全ての敵に赤い紋章が刻まれる。グラスさんの赤の烙印。よく見ると、早くもピッグゴブリンを1体倒してしまったらしい。ダメだな、ドンドンと視野が狭くなる。自分で戦うのと、誰かに指示を出すのでは全く違う。グラスさんはいつもこんなことを、コレではグラスさんをバカに出来ないな。

 

「元から尊敬してるんですけどね」

 

 特殊なストラテジーゲーム、文明特異点。きっとあのギルドで一番下手だったのは私だろう。グラスさんは特別苦手としていたみたいだけれど、それは本気じゃないからだ。他のゲームも同時にやっているグラスさんと違い、私は1つのゲームを続けていたにもかかわらず、戦闘ではグラスさんよりも弱かった。

 ストラテジーゲームなんだからそんな事を気にする必要は無いとグラスさんは言ってくれたけれど、そんな言い訳は通じない。それなら文明特異点以外のもっと純粋なストラテジーをやればいい。何より私自身が悔しいと感じていた。

 私はグラスさんに勝ったことが1度も無い。

 グラスさんがトッププロに匹敵する程のプレイヤーと言うことを知ったのも、そんな流れでグラスさんによく絡んでいたからだった。

 一度聞いたことがある。グラスさんは何故プロにならないのかと。

 今に思えば、失礼な質問だけれど、私はグラスさんが無名であることがどこか悔しく、そして才能があるのにプロにならないグラスさんが嫌いだった。

 そんな私に少し困った様子で、ただ一言、「挫折したから」っと答えてくれたのだった。

 だからこそ。

 私は、このゲームをグラスさんとやりたかった。このゲームなら、グラスさんは最強だと。そう思えたから。私は最強のグラスさんを見てみたかった。最強になるところを見てみたかった。

 けれど、グラスさんにも勝てない敵が居ることをこうして思い知らされる。


「もっと、戦い方。詳しく教えて貰うんだった」


 コレじゃあ何の役にも立てないや。

 

「ウソゴトさんがモンシロを助けろ」

 

 声がした。

 思考を切り裂く声がした。

 一拍おいて、やっと言葉の意味を飲み込める。

 私、なんで。私は召喚(コール)も出来なくて攻撃のほとんどを引き受けて貰っても、ちっとも近づく事が出来ないのに。ましてやグラスさんと、モンシロさんの連携みたいな事はとてもできっこない。

 私になにができるっていうの。


「ストラテジーと同じだ、自分の手札を見つめ、相手の戦力を分析しろ。インプットが終わったら体を動かせ。そして全力で楽しんでみろ」


 楽しんでみろ。

 バカ言わないでくださいよ。

 私はグラスさんじゃ無い。

 そんな事言ったって何も出来ませんよ。

 なのに、私を頼ってくれるんですね。


「アハ」


 なんだか、絶望的すぎて笑えて来てしまう。一周回って楽しくなってきた。かも知れない。

 

「ああ、もうしょうが無いな。どうなっても、知らないですからね」


 ダメダメながらも、今できる、私の全力を。

 

「ノーマルレンジャースキル、『シンプルハイド』」


 なんてことはない、ただ私の事を認識しにくくなるだけのスキル。一度戦いが始まってしまえば、完全に隠れることも出来ない。特に1v1では、少し影が薄くなるぐらいで何にも出来ない。ありふれていて、強力でもなく、けれど今はコレしかないから。

 モンシロさんも頑張っているけれど、何時の間にか『エンチャント・クロス』が解けているせいで避け切れていない。

 私じゃあ、攻撃を避けられないし、ほとんどダメージも与えられない。けど。

 モンシロさんが、『エンチャント・クロス』を最大までかけ直すきっかけを作ることぐらいは出来る。

 スキルを使用して隠密状態からの一撃は、隠密、攻撃、隠密といったような、一方的なハメ技。ヒットアンドアウェイを防止するために、優先的に敵から狙われる。

 それが良い。

 大した火力を出せなくても、私画ヘイトを奪える。私は確かにここに居ると、叫ぶことが出来る。マスピッグゴブリンと私は、その瞬間初めて確かに目が合った。

 コレでも私、説明書はちゃんと読んでから遊ぶ派なんです。

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